詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

鈴木ユリイカ『群青くんと自転車に乗った白い花』

2021-04-11 09:23:47 | 詩集

鈴木ユリイカ『群青くんと自転車に乗った白い花』(書肆侃侃房、2020年10月31日発行)

 

 

 01月08日に、鈴木ユリイカ『群青くんと自転車に乗った白い花』の感想を書くつもりでいた。珍しく雪が降った日で、書く前に雪見、と思って家を出た途端に転び、救急車で病院へ、そのまま入院。やっと退院してきてみると、詩集に付箋がいくつか挟まっている。しかし、何を書きたかったのか、ぜんぜん思い出せない。ことばというものは、生き物だから三か月も放置しておくとちがった具合に育ってしまうのかもしれない。
 「娘の娘の娘たちI Kに」という作品に、こんな行がある。


考えてもごらんよ かつて
あなたもわたしも誰かの娘の娘の娘たちだった そして
あなたもあの娘たちのとし頃には高円寺の四畳半を脱出し
長い髪のほかになにももたず 海を渡り
幾つもの国々を若い力で歩いて行った

 入院中に「考える」と「思う」についていろいろ書いた。そのせいだろうけれど、この「考えてごらんよ」が強く私に迫ってきた。あ、そうか、鈴木は「考える人」だったのだ、と感じた。
 考えることで世界と向き合う。考えることで世界へ出て行く。これはしかし、最初からある考えを持って世界と向き合うことではない。だから、こう言い直そう。鈴木は世界と向き合うことで考える。世界へ出て行くことで考える。出て行くときは、「なにももたず」、ただ出て行くのである。ここに鈴木の力がある。正直がある。
 「若い力」とは、そういうものであろう。
 世界と出会い、そこで考えるということは、世界との出会いのなかで自分自身を作り上げるということである。
 鈴木の詩(ことば)はスケールが大きいが、その大きさは、最初に「考え」が設定されていないからである。閉じていないからである。自分の考えにあわせて世界を見つめる(切りとる)のではなく、世界のなかで自分の考えをつくる。そのためにことばを動かす。
 引用した前の連には、こう書いてある。

冬のあいだじゅう 苦しくひびわれ 雪や寒風にたたかれ続けた
木の枝からもいだ蜜柑がさっと開いたように
急にわたしの目の前が明るくなった
こんなふうに未来がやってくるとは思ってもみなかった

 ここには「思う」という動詞が書かれている。「思い」を突き破ってあらわれる世界が「未来」である。そして、その新しい「世界=未来」が見えた瞬間にこそ、鈴木は「考える」のである。「思い」という漠然としたものを振り切って、「考える」。考えて「歩く」、つまり、行動する。
 「考え」が「行動」を律する。それが人間の生き方である。そこに「自由」がある、と書き直せば、それは私が入院中に読み直したベルグソンに通じる。

 

 

 

**********************************************************************

★「詩はどこにあるか」オンライン講座★

メール、skypeを使っての「現代詩オンライン講座」です。
メール(宛て先=yachisyuso@gmail.com)で作品を送ってください。
詩への感想、推敲のヒントをメール、skypeでお伝えします。

★メール講座★
随時受け付け。
週1篇、月4篇以内。
料金は1篇(40字×20行以内、1000円)
(20行を超える場合は、40行まで2000円、60行まで3000円、20行ごとに1000円追加)
1週間以内に、講評を返信します。
講評後の、質問などのやりとりは、1回につき500円。

(郵便でも受け付けます。郵便の場合は、返信用の封筒を同封してください。)

 

★skype講座★
随時受け付け。ただし、予約制(午後10時-11時が基本)。
週1篇40行以内、月4篇以内。
1回30分、1000円。
メール送信の際、対話希望日、希望時間をお書きください。折り返し、対話可能日をお知らせします。

費用は月末に 1か月分を指定口座(返信の際、お知らせします)に振り込んでください。
作品は、A判サイズのワード文書でお送りください。
少なくとも月1篇は送信してください。


お申し込み・問い合わせは、
yachisyuso@gmail.com


また朝日カルチャーセンター福岡でも、講座を開いています。
毎月第1、第3月曜日13時-14時30分。
〒812-0011 福岡県福岡市博多区博多駅前2-1-1
電話 092-431-7751 / FAX 092-412-8571

**********************************************************************

「詩はどこにあるか」12月号を発売中です。
137ページ、1750円(送料別)
オンデマンド出版です。発注から1週間-10日ほどでお手許に届きます。
リンク先をクリックして、「製本のご注文はこちら」のボタンを押すと、購入フォームが開きます。

https://www.seichoku.com/item/DS2000183

(バックナンバーは、谷内までお問い合わせください。yachisyuso@gmail.com)

オンデマンドで以下の本を発売中です。

(1)詩集『誤読』100ページ。1500円(送料別)
嵯峨信之の詩集『時刻表』を批評するという形式で詩を書いています。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168072512

(2)評論『中井久夫訳「カヴァフィス全詩集」を読む』396ページ。2500円(送料別)
読売文学賞(翻訳)受賞の中井の訳の魅力を、全編にわたって紹介。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168073009

(3)評論『高橋睦郎「深きより」を読む』76ページ。1100円(送料別)
詩集の全編について批評しています。
https://www.seichoku.com/item/DS2000349

(4)評論『高橋睦郎「つい昨日のこと」を読む』314ページ。2500円(送料別)
2018年の話題の詩集の全編を批評しています。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168074804


(5)評論『ことばと沈黙、沈黙と音楽』190ページ。2000円(送料別)
『聴くと聞こえる』についての批評をまとめたものです。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168073455

(6)評論『天皇の悲鳴』72ページ。1000円(送料別)
2016年の「象徴としての務め」メッセージにこめられた天皇の真意と、安倍政権の攻防を描く。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168072977

 

 

問い合わせ先 yachisyuso@gmail.com

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする