「三千両初春駒曳」は、歌舞伎の定番と言うべき、跡目相続に絡むお家騒動と家宝が行方知れずで探索すると言う話がメインテーマだが、正月らしく、舞台が派手で華やかなのが良い。
この話は、徳川将軍家の跡目相続問題に、老中本多正純の将軍暗殺計画「宇都宮城の釣り天井」事件や将軍家光のおいの松平長七郎の逸話などが組み合わされた芝居だが、江戸幕府を憚って、本能寺の変で逝った織田信長の後継者争いの話にして、豊臣秀吉の「太閤記」の世界に置き換えられている。
江戸では、余りにも恐れ多いので、大坂オリジンの芝居であって、通し狂言としては、150年ぶりの再演だと言う。
見せ場になっている「釣天井」や三千両を載せた馬を引いて去る「馬切り」の場面などは、これまでにも単発で演じられていたようで、この芝居でも核になっている。
序幕の高麗国浜辺の場では、妖艶な菊之助扮する高麗国の皇女が、日本から流れ着いた小早川采女(松也)に恋をして、日本に渡来して活躍するという、国姓爺合戦並のスケールの大きな異国情調も鏤めた面白い芝居になっている。
信長と嫡子信忠没後の小田家の家督争いで、信忠の弟、三七郎信孝(菊五郎)を押す柴田勝重(松緑)と、信忠の子・三法師丸(大河)を押す真柴久吉(時蔵)が対立する構図だが、これに、勝重側に、宅間小平太(亀三郎)、真柴側に、小早川帯刀(團蔵)と采女がついて争いが展開される。
しかし、勝重が頼りとする信孝が、政治に興味なく自ら家追放の身となり浪人暮らしをしながら奪われた家宝の探索にあたり、三法師丸を補佐しようとするのであるから、勝重は、梯子を外された格好で、唯一の悪人となり、最後まで、奮戦して、紫野大徳寺の信長一回忌法要の場に乗り込むが、勝負はお預けで幕。
さて、「釣り天井」だが、
柴田勝重は、三法師丸を招待する新御殿で圧死しようと釣り天井を仕掛けるのだが、事前に計画が漏れるのを恐れて大工を監禁するが、大工・与四郎(菊之助)が逃げ出して注進。計画が露見したので、久吉陣営が柴田を謀反人として攻め込む。その時、勝重を追い詰めるが、元女房小谷(時蔵)の加勢で、釣り天井が落ちる。
御殿正面に槍衾が立ち上がり、背後に頑丈な格子戸が降り、上から巨大な石を乗せた天井が落ちてくると言う絶体絶命の仕掛けだが、天井が傾いてゆっくり降りて来ると言う感じなので、迫力に欠けるのが、一寸惜しい。
馬切りは、
浪人暮らしの信孝は手許不如意。堺の大和橋の付近で、久吉が高野山へ納める祠堂金三千両の大金を運ぶ行列に出くわすのだが、既に、盗賊に襲われていて、信孝は、その盗賊たちを蹴散らして、馬役人を切り捨て、金を乗せた馬ごと盗むと、悠々と立ち去る。
色々趣向を凝らした立ち回りが面白く、見ものではあるが、泰然自若とした舞うような菊五郎の姿が絵になるくらいであろうか。
今回、興味深かったのは、女形の時蔵が演じた真柴久吉の風格、そして、同じく菊五郎の大工与四郎の粋と気風の良さで、本来の女形よりも、はるかに、感動的な演技を見せてくれたこと。
それに、采女を演じた松也の好男子振り、藤右衛門娘お豊を演じた梅枝の女を実感させる演技。
若手の役者たちの瑞々しくて溌剌とした演技が、印象的であった。
二役を演じていた役者が多かったが、やはり、出色は、松緑で、ドスの利いたスケールの大きな大悪人柴田勝重と善人材木仲買田郎助を実に器用に演じ分けて、夫々に、水準の高い演技を披露していた。
ところで、この歌舞伎だが、筋を追っていると、実にあり得ないような話を数珠繋ぎにしている感じで、考えて見ていると、肩透かしを食らう。
まず、松緑の演じる小田の重臣柴田勝重は、鷹匠の田舎者の土屋庄助で、女房小谷に見破られ、その弟が真柴側の善人田郎助で、実子が大工与四郎であることが分かって、二人とも、勝重への責を感じて切腹する。
