小金沢ライブラリー

ミステリ感想以外はサイトへ移行しました

ミステリ感想-『双孔堂の殺人』周木律

2013年08月16日 | ミステリ感想
~あらすじ~
湖畔に伝説の建築家が建てた、鍵形の館「双孔堂」。
館に放浪の数学者・十和田只人を訪ねた、警察庁キャリアの宮司司は、同時発生した二つの密室殺人事件に遭遇する。
事件の犯人として逮捕されたのは……十和田只人!?

~感想~
本格ミステリのありとあらゆるテンプレをぶち込んだデビュー作に続く第二弾。とにかく古い! だがそれがいい。
前作はトリック面で歌野晶午マジリスペクトだったが、今作はストーリー面で「笑わない数学者が君が決めるんだ(ニッコリした後に真賀田四季が不定!不定!不定!」と叫ぶ森博嗣マジリスペクト仕様。
そういえば森センセは前作に「懐かしく思い出した。本格ミステリィの潔さを」と推薦文を書いていたが、こうも潔くマジリスペクトされてどんな顔してるんだろか。
トリックに関しては古色蒼然たる大仕掛けであるものの「え?これだけ?」というあっさりした使い方。綾辻行人の館シリーズに例えるなら時計館のメイントリックを使わずに抜け道だけ使いましたみたいな。二階堂黎人なら同じトリックで四冊書けるに違いないのに。
また今作もテンプレというか、(以下ネタバレのため文字反転→)終わってみればみんな家族とか、珍しい難病を犯人ではないという理由付けのためだけに出したりとか、犯行の露見した犯人が毒を――と、とにかく展開が古く潔い。
だが前作でも見せていたようにトリックやストーリー展開をまとめる手腕は実にそつなく、難解すぎて読む気すら起こらない(また読み飛ばしてもなんら支障のない)十和田探偵の数学トークもきちんと読めば、密接に物語と関わっており、この作者の力量の高さを感じさせる。(一方で加藤元浩のマンガ「Q.E.D.証明終了」がいかにわかりやすく数学を物語に溶け込ませ、ミステリ要素と連関させているかもよくわかったのだが)
数学トーク以外にオリジナリティは乏しく、また「Q.E.D.証明終了」と比べては数学トークになんら魅力を感じないのだが、80年代の新本格を書ける現代作家として、またとない才能であるのは確か。次回は誰をマジリスペクトするのかにも注目し、今後も追いかけたい。


13.8.14
評価:★★★ 6
コメント (2)