詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

藤井晴美『マスキング』

2021-04-13 11:19:06 | 詩集

藤井晴美『マスキング』(私家版、2021年03月01日発行)

 藤井晴美『マスキング』の「マスキング」に、こういう行が出てくる。
<blockquote>
自分が書いたものを別にわからなくてもいいじゃないか。ましてや自分でいちいち納得しながら書いている輩なんて詩人じゃありませんよ。クラッカーパリパリかパーンかパクリ。
</blockquote>
 「わかる」をどう定義するかはむずかしい。なぜなら「わかる/わからない」ということを誰もがわかっているからである。誰もわからないことを「定義」するのは簡単だ。先に行った方が「勝ち」なのだ。「勝ち」が「価値」にかわり、定義として(?)定着する。
 この「自分が書いたものを別にわからなくてもいいじゃないか。」が、まさに、それにあたる。そして、それが詩である。
 これは、別なことばで言い直せば、「わからない」存在は、それ自体で「絶対」だからである。「定義(意味)」を必要としていない。だから、どんな「意味」を付け加えられても平気なのである。そんなものはなかったことにできる。そう呼びたいなら、そう呼べばいい。私は知らない。そこにそのことばがあるだけ。
 「有熱者」には、こんな行がある。
<blockquote>
肛門が排便だけに特化してしまうと、周りは静かになった。

アトムのよだれ。

おれがおれであったこと、
これは何なのだ。
</blockquote>
 何でもない。
 藤井は「特化」ということばをつかっているが、藤井が出会ったものを「特化」すること、彼以外の誰のものでもないもの、藤井のものにしてしまうことが「特化」である。
 ここに書かれていることばは、誰もが知っていることばである。だから、そこに「特化」を見出し、ここが他の人の定義(意味/ことば)と違っていると指摘することはむずかしい。「ことば」としては書かれていない「切断と接続」(言い直せば、文脈)が、なんだか奇妙である。そのために「わからない」(なぜ、そういうことを書いているかわからない)ということが起きるのだが、そういう「わからない」が噴出した瞬間に、そこに藤井があらわれてくる。藤井以外の人間が消えてしまう。
 人間存在が、藤井に「特化」される。
 「これは何なのだ」に対する答えがあるとすれば、それは「特化」である、つまり詩であるというのが、私の、とりあえずの「答え」であるが、もちろんそんなものに「意味」などない。つまり、藤井はそれを受け入れる必要はない。「答え」などというものは、読者の「誤読」にすぎない。
 この「特化」は、また、こう言い直される。
<blockquote>
詩とは詩人が書いたものを言う。それ故詩人は絶対詩人でなければならない。

勃起的に笑い出すぼく。
</blockquote>
 「特化」は「絶対」である。たとえば「勃起的に笑い出すぼく。」は、「特化」された存在、「絶対」に到達した存在である。でも、その「絶対」は「ぼく」に限定されない。「笑い」が「絶対」であることもあるし、「勃起」が「絶対」であることもある。ここで、「わかる」ためにいちいち何かを説明し始めると、もうそれは「絶対」を逸脱してしまう。「勃起的に笑い出すぼく。」という接続と切断の中に「絶対」があふれだすのである。
 この「絶対」を「自由」と呼べば、ベルグソンへとつながる。
 でも、そういう「意味/定義」ほど味気ないものはない。
 ベルグソンなどと書いてしまったのは、私がまだ病院で本を読んでいた時間から脱けだしていないからである。
 

 

 


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