鈴木ユリイカ『群青くんと自転車に乗った白い花』(書肆侃侃房、2020年10月31日発行)
01月08日に、鈴木ユリイカ『群青くんと自転車に乗った白い花』の感想を書くつもりでいた。珍しく雪が降った日で、書く前に雪見、と思って家を出た途端に転び、救急車で病院へ、そのまま入院。やっと退院してきてみると、詩集に付箋がいくつか挟まっている。しかし、何を書きたかったのか、ぜんぜん思い出せない。ことばというものは、生き物だから三か月も放置しておくとちがった具合に育ってしまうのかもしれない。
「娘の娘の娘たちI Kに」という作品に、こんな行がある。
考えてもごらんよ かつて
あなたもわたしも誰かの娘の娘の娘たちだった そして
あなたもあの娘たちのとし頃には高円寺の四畳半を脱出し
長い髪のほかになにももたず 海を渡り
幾つもの国々を若い力で歩いて行った
入院中に「考える」と「思う」についていろいろ書いた。そのせいだろうけれど、この「考えてごらんよ」が強く私に迫ってきた。あ、そうか、鈴木は「考える人」だったのだ、と感じた。
考えることで世界と向き合う。考えることで世界へ出て行く。これはしかし、最初からある考えを持って世界と向き合うことではない。だから、こう言い直そう。鈴木は世界と向き合うことで考える。世界へ出て行くことで考える。出て行くときは、「なにももたず」、ただ出て行くのである。ここに鈴木の力がある。正直がある。
「若い力」とは、そういうものであろう。
世界と出会い、そこで考えるということは、世界との出会いのなかで自分自身を作り上げるということである。
鈴木の詩(ことば)はスケールが大きいが、その大きさは、最初に「考え」が設定されていないからである。閉じていないからである。自分の考えにあわせて世界を見つめる(切りとる)のではなく、世界のなかで自分の考えをつくる。そのためにことばを動かす。
引用した前の連には、こう書いてある。
冬のあいだじゅう 苦しくひびわれ 雪や寒風にたたかれ続けた
木の枝からもいだ蜜柑がさっと開いたように
急にわたしの目の前が明るくなった
こんなふうに未来がやってくるとは思ってもみなかった
ここには「思う」という動詞が書かれている。「思い」を突き破ってあらわれる世界が「未来」である。そして、その新しい「世界=未来」が見えた瞬間にこそ、鈴木は「考える」のである。「思い」という漠然としたものを振り切って、「考える」。考えて「歩く」、つまり、行動する。
「考え」が「行動」を律する。それが人間の生き方である。そこに「自由」がある、と書き直せば、それは私が入院中に読み直したベルグソンに通じる。
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