大正の昔。若様永井荷風はたまらず小伝馬町の借家を逃げ出した。築地の路地裏だったかな。麻布の借地に洋風の一軒家を建ててそこに引っ越した(偏奇館だったかな)。場末(築地は下町?分明ならず)の濃密な相互扶助精神に恐れをなして逃げ出した。詳しくは断腸亭日乗をごらんあれ。場末は人情がこまやかで気楽というのはそとから見る傍観者の観点だ。後年の墨東奇談(ワードの漢字変換制約にご理解あれ)の客の立場だ。
さて管理組合。社会学のフィールドスタデイには格好の材料だと思うが、気のきいた論文はあるのかな。まとまったのがあれば読んでみたい。いったい人は何故マンションを買うか。一軒家は高い? 一概にそうとも言えまい。核家族、独身者にとっては一軒家を保有するのは、その管理煩瑣に耐えざるものがあるからだろう。
いまどき一軒家に住めるのは女中数名、書生数名をかかえる大家族だろう。頻繁に押しかけてくる押し売りは書生がステッキで追い払う。
気楽で自由なシティライフを求めてマンションをあがなうと、管理組合といううっとおしいものがある。もっとも、管理組合の色合いほど、地域の特殊性が出るものはない。お屋敷町ではそれほど気にならない。場末のように近所の家に親切ごかしに押し込んでくるあつかましさがないからだ。
これが場末、下町、新開地に行くとそうはいかない。旧時代の長屋の精神を連綿と継承している。