熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

御用聞きと出前の時代:百貨店の凋落

2009年05月18日 | イノベーションと経営
   先日、伊藤洋一氏の講演で聞いた一時代一技術:電気自動車時代の到来について書いたが、この講演はIT関連企業の主催であった所為もあり、伊藤氏は、IT時代の到来で、商業そのものが大きく変化してしまったことを語った。
   現在の商業は、江戸時代に主流であった御用聞き・出前の時代に回帰した。
   楽天やヤフーのネット・ショッピングは、御用聞き・出前そのものだと言うのである。

   富山の薬売りのように顧客を回ってものを売る時代になったのであって、立派な店舗を構えて、店に来いと言う時代ではなくなった。
   まず、第一に、若者の人口が大きく減ってしまって、老人の人口比率が増加の一途となると、店になど行かないから、百貨店など、いくら改装工事をして飾り立てても、閑古鳥が鳴くだけで、今、あっちこっちでばたばた潰れているように、百貨店の明日は限りなく暗いと言うのである。
   最近、コンビニさえ、老人たちの電話やネット注文を受けて、商品を自宅まで届けていると言うから時代も変わったものである。

   余談だが、最寄の京成の駅から、毎朝決まった時間に、大きな農産物の籠を背負った行商のおばさんたちが専用の特別車両に乗って行商のために東京に向かっている。
   時代の波に翻弄されながらも、律儀にお得意さんに新鮮な農産物を届けて、僅かな生活の糧を稼いでいる初老のおばさんたちの心意気に感じ入って見ているのだが、IT時代とは違った商売の原点が、まだまだ健在で生き続けているのであろうか。

   伊藤氏は、直接語らなかったが、レジメに、
   日本が勝ち組で有り続けるために、
   「品質」「低価格」「アイデア」「新奇性」がポイント。顧客の購買意欲刺激こそ商売の基本であり、「時代のせい」にすることは負けを意味する。ITの活用こそカギ。と書いている。
   顧客の購買意欲が減退し、需要が完全に落ち込んでしまった以上、起死回生を図るためには、新しい需要を生み出す努力をしない限りブレイクスルーはない。
   このためには、既に、ウイキノミクスやグランズウェル時代に突入して、インターネットなどのIT技術が猛威をふるって市場を席巻している以上、IT技術をフル活用して、新規需要を掘り起こすこと以外に道はないと言うことである。

   私の場合には、最近、贈り物をする場合とか、デパ地下とか、その他特別な買い物をする場合を除いて、展覧会は別として殆ど百貨店に行かなくなってしまったが、百貨店の楽しみは、店に行って、何か新鮮なわくわくするような楽しみなり出会いと言った魅力的な経験が得られなければ、殆ど魅力はないと思っている。
   企業相手の外商や特別な金持ち顧客を相手にすると言った上澄みのビジネスモデルで勝負を続けるなら別だが、若者顧客がネットショッピングに流れてしまい、老人が店に来なくなると、先は暗い。
   欧米で、新しいジャンルの商業ビジネスに蚕食されて、どんどん市場と顧客を失って、多くの百貨店が潰れて行った現実をつぶさに見ているので、なぜ、日本の百貨店が、離合集散を繰り返しながら、店舗を改装して品揃えを多少変える程度で、あいも変わらずに、同じビジネス手法を続けているのか、競争相手の市場を食う以外に、全く、道がなく、所詮ジリ貧で滅びて行くだけなのに、と疑問に思い続けている。

   私は、本の買い方だったら人様よりは分かると思うので、この視点から考えて見ると、大型書店が百貨店だとすると、いくら立派な工夫を凝らして飾り立て万巻の書籍を揃えて素晴らしい店舗を構えても、所詮は、アマゾンやネット・ブック・ショップに顧客を蚕食されて追い詰められてしまうと言うことである。
   まず、その前に、半分は、iPod革命と同じで、インターネットや携帯で読めるeブックの普及で市場を失ってしまう。
   私は、たまたま、東京近郊と言う場所に恵まれていて、素晴らしい大型書店にアクセス出来るので、両方を都合よく使っている。アマゾン以外にも使っているが、ネット・ショップでほぼ充足出来ると思っている。
   翻訳本や英語の書籍は、米国と英国のアマゾンの、特に、専門家やメディアのレビューを読めば、最も簡単に適切なブック情報が得られるので重宝している。(誤解を避けるために付記するが、日本のアマゾンのブック・レビューは、私自身は、完全に無視している。)
   本そのものもそうだが、知識情報の取得の多くは、インターネットで事足りる場合が多い。
   活字メディアだが、雑誌の廃刊・休刊が続いているが、この傾向は継続し、次には、大衆新聞などが、消えて行くだろうと思っている。
   
   もう一度、本題に戻る。
   伊藤氏が説くように、今の百貨店は、少しずつ時代の潮流から取り残されて行くとしか思えないのだが、
   アメリカで最も権威があり素晴らしかった書店であるバーンズ&ノーブルが、アマゾンの挑戦を受けて、ネット・ショップを開設したものの、共食い状態で苦渋を舐めていたが、
   百貨店のIT活用も、本業との競業を避けながら如何にビジネスモデルを変革しながら、明日への脱皮を図るべきか、難しい選択が迫られているような気がする。

   いずれにしろ、蒸気や電気のように、ゼネラル・パーパス・テクノロジーとなったITによって、完全に、経営環境が変わってしまった市場において、IT革命に乗って行けないとすれば、百貨店は、所詮、天然記念物になると言うことであろうか。
   
コメント (1)
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