日本の歌舞伎は、やはり、シェイクスピア等の欧米の戯曲と違って、ストーリー性は二の次で、見せて魅せる舞台だと言う感じが濃厚にするのが、この歌舞伎である。
この話は、徳川将軍家の跡目相続問題に、老中本多正純の将軍暗殺計画「宇都宮城の釣り天井」事件や将軍家光のおいの松平長七郎の逸話などが組み合わされた芝居だが、江戸幕府を憚って、本能寺の変で逝った織田信長の後継者争いの話にして、豊臣秀吉の「太閤記」の世界に置き換えられている。
江戸では、余りにも恐れ多いので、大坂オリジンの芝居であって、通し狂言としては、150年ぶりの再演だと言う。
見せ場になっている「釣天井」や三千両を載せた馬を引いて去る「馬切り」の場面などは、これまでにも単発で演じられていたようで、この芝居でも核になっている。
序幕の高麗国浜辺の場では、妖艶な菊之助扮する高麗国の皇女が、日本から流れ着いた小早川采女(松也)に恋をして、日本に渡来して活躍するという、国姓爺合戦並のスケールの大きな異国情調も鏤めた面白い芝居になっている。
信長と嫡子信忠没後の小田家の家督争いで、信忠の弟、三七郎信孝(菊五郎)を押す柴田勝重(松緑)と、信忠の子・三法師丸(大河)を押す真柴久吉(時蔵)が対立する構図だが、これに、勝重側に、宅間小平太(亀三郎)、真柴側に、小早川帯刀(團蔵)と采女がついて争いが展開される。
しかし、勝重が頼りとする信孝が、政治に興味なく自ら家追放の身となり浪人暮らしをしながら奪われた家宝の探索にあたり、三法師丸を補佐しようとするのであるから、勝重は、梯子を外された格好で、唯一の悪人となり、最後まで、奮戦して、紫野大徳寺の信長一回忌法要の場に乗り込むが、勝負はお預けで幕。
さて、「釣り天井」だが、
柴田勝重は、三法師丸を招待する新御殿で圧死しようと釣り天井を仕掛けるのだが、事前に計画が漏れるのを恐れて大工を監禁するが、大工・与四郎(菊之助)が逃げ出して注進。計画が露見したので、久吉陣営が柴田を謀反人として攻め込む。その時、勝重を追い詰めるが、元女房小谷(時蔵)の加勢で、釣り天井が落ちる。
御殿正面に槍衾が立ち上がり、背後に頑丈な格子戸が降り、上から巨大な石を乗せた天井が落ちてくると言う絶体絶命の仕掛けだが、天井が傾いてゆっくり降りて来ると言う感じなので、迫力に欠けるのが、一寸惜しい。
馬切りは、
浪人暮らしの信孝は手許不如意。堺の大和橋の付近で、久吉が高野山へ納める祠堂金三千両の大金を運ぶ行列に出くわすのだが、既に、盗賊に襲われていて、信孝は、その盗賊たちを蹴散らして、馬役人を切り捨て、金を乗せた馬ごと盗むと、悠々と立ち去る。
色々趣向を凝らした立ち回りが面白く、見ものではあるが、泰然自若とした舞うような菊五郎の姿が絵になるくらいであろうか。
今回、興味深かったのは、女形の時蔵が演じた真柴久吉の風格、そして、同じく菊五郎の大工与四郎の粋と気風の良さで、本来の女形よりも、はるかに、感動的な演技を見せてくれたこと。
それに、采女を演じた松也の好男子振り、藤右衛門娘お豊を演じた梅枝の女を実感させる演技。
若手の役者たちの瑞々しくて溌剌とした演技が、印象的であった。
二役を演じていた役者が多かったが、やはり、出色は、松緑で、ドスの利いたスケールの大きな大悪人柴田勝重と善人材木仲買田郎助を実に器用に演じ分けて、夫々に、水準の高い演技を披露していた。
ところで、この歌舞伎だが、筋を追っていると、実にあり得ないような話を数珠繋ぎにしている感じで、考えて見ていると、肩透かしを食らう。
まず、松緑の演じる小田の重臣柴田勝重は、鷹匠の田舎者の土屋庄助で、女房小谷に見破られ、その弟が真柴側の善人田郎助で、実子が大工与四郎であることが分かって、二人とも、勝重への責を感じて切腹する。
日本の歌舞伎は、やはり、シェイクスピア等の欧米の戯曲と違って、ストーリー性は二の次で、見せて魅せる舞台だと言う感じが濃厚にするのが、この歌舞伎である。