熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

旅行者にとっては中南米が最も危険

2014年01月22日 | 政治・経済・社会
   毎日新聞電子版に、「強盗:中南米ご用心、神出鬼没 遭遇時は抵抗せず」と言う記事が掲載されている。
   南米エクアドルで昨年末に日本人夫妻が被害に遭った「特急誘拐」や、6月開幕のサッカーのワールドカップでは多数の日本人がブラジルを訪ね、中南米各国にも立ち寄ることについての危険など、強盗の手口などについて詳述している。

   世界の紛争地図には、中東やアフリカなどの地域が多数掲載されており、中南米には一つもないのだが、実は、海外からの旅行者や一般市民にとって、最も危険で、安心安全な日常生活に最も程遠いのは、中南米であることは、殆ど、周知されていない。
   世界の紛争地帯の生命の危険については、これは、深刻な内戦や国際間の戦争や紛争であって、中南米の場合には、政治経済情勢は、比較的安定していて、独立国家としての体はなしているが、政治や国内秩序などの統治システムなどが非常にプリミティブで、民主主義的な政治経済体制が整っていないので、その歪が大きく社会情勢に影を落として、国内の治安情勢が悪いのである。

   私が、ブラジルで4年間生活したのは随分前の話なので、当時の印象で語るわけには行かないが、このブログで、「BRIC'sの大国 ブラジル」で、ニューヨーク・タイムズの記者ラリー・ローターの「BRAZIL ON THE RISE」を底本にして、ブラジルと言う典型的なラテン国家の光と影を詳述したが、本質的には、何も変わっておらず、治安などはむしろ悪化した感じだし、政治に至っては、ルセフ大統領が就任後9ヶ月に、汚職や収賄で、9人も閣僚を更迭しなければならなかったと言うのだから、政治経済社会体制の現状は、推して知るべしであろう。

   今回は、ラテン社会の特質やブラジルなど中南米の政治経済について論じるつもりはないが、もう一度、ブックレビューほか、何度か、このブログで論じたアンドレス・オッペンハイマー著「米州救出」を引用して、あらためて、中南米の治安の深刻さについて、考えてみたいと思っている。

   私の記事の一部の引用から入る。
   ”世界中には、テロリストの恐怖は勿論、危険が充満しているのだが、アンドレス・オッペンハイマー著「米州救出」によると、世界で最も暴力的な地域は、南米だと言う。
   アルゼンチンのビリャス、ブラジルのファベーラ、カラカスのセロス、そして、メキシコシティのシウダデス・ベルディーダス。不平等と、金持ちや有名人の生活を地域の粗末な家にTV報道などで持ち込んだコミュニケーション革命の影響もあって、高い貧困率は、はたせぬ期待と言う危機をもたらし、それが不満や怒り、街頭での犯罪率の増加につながり、「宣告されない内戦」が、ラテンアメリカにおいて猛威を振るっている。
   富裕な世界へと手招きするテレビの比類ないメッセージの洪水の中で成人した、教育も職能もない若者たちが、あらゆる機会を、これ程までに奪われ疎外された時代は、歴史上皆無だったと言うのである。
   益々増加の一途を辿る疎外された暴力的な若者たちが、どんどん都市に進出して行くにつれて、中・上流階級は、生活防衛のために、いわば、外壁のある要塞の中に再び豪を更に深く掘る状態であり、貧困、疎外、そして、犯罪は、金持ちを含めたすべてのラテンアメリカ人の生活の質をかってなく侵食している。
   ところが、殺人は、ラテンアメリカの死因の7番目で世界最悪だが、刑務所人口は世界でも最少であり、ラテンアメリカの犯罪者は異常なほど刑罰の免除を享受していると言うのだから恐ろしい。”

