ブラジル最大の家電や家具の小売チェーン「カサス・バイア」が、ブラジルの貧民街ファベーラだけに店舗を持ち、ファベーラに住むスラム街の住民だけを相手に事業を営んでいて驚異的な業績を上げていると言う。
それも、定職など殆ど就いたことがなく、日々の生活にさえ事欠いているファベーラの住人達にローンを提供して販売し、債務不履行の比率が平均の半分以下だと言うのだから驚きである。
ファベーラの住民達も、カサス・バイアの運送車だけは襲わないと言う。
積読であったC.K.プラハラード教授の「ネクスト・マーケット」を読んで、全く商売にならないと考えられていた最貧国の一日2ドル以下で生活している極貧の人々を相手にして、革新的な事業を営んで好業績を上げている企業があるのを知って驚いているのだが、カサス・バイアは、正に、その1つのケースなのである。
確かにすぐに使える金は殆ど持っていないが、全世界で40億人以上の膨大な人口とその巨大な潜在的購買力を持った極貧のBOP(The Bottom of the Pyramid)を攻略するために、これまでの固定観念をすっぱり捨てて斬新な戦略を打ち出しイノベーションを追求すれば、途方もないビジネス・チャンスに恵まれることを、この本は、豊富なケース・スタディを紹介しながら語っていて非常に面白い。
例えば、シャンプーでも一回限りの使い切り分だけの量をパックすれば飛ぶように売れるが、まやかしの商品ではなく一級品でなければならない、とか、地元の婦人をエイボン・レディのように企業家に仕立ててしらみつぶしに訪問販売する、とか、貧しい漁民や農民にPCを持たせて既得利権に毒された流通機構を出し抜いて世界の市場で入札させる、とか、とにかく、従来の常識を一切かなぐり捨てて革新的な手法を打つのである。
カサス・バイアは、ナチス強制収容所を生き延びたサミュエル・クラインによって1952年に設立された家族企業で、元は、バイアで、毛布やシーツ、枕カバーやバスタオルなどを一軒一軒売り歩く行商だったが、電子機器や家電製品、家具を販売するブラジル最大の小売チェーンに変貌させた。
「顧客は、ストーブやTVを買いに来るのではなく、夢を買いに来るのだ。その夢を叶える手助けをするのが販売員。これほど重要なことを多くの競合企業、特に外国企業は分からない。」から、ウォルマートもカルフールも失敗して撤退してしまった。
サンパウロの郊外のファベーラには、故郷のバイアのある北東部から流れ込んできた貧しい人々が犇いて住んでいる。
そのような人々のニーズを満たすために、どうすれば良いのか。
答えは簡単、「融資すること」だったと気付くと、独自の融資モデルを開発したのである。
多くの企業は、BOPを「招かざる客」と看做したが、カサス・バイアは、唯一の目標は顧客の夢を実現することと「徹底的にあなたに尽くします」戦術を駆使して、極貧層の消費者にチャンスを見出したのである。
「カルネ」と言う支払い通帳の仕組みを使い、顧客は少額の分割払いを行う。支払い期間は、1~15ヶ月で、支払いが出来るのはカサス・バイアの店舗だけで、顧客は毎月店舗に出かけて支払わなければならない。この方法は、顧客との関係維持にも役立ち、この割賦販売は、全体の90%を占めると言う。
ローンで購入を希望する顧客は、ブラジルの信用調査機関SPCのの信用調査を受ける必要があり、得点がプラスの客のみが受け入れられる。
購入額が600レアル(約3万円)までなら正当な定住所があればOKで、600レアルを越えると、カサス・バイアが独自に開発した顧客評価システム・チェックで上限が決められる。
これをオーバーする場合には、次に同社のクレジット・アナリストのよる直接聞き取り評価が行われ、これが人間関係を築く上で重要なプロセスになっている。この新規顧客の返済能力を判定する独自のシステムが、既存顧客の追加購入の際の評価にも利用されている。
予算に従って購入することを価格や支払方法を検討しながら販売員が消費者に教え、27インチのTVを20インチにグレードダウンするなど微調整を行うこの消費者教育が、債務不履行率を下げるのに役立っている。
