詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

詩はどこにあるか2020年1月号

2020-02-02 21:07:30 | その他(音楽、小説etc)
詩はどこにあるか2020年1月号発売中。
下のURLをクリックすると販売のページが開きます。

https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168078050

目次
谷川俊太郎「ことばを覚えたせいで」2  天沢退二郎「決して奇跡などとはよべない奇述の試み」8
池井昌樹「ひらいて」11  三角みづ紀「パプリカミュージアム」15
夏目美知子『ぎゅっとでなく、ふわっと』18  沢木遥香『わたしの骨格』22
小池昌代『黒雲の下で卵をあたためる』25  水根たみ『幻影の時刻』29
朝吹亮二「雪 降りつづけ」33  野沢啓「暗喩の発生――言語暗喩論」39
新井高子「デクルボー」44  朽木祐『鴉と戦争』47
青柳俊哉「未来の朝」、池田清子「何罪」、谷川俊太郎「あなたの私」50
山本育夫書下し詩集「しはしは」十八編58  竹内健二郎『四角いまま』68
西川詩選70  山下修子『空席の片隅で』77
細野豊「地の上へ散るだけの」81  森永かず子「いつか夢になるまで」、井上瑞貴「森林区」85
柴田基典「夏の原理」90  中上哲夫「ニューヨークの地図」95
中村不二夫「川の名前」99  青柳俊哉「形のない風見」、池田清子「見えますか」101 

1月の映画 108
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アルメ時代32 傾斜する私

2020-02-02 15:28:37 | アルメ時代
アルメ時代32 傾斜する私



   1
あの日あの街角で
時間を殺さなかったか
アスファルトが白く光って
キョウチクトウが重たく揺れた
曲がらずにまっすぐに行った
あのときのことだ

   2
まだ引き返せる

   3
凝縮された影の上を
影からはみださないように正確に
郵便配達の赤い自転車が走る
角を曲がって消える
ブレーキが軽くきしむ

(逆だったかも)

   4
(振り返ったときに見えるものは
自分の背中だけである)
(振り返ってもみえないものは
自分の背中である)

   5
影が蒸発してしまったのか
色が形を離れ
ザラザラうわついている

   6
(落雁のように)

   7
ここにいるのに
ここが遠い

   8
(落雁のように
均一な粗さに押しかためられた
甘さ……)

   9
電柱に耳を押しあてる
やけたコンクリートのなかから
何かが聞こえる
名づけたくはない
名づけることで
すべての存在に対して
運命が平等であるということを
自覚したくはなかった

   10
遠近法が揺れる
打ち水をした場所で
ほこりが強く匂う
簾の細い横線が光をはじいている
誰かがのぞいている
気配がある

   11
まだ引き返せる
(どこへ
いつへ)

   12
細工がふらつく

   13
ボールが転がってくる
支柱にぶつかり止まる
カーブミラーのなかへはだれも入ってこない
円周へなだれていく無数の焦点
そのあたりで
くらくなる色

   14
境界線はたしかにある
決してあらわれない視線も
どこかにある
アスファルトは白く光って
四方にのびてゆく
キョウチクトウがまた揺れた

   15
まだ引き返せる
(かもしれない)




(アルメ252 、1987年09月25日)
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暁方ミセイ「冬祭の森」

2020-02-02 10:07:19 | 詩(雑誌・同人誌)
暁方ミセイ「冬祭の森」(「現代詩手帖」2020年02月号)

 暁方ミセイ「冬祭の森」の部分。

遠くから犬橇がやってくる 毛玉のようにくる
そのなかにわたしの犬がいる
みんなと楽しそうに舌を垂らし
黒い目を陽光に潤わせ
短い足を蹴りだし走っていく 友達と一緒に
橇の主は白髭のおじいさんで
荷台は空っぽ
犬たちは寒さを嬉しがり もうもうと湯気を吐き出す
それから焼き菓子と電飾でいっぱいの
凍った森を駆けていく
そっちには
祖父の家がある

 「わたしの犬」のことを思い出している。思い出すということに、この詩のポイント(意味)があるのだが、意味ではないものの方に「詩」がある。走る犬の「描写」そのものに詩がある。「楽しそうに舌を垂らし」「黒い目を陽光に潤わせ」「短い足を蹴りだし」「寒さを嬉しがり もうもうと湯気を吐き出す」という肉体が拡散する感じ(散らばりながら輝くと言った方がいいか)がとてもいい。肉体のどの部分も、決められた形を突き破って動いていこうとしている。生きているのだ。
 この生き生きとした描写で見落としてしまいそうになるが、その生きている感じを「みんな」「友達と一緒に」「犬たち」(「たち」に注目)が、さらに押し出している。集団が集団でありながら、一匹一匹に散らばっていく感じがする。だからこそ「わたしの」という「限定」が強い。
 何匹いるのかわからないが、それぞれの犬のいのち(動き)が「わたしの犬」を通り抜けて、それぞれの犬になり、また「わたしの犬」のいのち(動き)を励ますようにほかの犬のいのち(動き)が「わたしのの犬」のなかで爆発する。
 「改行」をやめて、「散文」のスタイルにしてしまうと、この「拡散(散らばり)」はうるさいかもしれない。けれど、詩の「改行」は、こうした切断と接続、接続と切断を生き生きとさせる。
 きらきちさせる。
 この「きらきら」感じが「焼き菓子と電飾」という比喩に結晶していくのもいいなあ。

 そう思いながら、一方で、私が感じている「きらきら(あるいは、わくわく)」を、他のひとはどう感じているのだろうか、と気にもなる。
 きのう感想を書いた最果タヒも、この詩の暁方も若いといえば若いが、もう「ベテラン」である。「新人」ではない。私が何らかの「共感(関心)」をもつ詩人というのは、もう古い詩とみなされているかも、という気がするのである。








*

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嵯峨信之『小詩無辺』(1994)を読む(15)

2020-02-02 08:42:30 | 『嵯峨信之全詩集』を読む
* (ぼくは何にも阿ねらず 何ものをも見捨てなかつた)

それでも掌のなかは
今日もいつもの空しさばかりである

 「掌」は「こころ」の比喩である。「掌のなか」の「なか」が比喩であることを強調している。
 なぜ「掌」はこころの比喩になりやすいのか。
 私たちが手をつかって仕事をするからかもしれない。手を使わない仕事はたぶん、ない。手は道具を媒介にして世界につながる。手を通して「自己拡張」していくのが人間なのかもしれない。
 また、手と同じように、人間は足をつかう。詩は、こう閉じられる。

ぼくの国の裏通りによく似た通りを
ぼくは何の屈託もなくひとりその道を歩いて行こう








*

詩集『誤読』は、嵯峨信之の詩集『時刻表』を批評するという形式で書いたものです。
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私あてにメール(yachisyuso@gmail.com)でも受け付けています。(その場合は多少時間がかかります)

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