熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

世帯の所得格差、過去最大に

2007年08月24日 | 政治・経済・社会
   読売新聞の電子版に、「世帯の所得格差、過去最大に」と言う厚労省発表を踏まえた記事が出ていた。
   ジニ係数が、0.5263と言う異常に高い数字である。念のため、厚労省のオリジナルな数字を見ると、税金、社会保障関係等で調整した再分配所得では、0.3873となっていて改善されている。
   日本の再分配後のジニ係数が国際的には低水準で、平等な所得分配では定評がある国であると言う事実は本質的に変わらないので、問題は、ジニ係数が悪化して、所得格差が拡大しつつあると言うことである。

   ところで、ジニ係数とは何かと言う事であるが、
   縦軸に総所得額、横軸に人口を取ったグラフを作成し、原点の最も所得の低い人から順番に所得額を合計して行き、その累積所得額の数字を順番にグラフの右方向に向かってプロットして行く。(これがローレンツ曲線)
   所得が平等であれば、その連続曲線は45度の直角三角形の右肩あがりの斜辺と一致するが、格差が大きくなると、その直線から離れて大きくJ字型に下にたわむ。(最低所得者の原点と、最後の最高所得者の位置は、三角形の頂点と一致する。)
   このたわんだ上弦の月のようなエプロン状の面積を、先の直角三角形の面積で割ったのがジニ係数である。
   ジニ係数が、0.5と言うのは大変なたわみだと言うことが分かるので、所得格差が非常に大きいことを意味する。

   もう少し、厚労省の統計を見ると、64歳以上のジニ係数が、0.8以上と非常に高くなり、これは年金生活者が大半であることを意味するのだが、調整後の再分配所得数値では標準化している。
   しかし、今後、現在のような労働慣行を維持し、老年者を不老人口に追いやる政策を維持する限り、益々、ジニ係数が悪化して所得格差が拡大して行く。

   正社員と非正規社員との所得格差については、誰でもが認知していることで大きな社会問題になっている。
   高度成長時代以前は、大企業と中小企業の賃金格差の二重構造が問題であったが、バブル崩壊以降は、労働力の過剰が企業の経営を圧迫したので、コスト削減のために、非定期雇用やアドホックな労働慣行が優勢となり、新しい労働問題を引き起こすこととなった。
   企業そのものが、正社員としての固定的な社員を少なくして、派遣や下請け、アウトソーシング等で労働力を補完して行く体制が常態になり、人材派遣会社の不祥事や大企業の偽装下請けなど新しい労働問題を引き起こしている。
   しかし、何らかの形で、変動する労働需給を調整する有効な雇用システムの創出は絶対に必要である。

   ところで、この日本の所得格差の拡大については、経済のグローバリゼーションの影響が大きく陰を落とし始めていることに注意しなければならない。
   世界の趨勢が、コンピューターやIT技術、ロボットがやれる仕事、そして、中国やインドなどの発展途上国にアウトソーシングやオフショアリング出来る仕事はやるな。やっても勝ち目がないし、そのような仕事の賃金は、世界の最貧国の賃金水準に落ちてしまう。と言うのが常識になってしまって来ている。

   現在の日本の労働市場における低賃金の相当多くはこの部類に属していて、賃金を上げれば即刻駆逐されてしまうような仕事が多い。まして、労働が自由化されて、外人労働者を自由に受け入れるようになると、益々、賃金の下方傾向が進む。
   この意味からも、民主党や社民党などが、最低賃金を1000円に引き揚げると主張しているが、日本の経済社会の大きな改革など抜本的な手を打たない限り、人為的に最低賃金を上げただけでは有効に機能する訳がなく、益々、零細中小企業を窮地に追い込むこととなる。

   会計学の専門家に聞いたが、最近では弥生会計や勘定奉行などのソフトの普及で、素人でも僅かな出費で会計処理が出来るので、従来の税理士や会計士の仕事がなくなって来ていると言う。
   先日もブログで書いたが、TKCの税務の電子申告のような単純な仕事は、インドや中国の会社が、簡単に日本語と日本の法律を勉強しさえすればすぐに対応できるので、超安値で取って代わられるのも時間の問題である。

   同じ仕事をしておればその価格は世界的に平準化されて一番安い価格に収斂して行くと言う「要素価格均等化定理」法則が働くのは、製造業だけではない。
   日本のあらゆる産業に、経済のグローバリゼーションによる大きな平準化の波が襲い掛かっており、この激烈な国際競争の原理から逃げられないと言うこと、この厳粛な事実を認識して対策を講じない限り、日本の格差問題の解決は難しいと言うことである。
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