詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

中井久夫訳『現代ギリシャ詩選』読む(21)

2023-07-26 23:18:17 | 中井久夫「ギリシャ詩選」を読む

 「アレクサンドリアの王たち」。クレオパトラの子ども(兄弟)がアレクサンドリアにやってくる。王になるために。市民は歓迎する。だが

これはみんな言葉、みんな芝居さ。

 新しい王に捧げられたことば、歓迎のことば。それはことばにすぎない。芝居だ。意味は、そうなるのだが。
 私には、その前に書かれた王の服装が「言葉」「芝居」に感じられる。ふたりには何の人間的魅力もない。だから服装を華麗なことばで語るしかないのである。市民の態度よりも、詩人の態度(詩の書き方)が、「真実」を雄弁に語っている。
 それにしても、不思議。
 最終行では「空っぽの言葉」という表現がつかわれているが、その「批判」が強ければ強いほど、私はなぜか、その「芝居(空っぽの言葉)」の美しさに惹かれてしまう。そこには、何か陶酔がある。それは二人の兄弟が味わった陶酔かもしれないと感じてしまう。権力者は陶酔のなかで失墜する、ということも思ってしまうのだった。陶酔を誘うことばは危険だ。それとも陶酔することが危険なのか。

 

 

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最相葉月『中井久夫 人と仕事』(宣伝です。)

2023-07-26 21:19:57 | 詩集
 

 

最相葉月『中井久夫 人と仕事』(みすず書房)が出版された。
『中井久夫集(全11巻)』の「解説」に加筆し、一冊にしたもの。
表紙に中井久夫の描いた病棟の設計図をつかっている。
中井の人柄を感じさせるスケッチだ。
中井はことばの達人だが、同時に絵もうまい。
ということは、別にして。
(ここから、宣伝です。)
『中井久夫 人と仕事』に、私の名前が出てくる。(著作集3の「解説」に出てきたからである。)
読みながら、私は中井久夫との出会いを思い出した。
人の出会いというのは、ほんとうに不思議だ。
中井の訳詩についてなら、私よりも詳しい人がたくさんいるはずだ。そういう人たちとも中井は出会っているはずである。実際、著作集が出版される前のPRチラシのようなものには、私の知っている詩人が「推薦コメント」を書いていた。それを読みながら、あ、中井久夫はこの人たちと交流があったのか、と思った。
私は「解説」などはめったに読まないので知らないのだが、他の人の「名前」も中井について書かれたいろいろな文章で出ているかもしれない。
私はたまたま自分の名前に出会って驚いたのだけれど、それは単に名前だけではなく、最相が聞いたからなのか、中井が語ったからなのかわからないが、中井がことばにしないかぎりわからないことも書かれていて、それがさらに私を驚かせた。
あ、私はほんとうに中井に会ったのだ、とあらためて思った。私の記憶のなかにあるだけではなく、中井の記憶のなかにも存在したのだ。
実際に会い、ことばを交わしたのは2回だけだが、ほんとうはもっと長い間会っていたのだと再認識したのだった。
本屋で見かけたら、読んでみてください。
『人と仕事』の第三章、著作集3巻の「解説」です。
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