詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

加藤治郎『海辺のローラーコースター』

2022-09-14 09:31:04 | 詩集

加藤治郎『海辺のローラーコースター』(書肆侃侃房、2022年08月20日発行)

 

 

 加藤治郎『海辺のローラーコースター』。まだ、読み始めたばかりだが。

息、きらし、息をきらして、霧の中から駆けてきたのは、紺のズックだ

 書きたかったのは、「き」の音の響きか。それとも「紺(のズック)」か。私は読みながら、迷う。私が読みたいのは、はっきりしている。「き」の音楽だ。「霧」と「紺」は、私の視覚では、どうもなじまない。好きなのは「黄色」だ。テオ・アンゲロプロスの黄色い雨合羽。何の映画だっただろう。霧の中を黄色い雨合羽を着て、自転車に乗った消防隊員(?)が走っていく。とても、美しい。だから、「黄色いズック」の方が、もっといいと思う。「紺のズック」だと霧の底へ向かって駆けていく(消えていく)感じがする。

消しゴムでうすい文字消す手帳には予定未満のレモンいくつか

 「予定未満」と「レモン」の脚韻が美しい。加藤は、短歌で音を楽しんでいるのだと思う。

目の前にあなたがいればそのうちって言葉はきっとひかりのなかにある

 「うちって」「きっと」。「うちって」という口語がとても効果的だ。

装飾がリアリズムを凌駕してクリムト展はゆうばえのなか

 「リアリズム」「凌駕」「クリムト」の「り」の動き。でも、「凌駕して」は、かなり作為的な気がする。作為であってもかまわないのかもしれないが、意味が強すぎて音楽になるのをいやがっているように、私には聞こえる。

キラ・キラ・キラではなくてキラ・キラキラなんです。きみの未来は

 「未来」と書いて「みき」と読ませる名前があったなあ、とふと思い出した。「未来(みらい)」では意味が強すぎるような気がしてしまう。
 で、その「意味」。強すぎる、と書いたが。
 なんというか、「未成年/思春期」の「意味」というか、初めてであった「意味」のような感じがして、私は、かなりとまどう。
 加藤治郎のことを知らなかったら、私は、クリムト展以外は高校生の短歌だと思うだろうなあ。高校生は「凌駕して」なんて、言わないだろうなあ、と「偏見」を持って判断するのだが。

消しゴムの角がちょっぴり黒ずんで、あしたの席を予約している

 これ、女子高校生が、隣の席の、欠席している机を見ながらつくった短歌かなあ、と思ってしまうのだ。あしたは、必ずそこに座ってね、と「予約」をいれておく、という感じ。「予約している」よりも「予約しておく」の方が、女子高校生の欲望に近いかなあ、などということも思ったりする。
 私は短歌を主体に読んでいるわけではないから、テキトウに、なんでもかんでも、思ったままに書くのだ。

はじまっているのが分かるしばらくは林檎のあわいりんかくである

 生理がはじまった? それがなんとなくわかる。女子高校生か。「林檎」と「りんかく」の響きあいがいいなあ。「わかる」と「りんかく」の「か」が呼び掛け合うのは、あいだにある「あわい」の「意味」の影響かなあ。「ぼんやり(あわい感じで)わかる」と、私はつなげてしまう。

雪になるかも窓がとっても冷たくてきれいなレモンもっとください

 これも女子高校生を主人公にしたい。「とっても」「もっと」。この響き。でも、ほから、雪が近づく窓の灰色、黄色いレモンが似合うなあ。やっぱり、灰色には黄色。ここは林檎やイチゴではなく、レモンに限ると思う。

頭の上に飛行機雲がふくらんでへんてこと言うりんと続けて

 これいいなあ。「へんてこ」と聞いた瞬間に「へんてこりん」と思い出す。そのスピードで「りんと続けて」がやってくる。「ふくらんで」という間延びした感じとの対比がとても効いている。

冬のプールに水みちている小学校にひとり立ち居りここは記憶か

 うーん、これも高校生の感覚かなあ。でも、「女子」という限定は消える。

もうちょっと空調なんとかならないか新生児室肉体あまた

原子力潜水艦乗組員が殺し合って北極海の底

 64ページの、この対比、好きだなあ。原子力潜水艦の歌がなくても「新生児室」の歌はいいなあ、と思う。「肉体」のなかに、早くも死の匂いがする。それが、すごい。赤ちゃんを産んだ女性には申し訳ないが。

 

 

 

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