熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

水と生きる・・・サントリー美術館

2007年08月10日 | 展覧会・展示会
   水をテーマに、新しい東京ミッドタウンのサントリー美術館で開館記念展「水を生きる」が開かれている。
   梅雨明けで熱さが厳しさを増しているので、涼を呼ぶ催しで時宜を得ているのだが、大切な美術品の保護のためか、薄暗い会場に雑多な作品が展示されているので涼しさは感じられない。

   山紫水明と言うくらい自然の変化と美しさに恵まれている日本であるから、人々の暮らしにおける水との関わりは、どこの国の人々よりも深い。
   私の子供の頃には、まだ、田舎では井戸が健在であったし、小川で洗濯するなどと言うのは普通であったし、谷川の水など非常に美しくて美味しかった。
   川の水が、国によっては真っ黒であったり真っ赤であったり、あるいは、普通に水を飲んだだけで腹を壊して七転八倒しなければならない水があり、年中殆ど雨が降らないので川を知らない子供が居る国があるなどと知ったのは、ずっと後になって世界を歩いてからのことである。

   最初のコーナーでは、「潤 水と生きる」がテーマで、水のほとりの生活を描いた風景画や浮世絵、巻物などが展示されている。
   広重の東海道五十三次等は当然水辺の風景が多いので沢山展示されているのだが、私は、江戸時代の六曲一双の屏風図「京大坂図屏風」に興味を持って見ていた。
   大井川、鴨川、宇治川の三川合流点の上下の風景など丁寧に画かれていて、当時、何が人々の関心事であったか分かって面白かった。
   水運を通じて人々の生活が結びついていたのである。

   第二のコーナーは、「流 水の表現」がテーマで、和服や能衣装や家具調度・文具などに表現された水の形の造形が、日本の美意識を昇華した感じで素晴らしい。
   ここに、丸山応挙の「青楓瀑布図」が展示されていた。
   右端に黒っぽい山壁を一条残しただけで全面殆ど真っ白に流れ落ちる瀑布の水で、画の下部中央の滝壺には真っ黒な大きな岩が飛び出し、周りを激流が逆巻いている。
   滝に落ちる水を背景に薄緑色のカエデの枝が右上から降りている。これがモノトーンの水墨画の唯一の色彩であるが、実に豪快なしかし静かな画である。
   広重の「庄野」の画が展示されていた。右肩下がりの斜面の田舎道を雨に打たれながら駕篭かきと旅人が急ぐ姿を描いた絵で、私の好きな画で、またお会いしましたね、と言った感じで見ていた。

   第三のコーナーは、「涼 水の感覚」。水色を意識したのか、江戸切子などのガラス製品や陶器が展示されている。
   濃い藍色をかぶせた「切子藍色船形鉢」など実に精巧で美しく、職人の芸の細かさが偲ばれて素晴らしい。
   ベネチアングラスの華麗さや、ボヘミアングラスの精巧さはないが、素朴な江戸職人のガラス細工がシンプルで味があって清々しい。

   最後のコーナーは、「滴 水をよむ」。
   在原業平の「ちはやぶる 神代もきかず 竜田川 からくれなゐに 水くくるとは」の世界である。
   神代にもこんな美しさがあったとは聞いたことがない。竜田川に紅葉が舞い散って、唐くれない色にくくり染めにするなどと。と言う意味のようだが、こんな優雅な数々の和歌の世界を表出した三十六歌仙の画や「色絵竜田川文皿」、家具調度、櫛や化粧道具、文箱等々素晴らしい作品が展示されている。
   ところで、この竜田川だが、落語の世界となると、風流や風雅は飛んで行ってしまって無茶苦茶になる。
   無学な八五郎に業平の和歌を紹介したばかりに説明を聞かれて、先生は苦し紛れに答える。
   大関竜田川が千早太夫に恋をするが振られる。妹分の神代に仲立ちを頼むが聞かない。落ちぶれて女乞食になった千早が、豆腐屋になった竜田川の店先で「卯の花をくれ」と言ったが、振られたのを遺恨に持っておからもくれない。千早は悲観して井戸へどぶんと飛び込んで水をくぐって死んだ。
   「とは」とは何かと八五郎に聞かれて、後でよく調べたら千早の本名だったと全く口から出任せを答えてこれがおちとなる。

   こんな話を思い出して展示を見ていると雰囲気が壊れてしまって現実に引き戻され風流台無しである。

   ところで、ロンドンで家を探していて、小さな水路がある「リトルヴェニス」と言う地区が人気が高くて高級住宅街だと言っていたのを思い出した。
   ロンドンの街中には、殆ど水を感じさせる街区はないので、やはり、水が身近に感じられシックな住宅地が貴重なのであろう。
   そう言えば、イギリスには水辺に沿った美しい住宅地が沢山あったような気がする。
   水のある生活は、文明生活には必須なのであろうが、しかし、逆に自然災害の恐ろしさを考えれば、幸せも不幸も隣り合わせなのである。
コメント
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