この優秀なクレジット・アナリストを如何に教育して育てるかが、カサス・バイアの最大の眼目であり、顧客が正直で誠実であり、必要な支払いが可能かどうかを判断するのみならず、詐欺行為を見張る役割も果たす。
しかし、彼らのもっと重要な役割は、顧客と長続きする人間関係を構築しこれを維持して行くことで、この好循環が、カサス・バイアの好業績を支えている。
顧客の信用取引に「ノー」と言わざるを得ない場合が16%あるが、ノーと言えばその顧客の夢を潰すので、生涯の顧客として遇するために出来るだけノーと言わずに済ませる方法を模索すると言う。
カサス・バイアは、ファベーラの住人と富裕客との差は当座支払う金がないだけで、最新かつ最上等の家電製品を求めているのを知っているので、ソニーや東芝など最高級ブランドを扱って販売していると言う。
面白いのは、ブラジルでは供給状態が不安定なので、サプライチェーンの構築より、南米一の巨大な倉庫を持って在庫を維持していること、維持管理コストを抑えるために配送トラックは総てメルセデス製であること、徹底的にTV,ラジオのコマーシャルを活用すること、顧客と直結する配達は総て制服で威儀を正した正社員に行わせ外注しないこと、最新のIT技術の率先活用、等々とにかく、経営手法に一家言あって、ブラジル企業とは思えない経営のユニークさである。
随分以前になるが、ブラジルに住んでいた時、一度、サンバ楽団として訪日して人気を博したと言う打楽器奏者を訪ねて、彼らの住んでいたファベーラを訪ねたことがある。
確かに、黒いオルフェの世界で、酷い状態の生活空間ではあったが、随分明るかった印象を持っている。
しかし、ブラジルでは、一度不況が吹き荒れると、大学を出て外資企業で高給を取っていた紳士が、ファベーラに移り住んで、ドブ道を通勤し始めることもある。
カサス・バイアは、ファベーラにしか店舗がないので、ブラジルで全く見なかったのも道理かも知れない。
このプラハラード教授の「ネクスト・マーケット」は、2005年出版なので、カサス・バイアも、高級店をオープンしたり、クレジット・カード移行への趨勢などで大分変わってしまっていると思うが、とにかく、久しぶりに、興味深い経済・経営学書を読んだ感じがしている。
それも、定職など殆ど就いたことがなく、日々の生活にさえ事欠いているファベーラの住人達にローンを提供して販売し、債務不履行の比率が平均の半分以下だと言うのだから驚きである。
ファベーラの住民達も、カサス・バイアの運送車だけは襲わないと言う。
積読であったC.K.プラハラード教授の「ネクスト・マーケット」を読んで、全く商売にならないと考えられていた最貧国の一日2ドル以下で生活している極貧の人々を相手にして、革新的な事業を営んで好業績を上げている企業があるのを知って驚いているのだが、カサス・バイアは、正に、その1つのケースなのである。
確かにすぐに使える金は殆ど持っていないが、全世界で40億人以上の膨大な人口とその巨大な潜在的購買力を持った極貧のBOP(The Bottom of the Pyramid)を攻略するために、これまでの固定観念をすっぱり捨てて斬新な戦略を打ち出しイノベーションを追求すれば、途方もないビジネス・チャンスに恵まれることを、この本は、豊富なケース・スタディを紹介しながら語っていて非常に面白い。
例えば、シャンプーでも一回限りの使い切り分だけの量をパックすれば飛ぶように売れるが、まやかしの商品ではなく一級品でなければならない、とか、地元の婦人をエイボン・レディのように企業家に仕立ててしらみつぶしに訪問販売する、とか、貧しい漁民や農民にPCを持たせて既得利権に毒された流通機構を出し抜いて世界の市場で入札させる、とか、とにかく、従来の常識を一切かなぐり捨てて革新的な手法を打つのである。
カサス・バイアは、ナチス強制収容所を生き延びたサミュエル・クラインによって1952年に設立された家族企業で、元は、バイアで、毛布やシーツ、枕カバーやバスタオルなどを一軒一軒売り歩く行商だったが、電子機器や家電製品、家具を販売するブラジル最大の小売チェーンに変貌させた。
