熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

先進国以外で高級品が売れるわけ・・・市場も経済も二重・平均国民所得の罠

2005年12月28日 | 政治・経済・社会
   伊藤元重教授との対談で、キッコーマンの茂木友三郎会長が、醤油はグローバルスタンダードな調味料で、日本の醤油の醸造技術は世界一で、中国では現地醤油の価格が5~6倍でもキッコーマンは売れるのだと語っている。
   少子高齢化で、口数が減る上に、老人増で消費が減り、醤油の需要増は見込めないので海外に進出し、アメリカではシェアー一位になり、今や、海外での売上高23%で、利益の半分は海外で稼ぎ出していると言う。

   日本の市場では過当競争でしのぎを削り薄利であるが、その商品に競争力があれば海外で利益を上げていると言うのが、日本の製造業の大方の現状であろう。
   しかし、私が、ここで問題にしたいのは、海外市場でのマーケット・セグメンテーションで、平均国民所得・人口一人当たりのGDPで、その国の市場を判断すれば、戦略を誤ると言うことである。
   結論から先に言えば、発展途上国など、欧米などの先進国と比べれば、確かに一人当たりのGDPは低く生活水準等も低いが、このような国には、一部の富裕層と貧しい大衆、即ち、先進国と後進国が水と油のように同居した二重構造になっていることである。

   日本の場合、小泉政権になってから、機会の平等を進めた為に貧富の差や地域格差が拡大したと言われているが、欧米は別としても、中進国以下貧しい国での人々の貧富の差や地域格差は目を覆うばかりで日本の比ではない。
   即ち、一つの国に、例えば、中国を例に取れば、上海のような超先進国と奥地の田舎のような超後進国が同居しており、経済も商品市場も全く違ったセグメンテーションで動いていると言うことである。
   私は、これまでに、随分多くの発展途上国を歩いてきたが、何れの国にも、豊かな上層階級の金持ちが居て、隔離されたような高級住宅地域に住み、貧しい庶民とは違った別世界を謳歌しているのを見ている。

   分かり易い例をブラジルのサンパウロのホテル事業で考えてみたい。
   これは、このホテル事業の異常な成功で不動産事業に深入りしすぎて消えていったある建設会社の話で、ビジネスモデルの帰趨を物語っていて面白い。
   
   A社は、現地の建設会社G社と合弁で、ホテル会社を設立し、サンパウロの目抜きのショッピング街に土地を取得して、客室200室程度の小さなホテルを建設した。
   小さなホテルで公共的なファシリティも極めて限られた不十分なホテルではあったが、ホテルの建物と内部設備等ファシリティについては、それまでブラジルにはなかった最高級のものを目指してセットアップした。
   当時、ヒルトンなどの外資系や地元の高級ホテルは可なりあったが、冷暖房等設備等の機能は悪く、また、治安の問題があるなど顧客の満足度が低かったので、開業早々、客が設備の整った快適な新しいホテルに殺到して、連日、占拠率100%とかで、嘘か本当か初年度で資金を総て回収したと言う。
   ブラジルには、桁外れの一握りの金持ちがいたが、人口が多いので、新ホテルの顧客予備軍としては多過ぎるほどの数であり、世界中からブラジルブームで訪れたトップ・エクゼクティブを引きつけてたので、まさにこのホテルは人気絶頂であった。

   後日談だが、この建設会社は、この事業に味をしめてリオ・デ・ジャネイロ、パナマへとホテルをチェーン展開して、更に世界有数のホテルチェーンを買収して、日本各地でも高級ホテルの開発・建設を行ったが、バブルの荒波に飲まれて消えていった。
   ビジネスモデルは、必ずしも悪くはなかったのであろうが、あの未曾有の激動の時代に、翻弄されてしまったのである。

   台湾では、日本の高品質なりんごが高値で飛ぶように売れていると言う記事を新聞で読んだことがあるが、東アジアの金持ちは、欧米に比べて全く遜色のないほど豊かであり、その数はドンドン増えており、巨大な高級品消費市場を形成し始めている。

   一人当たり国民所得の高さは、その国の市場の成熟度をある程度示してはいるが、高級市場があるかどうかは別問題である。
   これからの日本の目指すべきは、これ等の豊かな人々をターゲットにした真似の出来ない付加価値の高い高級なモノやサービスを提供することではないかと思っている。
   コモディティ化するような、マスプロダクションや、安物を提供するのではなく、日本でしか開発できない、日本人しか創れない様な質の高いイノベイティブなモノやサービスを志向すべきなのである。

   その為には、中国など後から追いかけてくる国々でのマーケット・セグメンテーションを十分分析してターゲットを絞って対応すべきで、巨大な市場と言う観点ではなく、案外、二重市場の富裕層を狙った世界一のモノやサービスで勝負をする戦略戦術が有効ではないかと思っている。
   
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする