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ミステリ感想-『千年ジュリエット』初野晴

2013年08月02日 | ミステリ感想
~あらすじと感想~
いまだに名称がしっくりこない「ハルチカシリーズ」第4弾。
普門館を目指す戦いを終え、しばしの日常に戻った面々。今回は吹奏楽部内のメンバーはあまり描かれないが、文化祭を軸にこれまで登場した他部の脇役や、さらに強烈な個性を持った新キャラたちが活躍する。
各編に簡単に触れると、

「エデンの谷」……まず新キャラの山辺真琴が個性的すぎる。要するにスナフキンだけど。見えていた構図を反転させる手管は、何の気なしにやってのけているものの卓抜した腕前である。

「失踪ヘビーロッカー」……トラブルに巻き込まれたタクシー運転手と、失踪(?)したロッカーを待つ人々の視点を交互に描き、何が起きているのかわからないまま興味を引き、最後に二つの視点が交叉するや鮮やかに謎が解ける。これももはや熟練の業。

「決闘戯曲」……小ネタというか小咄というか、短編すら支えきれないような真相だが、キャラ立ちしすぎるほどキャラの立った演劇部の面々が再登場し、期待通りの大暴れ。それだけで満足。

「千年ジュリエット」……掉尾を飾るにふさわしい、悲壮な物語と鋭いトリックの融合。いつの間にやら連作短編集としても完成されてきた感。

各短編の物語自体の水準の高さはもちろんとして、ミステリとしても連作短編集としての、というか一冊の中での起承転結を備え、ラスト一編には数々の仕掛けを贅沢に盛り込み、驚かされることは請け合い。
また今作でも新入部員が増えていくのだが、そのあたりの扱いはこれまでのシリーズと比べてかなり軽い。しかし前作で加わったあの人がいじりいじられ八面六臂の活躍をするので問題なしだろう。

辻村深月、米澤穂信の次にブレイクするのは間違いなく初野晴である。その時は3年以内には訪れると改めて断言しておきたい。
あとセブンネットでは信じ難いことに取り扱っていないので、担当者は猛省するように。


13.7.10
評価:★★☆ 7
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