   ”オリンピック開催予定のリオのファベーラを見れば分かるが、最も高級でエレガントな地域から、僅かにしか離れていない山の手に、この麻薬の巣窟であり悪の温床である貧民窟が張り付いている。
   こんなところには、学校にも行かない数万人の若者たちが居て、多くが8歳から10歳で麻薬を初めて、犯罪者となっても不思議ではなく、両親に会うこともなく、教会やスポーツクラブにも属さず、路上で生活し、麻薬を消費する犯罪労働者だとオッペンハイマーは言う。”

   ”マラスと称するストリートギャングが、中米のエルサルバドル、ホンジュラス、グアテマラ、メキシコの南部から、コロンビア、ブラジルその他の南米まで拡大しており、中米だけでも15万人、ほぼ半数は15歳以下だと言う。
   マラスの内部では、麻薬密輸や雇われ殺人、窃盗、誘惑、手足の切断に専念する者たちがいて、・・・正に、21世紀の新しい犯罪者なのだが、大きな特色は、覆面で顔を隠す伝統的な銀行強盗とは違って、堂々と悪事を実行して報道機関から注目を集めることを切望しており、一たび脚光を浴びると、指揮命令系統で昇進を果たすのだと言う。”

   アメリカの国防総省を憂慮させているのは、チャベスのような独裁者ではなくて、ラテンアメリカの悪質犯罪の急増とテロをコントロール出来ない政府の無能力だと指摘していたように、世界最悪の治安の悪さである。
   中南米の富裕層が、自分の家族を誘拐、強盗、殺人等から守るために家族をマイアミに置いており、林立する多くのアパートの購入者の多くは、ラテンアメリカの犯罪被害者であるか、潜在的被害者、言うならば、マイアミの新参者は、犯罪難民であり、中南米の中・上流階級の自己防衛策が、マイアミの不動産ブームを引き起こしており、「ラテンアメリカの首都」とも呼ばれている。と言うのだから驚く。

   もうこれ以上語る必要がないと思うが、表面的には、中南米の悪質犯罪の急増とテロや犯罪をコントロールできない政府の無能力が、問題のように見えるが、本質的には、ラテン気質や文化伝統に色濃く培われて歴史的に構築されてきた植民地としての中南米独特の政治経済社会制度にこそ、病巣の根源があるのである。

   ラテンアメリカでの一般通念は、貧困が犯罪を生むため、貧困削減に焦点を当てた取り組みが必要だと言うのだが、アメリカの専門家の多くは、逆に、犯罪が貧困を引き起こし、地域の第一の優先度は犯罪との闘いであると考えている。
   そうだとすると、先のルーラ大統領が、ボルサ・ファミーリアなどで貧困層の生活向上や格差縮小に必死に取り組んだのだが、暗黒街の麻薬王が治安維持組織を操るような政治経済社会システムを、根本的に解消しない限り、問題は解決しないと言うことであろう。

   ところで、日本人旅行者の犯罪の危険だが、ブラジルを知り抜いている日系ブラジル人の友人でさえ、被害にあっているのだから、はるかに国状の悪いエクアドル(私は一回しか行ったことがない)などで、慣れない日本人が自分でタクシーを手配するなど考えられないことで、狙われれば一たまりもない。
   サンパウロで襲われた友人は、繁華街の駐車場で車に乗った瞬間にホールドアップ、また、知人の話では、2メートルもある黒人強盗二人に挟まれて、キリ状の凶器で足を突かれて七転八倒。

   日本は、最もグローバリゼーションの遅れた国だとドラッカーが喝破したが、日本人の多くは、いまだに、世界中何処へ行っても、日本と同じだと錯覚して、日本に居るのと同じような気持ちで振舞っている。
   世界はフラットになった、グローバリゼーションの時代だと言っても、違いが分かる、その違いを尊重する国民性を養うことも大切であろう。

   ラテン・アメリカは、非常にエキゾチックで、素晴らしい文化と伝統、限りなき観光資源を持っていて、素晴らしい経験を満喫できるところではあるのだが、旅行者としての自分の心構え次第で、一気に暗転することもあると言う事実を知っておくべきであろう。
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