詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

豊原清明『白い夏の死』

2021-04-14 09:38:24 | 詩集

豊原清明『白い夏の死』(ふたば工房、2021年01月31日発行)

 豊原清明『白い夏の死』の「あとがき詩」の書き出し。

深爪の指の痛みに悶えながら
生活している
蜘蛛が 生き写しの蜘蛛が今日も
現れないでいて
この家のどこかに棲んでいる

 「生き写しの蜘蛛」とは何だろうか。「蜘蛛」そのものではない。豊原に蜘蛛として認識されている何か。その何かをあえて言えば「生き写しの蜘蛛」ということになるのだろう。それが、

現れないでいて

 と言い直される。「現れない」から、ふつうに考えればいるかいないかは、わからない。いないと考えてもかまわない。しかし、豊原には「いる」ことがわかっている。
 「どこかに棲んでいる」は、どこかに「隠れている」なのだが、「隠れている」だけではなく、隠れて「生活している」。
 豊原が「深爪の指の痛みに悶えながら/生活しているように」、「生き写しの蜘蛛」は隠れて生活しているのだ。

この家

 で。「この家」の「この」には、深爪のように「痛み」がこもっている。「悶え」が動いている。
 この一連目を、二連目で、こう言い直している。

暗い壁が目前にあって
乗り越えられない
壁が
壁に囲まれて
クラッシュされて 繰り返される 壁潰し
この壁は壊れることがない

 ここにも「この」が出てくる。でも、その「この」は何を指しているのか。目の前にある「暗い壁」なのかもしれないが、その「この/暗い壁」は、別の「壁に囲まれて」ているから、「この壁」というよりも「あの壁」だろう。しかし、豊原は「あの」を「この」と言い換えている。「あの」と「この」では「この」の方が切実である。「あの」なのに、いつも「目前」にあって、つねに「乗り越えられない」という気持ちを生み出すのである。
 でも、こういう「意味」は書いてもしようがない。それは私の「誤読」であって、豊原は「壁」の向うにいて、豊原の世界を生きている。
 私は、次のようなことばの展開が好きだ。

人は家の中の静物
おしっこする草のように
空しいことに金をかける風賭博の亀
匙の入った
ヨーグルト容器
おねんねする石と石                        (荒地の心)

思わず歩道に「私」を放つ
サト子は傲慢な女か
知るはずもない
電柱に隠れて
人様のラインを見る「私」には
わかりようもない
すべてが絵空事の関係
ある朝
ハンバーガーマクドナルドの前で
サト子は立っていた
フィッシュバーガーを口にして
唇に汁が着き
備え付けの紙切れで拭う
口紅が乱れて
ぐちゃぐちゃになった              (悦楽・サト子 ラインを引く)

 「ラインを見る」はスマートフォンのアプリではなく、人の「輪郭」と読みたい。

 

 


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菅の言い分の「垂れ流し」は公害である。

2021-04-14 08:23:37 | 自民党憲法改正草案を読む

2021年4月14日の読売新聞。

福島第一 処理水 23年めど海洋放出…飲料基準以下に希釈
政府は13日、東京電力福島第一原子力発電所の敷地内にたまる「処理水」について、海洋放出する方針を正式に決めた。事前に大量の海水で薄め、放射性物質の濃度を飲んでも健康に影響がないとされる国際基準よりもさらに引き下げる。東電は2年後の2023年をめどに放出を開始し、期間は30年以上の長期に及ぶ見通し。
↑↑↑↑
この記事の不可解さ。
海の水で薄めた後、海に放出する。
このときトリチウムの総量は減るのか。
そのまま海に垂れ流すときと、総量が変わらなければ「薄めた」というのは見かけのこと。
チッソは水銀を垂れ流し続けた。
きっと「薄めて排出した」と言うだろう。
「薄めて」排出したものが、どこで、どんなふうに蓄積され、それがどう影響するか、その「実証」がおこなわれた後でなければ、安全とは言えない。
だいたい、だれが汚染水を陸上にためておくことに反対しているのか。
福島県民か。日本国民か。
だれが海へ放出することを望んでいるのか。
何のために望んでいるか。
新聞が追及すべきことは、政府の言い分に疑問点がないかどうかである。
菅が言っているままに(あるいは、耳障りの言いように「希釈」して)、それを垂れ流しているのでは「公害」である。
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