いまじゃ民営化なんて陳腐な囃しことばで、女学生でも使うが30年前はちと違う。
民営化なんて嫌だというのが、今でも当事者の本音だが、当時日本航空の御用組合は民営化を求めて狂奔したものである。なにを勘違いしたのかおおかた発狂したのだろうと思っていた。
航空業界は独占的な運航路線の権益で守られてぼろい儲けが苦労もせずに出来る業界であるのに、なぜ民営化なんていうのか。実は単純な理由だったらしい。運輸省や経済界の大物が航空会社の会長や社長になるのが慣例であったが、自分たちが社長になりたいと思い詰めたんだね。
スト破りを請け負って御用組合をつくり、それを梃子においおい単純な戦前からの気のいい飛行機野郎を役員から追い出して自分たちで重役の椅子を分配しようというわけだ。これが結局ごすたか山につながる事故体質の原因である。飛行機が好きで好きでしょうがなかった戦前、戦中からの航空屋を邪魔だと姥捨て山に捨てたのである。
運輸省の役人に聞いたのだが、彼らは民営化すれば生え抜きの自分たちが社長になれる。そのうえ、民営化すれば勝手に会社の定款を変えて役員の数を倍に出来る。それでお仲間でその役員の枠を分配しようと、それだけが目的だったらしい。単純というか、馬鹿というか。
民営化すれば当然業界は自由化されて日本航空の独占だったドル箱の国際線を全日空に開放しなければならないということには、かれらは思いも及ばなかったらしい。それまでやっていたように役人や運輸族の政治屋にわいろをおくり、飲ませ、抱かせで籠絡しておけば路線権益は民営化しても独占できると思っていたらしい。
あきれた阿呆といわなければならない。お仲間、御用組合専用のキャリア・パスで幹部は馬鹿ばかり、人材は枯渇しているからたちまち全日空に追い越された。
昔も今も運輸業界(どの業界もそうだろうが)では、有識者会議の諮問委員会というのが結構力を持っている。政策の隠れ蓑というかガス抜きの機関になっている。メンバーには大学教授なんかが多い。彼らは政治屋よりかもはるかに籠絡しやすいそうだ。純情なんだね、ま別の言葉で言えば田舎者ということだが。海外なんかに只切符で行かせてどんなご面相でも金髪の女を抱かせればいかようにも意見を調整するというのだから恐れ入る。
そっちのほうの工作で全日空は抑え込めると思ったらしい。
今回の日本航空の破たん処理は国交省主導だそうだが、国交省からの天下りを社長に据えることで決着しようとしているそうだ。30年たって、もとに戻った。ご苦労なことだった。