詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

中井久夫訳『現代ギリシャ詩選』読む(69)

2024-01-12 21:45:05 | 中井久夫「ギリシャ詩選」を読む

 「屈伏」。この作品も、映画の一シーンのよう。その一シーンの中にある、微妙な動き。それを、中井は、こう訳している。

髪は、二羽の大きな鳥のように肩に止まった。

 「髪は、」の読点「、」。
 これは、すごい。
 意味としては(情景としては)、この読点があってもなくても変わらない。前の部分を説明すると、女が窓を開ける。風が入ってくる。その風に吹かれた髪が……。
 ここで、大きな問題が起きる。
 その髪の動きを見ているのは誰か。詩人(リッツォス)が見た、と判断するのがふつうかもしれない。もし映画のシーンなら、観客がそれを見る。
 しかし、私は、違うと思う。
 この髪を見たのは、女なのだ。女が自分の髪が風に吹かれ動いたの見た。そして、「二羽の鳥が肩に止まった」と感じたのだ。「髪は女の命」とはギリシャでも言うかどうかは知らないが、髪に思い出があるのだ。だから、女は髪に、自分の髪の動きに目を止めたのだ。しかも、「すぐに」ではなく、「髪は、」と一呼吸がある。「二羽の鳥」は比喩だが、女自身も、そのとき「比喩」になっている。比喩になることによって、女自身であるよりも「感情」が強くなっている。感情がより鮮明に動き始めている。
 どう動いたか。
 それは後半に書いてあるのだが、五行の詩の中に、一回だけあらわれる読点の、絶大な力。中井の訳は、ほんとうにおもしろい。
 ついでに書いておけば、ギリシャ語(原典)を知らずに書くのだが、リッツォスは読点を書いていないと思う。中井が女の「呼吸」を感じ取って、女とシンクロして、読点を書き加えているのである。ここに、中井の誰にもまねすることができないすごさがある。

 

 

 


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Estoy Loco por España(番外篇424)Obra, Jesus del Pesos

2024-01-12 11:37:31 | estoy loco por espana

Obra, Jesus del Peso

 Cuando miro esta obra bidimensional (pintura) de Jesus, me parece el plano de obra tridimensional. Y, aunque nunca me he entrenado en la lectura de "plano" (tal vez porque nunca me he entrenado), el trabajo bidimensional me parece ser tridimensional. Es decir que la pintura me parece más tridimensional que la escultura (obra tridimensional) colocada frente a la pintura. Además, el cuerpo sólido (la pintura) se mueve en mi cabeza. El objeto tridimensional en mi cabeza se mueve a medida que se desarrolla el "plano". Aunque esta escultura está hecho de hierro, es tan ligero que no parece hierro.
 Todas las obras tridimensionales (esculturas) de Jesus son extremadamente ligeras, quizás porque sus "planos" persiguen la ligereza al máximo. En el "plano", se diseña el "movimiento", no la "forma" del objeto tridimensional. Movimientos mecánicos como aviones y coches de alta velocidad.
 
 Jesus の平面作品(絵)を見ていると、まるで立体作品の「設計図」に見えてくる。そして、私は「設計図」というものを読み取る訓練をしたことがないのだが(訓練をしたことがないからなのかもしれないが)、その平面作品が立体に見えてしまう。絵の前におかれた彫刻(立体作品)よりも、絵の方が立体に見えてしまう。しかも、その立体は動くのである。「設計図」が展開している形に、私の頭のなかにある立体が動いていく。鉄なのに、鉄を感じさせない軽やかさで。
 Jesus の立体作品(彫刻)は、どれも非常に軽やかだが、それは「設計図」が軽やかさを極限まで追求しているからだろう。「設計図」のなかに、立体の「形」ではなく「運動」が設計されている。飛行機や高速の車のような、メカニックな運動が。

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