詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

吉田義昭「余命」

2024-01-14 21:47:27 | 詩(雑誌・同人誌)

吉田義昭「余命」(「みらいらん」13、2024年01月15日発行)

 吉田義昭「余命」は「正しい土地で死にたい」という一行で始まり、何度も「正しい」が繰り返される。

正しい死に方で死にたい
余命三ヶ月
なかなか日も暮れていかない
正しい黄昏の時間なのか
波打ち際を漂っていた彼が
波音に消され語りだす声
私に語りかけてはいない

 「正しい死に方で死にたい」の「正しい」は彼の言った「正しい」。一方、「正しい黄昏の時間なのか」は吉田が考えている「正しい」。それは、一致しているとは言えない。それは吉田が、彼の言った「正しい」を正確に受け止めていないからだ。「正しいって、いったい、どういうことなんだろう。何が正しいのだろう」という疑問が吉田には残っているからだ。
 では、いったい彼が言いたい「正しい」は何なのか。それは「正しい」としか言いようのない何かである。彼には「正しい」ということばしか思い浮かばないのだ。彼は「正しい」を納得している。しかし、それを別なことばで言いなおすことはできない。
 この「正しい」は、最後の最後で、少しだけ変化する。

余命三ヶ月
正しく決められた日に
私は愚かな友の弔辞を読むだろう

 「正しい」ではなく「正しく」。このときの「正しく」は誰が判断した「正しさ」なのか。私は「彼」が決めたのだと思って読んだ。「彼」が決めたのだが、その定義がはっきりとはわからないから、吉田は「正しく」と言ってしまう、書いてしまうのだ。
 このどうしようもない間違いの中に、人間が生きていることの切なさがある。私たちは他者を理解できない。しかし、理解できないけれど、近づき、いっしょに生きなければならない。
 別なことばで言えば、吉田のこの「正しい」を「正しく」と間違えてしまう間違え方の中に、吉田の「正直」がある。私は泣いてしまった。

 

 

 

 

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中井久夫訳『現代ギリシャ詩選』読む(71)

2024-01-14 21:18:54 | 中井久夫「ギリシャ詩選」を読む

 「仕事を果たす」。「仕事」は何を指しているか。読者の想像力に任されている。

木の葉が一枚。その微かなそよぎ。もうそこからおれは入れる。

 「そこ」とはどこか。これも読者の想像力に任されているのだが、「そこへ入ること」、それが「おれの仕事」だとわかる。それは誰もができる仕事ではない。彼にしかできない。
 詩は「そこ」を起点にして、劇的に変化するのだが、この劇的な変化の前に、「木の葉が一枚」と書き、それを「その」で受け止めながら「微かなそよぎ」へ「入っていく」という運動がある。すでに運動が始まっていて、そのあとで「そこ」からということばがつづく。この畳みかけるスピードが、読者の想像力を引っ張っていく。すべては読者の想像力に任されているのだが、一方で、その想像力は強い力でリッツッォスに引っ張られている。この呼吸を、中井は句点「。」を多用することで「演出」している。
 映画で言えば、「長まわし」ではなく、非常に緊張感のある一瞬のカットの連続。切断されているのだが、それがあまりにも緊密なので連続して見える。そういう手法だ。

 

 

 


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