「顧客は、ストーブやTVを買いに来るのではなく、夢を買いに来るのだ。その夢を叶える手助けをするのが販売員。これほど重要なことを多くの競合企業、特に外国企業は分からない。」から、ウォルマートもカルフールも失敗して撤退してしまった。
サンパウロの郊外のファベーラには、故郷のバイアのある北東部から流れ込んできた貧しい人々が犇いて住んでいる。
そのような人々のニーズを満たすために、どうすれば良いのか。
答えは簡単、「融資すること」だったと気付くと、独自の融資モデルを開発したのである。
多くの企業は、BOPを「招かざる客」と看做したが、カサス・バイアは、唯一の目標は顧客の夢を実現することと「徹底的にあなたに尽くします」戦術を駆使して、極貧層の消費者にチャンスを見出したのである。
「カルネ」と言う支払い通帳の仕組みを使い、顧客は少額の分割払いを行う。支払い期間は、1~15ヶ月で、支払いが出来るのはカサス・バイアの店舗だけで、顧客は毎月店舗に出かけて支払わなければならない。この方法は、顧客との関係維持にも役立ち、この割賦販売は、全体の90%を占めると言う。
ローンで購入を希望する顧客は、ブラジルの信用調査機関SPCのの信用調査を受ける必要があり、得点がプラスの客のみが受け入れられる。
購入額が600レアル(約3万円)までなら正当な定住所があればOKで、600レアルを越えると、カサス・バイアが独自に開発した顧客評価システム・チェックで上限が決められる。
これをオーバーする場合には、次に同社のクレジット・アナリストのよる直接聞き取り評価が行われ、これが人間関係を築く上で重要なプロセスになっている。この新規顧客の返済能力を判定する独自のシステムが、既存顧客の追加購入の際の評価にも利用されている。
予算に従って購入することを価格や支払方法を検討しながら販売員が消費者に教え、27インチのTVを20インチにグレードダウンするなど微調整を行うこの消費者教育が、債務不履行率を下げるのに役立っている。
この優秀なクレジット・アナリストを如何に教育して育てるかが、カサス・バイアの最大の眼目であり、顧客が正直で誠実であり、必要な支払いが可能かどうかを判断するのみならず、詐欺行為を見張る役割も果たす。
しかし、彼らのもっと重要な役割は、顧客と長続きする人間関係を構築しこれを維持して行くことで、この好循環が、カサス・バイアの好業績を支えている。
顧客の信用取引に「ノー」と言わざるを得ない場合が16%あるが、ノーと言えばその顧客の夢を潰すので、生涯の顧客として遇するために出来るだけノーと言わずに済ませる方法を模索すると言う。
カサス・バイアは、ファベーラの住人と富裕客との差は当座支払う金がないだけで、最新かつ最上等の家電製品を求めているのを知っているので、ソニーや東芝など最高級ブランドを扱って販売していると言う。
面白いのは、ブラジルでは供給状態が不安定なので、サプライチェーンの構築より、南米一の巨大な倉庫を持って在庫を維持していること、維持管理コストを抑えるために配送トラックは総てメルセデス製であること、徹底的にTV,ラジオのコマーシャルを活用すること、顧客と直結する配達は総て制服で威儀を正した正社員に行わせ外注しないこと、最新のIT技術の率先活用、等々とにかく、経営手法に一家言あって、ブラジル企業とは思えない経営のユニークさである。
随分以前になるが、ブラジルに住んでいた時、一度、サンバ楽団として訪日して人気を博したと言う打楽器奏者を訪ねて、彼らの住んでいたファベーラを訪ねたことがある。
確かに、黒いオルフェの世界で、酷い状態の生活空間ではあったが、随分明るかった印象を持っている。
しかし、ブラジルでは、一度不況が吹き荒れると、大学を出て外資企業で高給を取っていた紳士が、ファベーラに移り住んで、ドブ道を通勤し始めることもある。
カサス・バイアは、ファベーラにしか店舗がないので、ブラジルで全く見なかったのも道理かも知れない。
このプラハラード教授の「ネクスト・マーケット」は、2005年出版なので、カサス・バイアも、高級店をオープンしたり、クレジット・カード移行への趨勢などで大分変わってしまっていると思うが、とにかく、久しぶりに、興味深い経済・経営学書を読んだ感じがしている。