熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

岐路に立つ"日の丸家電"

2014年01月28日 | 経営・ビジネス
   ”ムーディーズ:ソニーをジャンク級に格下げ-収益性回復に遅れ ”と言うタイトルの記事が、メディアを走っている。
   ブルームバーグが、次のように報じている。
   格下げの理由としてムーディーズは、ソニーがいくつかの事業分野では引き続き収益性を確保しているものの、「全体の収益性を改善・安定化させ、信用力を投資適格等級に相応する水準まで短期的に回復させる上で、困難に直面している」点を挙げた。特にテレビとパソコン事業が「財務上の課題」で、厳しい競争と製品の陳腐化に直面しているとの見方を示した。
   「プレイステーション(PS)4」を北米市場などに投入、ライバルのマイクロソフト と年末商戦を競うなどかなり善戦しているが、スマホの普及に伴いゲーム事業の将来に不安が広がってるほか、コア部門であるテレビ、携帯電話、デジタルカメラなどエレクトロニクス事業も収益が下方圧力にさらされている。 と言うのである。

   先日、NHKで、日本の貿易収支の3期連続赤字を報道していて、その時に、日の丸家電は、外国産の輸入品が、過半を占めていると報道していたが、最早、家電は、日の丸家電ではなくなってしまったのである。
   カメラだが、キヤノンは、かなり、Made in Japanが多いが、ニコンは、Made in Thailand。とにかく、最近では、Made in Japanの工業製品を探すのが難しい。何十年か前にドイツで買ったライカR3サファリは、Made in Portugalだったが、あの時は、ライカのプロダクション・シェアリング戦略で、世界中から最高の部品を集めてポルトガルで組み立てていただけで、今の日本企業の空洞化とは違う。
   亀山モデルで一世を風靡したシャープが谷底に転げ落ちて以降、中村改革で起死回生を図った筈のパナソニックが、再び、奈落の底を垣間見たかと思ったら、案の定、ソニーが、ジャンク級の企業に転落してしまった。

   
   私は、ずっと以前から、テレビやビデオ・レコーダーなどのコンシューマー・エレクトロニクスは、最早日本の傾注すべきメイン産業ではなくなっており、歌を忘れたカナリア、すなわち、破壊的イノベーションを生み出せなくなってイノベーターでなくなってしまったソニーの将来は極めて暗いと、このブログで、色々な学者や識者の見解を紹介してコメントしながら、警鐘を鳴らし続けてきた。
    あのアイボを売却してロボット産業から撤退して、コモディティ化の最たるテレビなどをコアとして再生を図り、コスト削減に走り過ぎて、虎の子の技術やイノベーション志向の優秀な技術者を放出した段階で、最早、再建は有り得ないと思ったのを覚えている。
   もう一つ、ソニーは大企業になり過ぎて、創造性豊かなイノベーターとしての活力を失い、経営革新で最も重要な筈の組織が、既に制度疲労して、企業が有効に機能しなくなってしまって、誰が、トップに立っても、特に出井CEO以降、そして、如何に素晴らしい経営戦略や戦術を打とうとも、経営組織体として動かなくなってしまっていることである。

   アメリカの製造業を見れば分かるが、時代の潮流に乗れずに一度窮地に立った企業で、生き延びた企業はなく、GEやIBMなどは、根本的かつ抜本的な企業変革を遂げて生き延びていて、これなどは稀有のケースで、飛ぶ鳥を落とす勢いであったインテルやアップルでさえ、今では、影が差している。
   イノベーターとして成功して覇を競った超優良企業であっても、クリステンセンが説くまでもなく、何度もイノベーターとして成功を遂げた稀有なソニーでさえ、凋落する。製造業の覇権と言うものは、そう言う運命にある。

   私は、これも何十年も前の話だが、留学でアメリカに渡った時に、現地で買った文房具や雑貨など、あるいは、食器や衣服まで、殆ど外国製品で、Made in USAを探すのが難しかったのに、ショックを覚えたのを思い出す。
   グローバリゼーションと言う言葉さえなかった時代だったが、アメリカ人は、安くて良いものなら、Made in Americaには拘らなかった。
   そんな時代が、日本にも、やっと、巡って来たと言うことなのであろうか。 

   
   今、アベノミクスの一環として、好循環を始動させるために、賃上げが叫ばれている。
   お題目としては、非常に良いことで反論の余地はないのだが、私自身は、賃上げと同様に、政府主導による格差の縮小が、重要課題だと思っている。
   このままでは、益々経済格差が拡大して経済社会に齟齬を来し始めるので、成長戦略遂行と並行して、セーフティ・ネットのレベル・アップなど厚生福利経済政策に注力しなければならない。

   先の議論に戻るが、最近では、アジアの然るべき国の生産品なら、Made in Japanに拘らなくても、それなりに信用できるようになったのだが、逆に言うと、Made in Japanの質が、低下して、あてにならなくなったような気がする。私自身も、そんな苦い経験をすることが多くなった。
   生産性が低下して質の落ちた製品を作り始めた日本企業が、アベノミクスの好循環のお題目に乗って、賃上げをして、熾烈なグローバリゼーション競争に勝てるのかどうか、心配している。

   少なくとも、ドイツが一人勝ちのEUとは違って、東南アジアの国、特に製造業の質は、極めて高いので、油断をすると一気にキャッチ・アップされて凌駕されてしまうし、賃金が高くなったと言っても、まだまだ、他国は低くて、要素価格平準化定理が、もろに働けば、日本企業の高賃金ではやって行けなくなる筈である。
   そうなれば、高度化戦略が機能しなければ、益々、空洞化が進んで行って、逆に、日本経済が縮小均衡せざるを得なくなる。
   アジア経済を内製化するのが日本のグローバル戦略だと言う説が濃厚だが、TPPもそうだが、熾烈なグローバル競争となって、ダントツのNo.1となるとか、覇権を握ってwinner-take-all戦略を駆使して勝ちすすめない限り、負け犬に終わってしまうと言うことを、肝に銘じて置くべきであろう。
   それこそが、グローバリゼーションのグローバリゼーションたる所以である。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする