熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

ダウ・ジョーンズ買収劇

2007年08月02日 | 政治・経済・社会
   ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)を傘下に持つダウ・ジョーンズ社を大衆メディアの帝王ルパート・マードックが買収する。
   エコノミストの記事では、いみじくも”Rupert gets his trophy"のタイトルで、このニュースを報じている。
   しかし、銭勘定の前に、とにかく、世界有数の新聞の一つを買収したいと言う夢をかなえる為に、巨大な金を積み増して買ったのであるから、ニューズ・コーポレーションの株主も穏やかではないのであろう。

   ニューズは、今秋、経済専門チャンネルをアメリカで始めるようなのでDJの持つ貴重な経済情報資源を有効に活用出来るのは幸いではあるが、果たして、マードックが目論むように、うまくWSJを拡大して同時に他のオンラインや放送メディアとリンクしながら相乗効果を上げ得るかは未知数であろう。

   もう、20年も前になるが、マードックは、ファイナンシャル・タイムズ(FT)を買収しようとして、相当数の株を買い込んだことがある。
   当時、FT本社建物の開発に関わっていた関係で、FTの親会社ピアソンの社長ブレイクナム卿と話したことがあるが、マードックの買収したタイムズが大衆紙化して酷い状態になっていたので、非常に神経を尖らせていた。
   結局、この話はそれ以上進展しなかったようである。
   また、高級紙INDEPENDENTが発刊されて、タイムズの穴を埋めたので、英国の新聞も平衡を保つようになった。

   マードックは、WSJの「編集権の独立」を確約することでバンクロフト家を納得させたようであるが、果たして、資本の論理を優先してこれまでメディアを抑えて大帝国を築いて来た実績から、そんなことが出来るのであろうか。
   FOX TVの大衆化については言うまでもないが、タイムズもニューヨーク・ポストも非常にポピュリズムを志向した新聞で、マードックのメディアには、高級イメージが乏しい。
   WSJが、ポスト・マードックでどう変わるのか、興味深い。

   「編集権の独立」と言う一番重要な点だが、バンクロフト家は、「所有すれど、統治せず」と言う方針を貫いてきたと言う。
   ブレイクナム卿も、「編集権の独立」は絶対で、社長の自分のこともFTに無茶苦茶書かれたことがあると笑っていた。
   吉田首相が、記者達に突き上げられて「新聞を読んでいないのか」と聞かれて、「僕はタイムズしか読まないからね」と応えた有名な話があるが、世界一権威のあったこのタイムズが、マードックの買収後、とうとう、並の大衆紙に成り下がってしまった。

   このニューズ・コーポレーションとダウ・ジョーンズの再編を見ていて感じるのは、やはり、IT革命の大波を受けて、報道関係メディアの大きな再編成が起こっていると言うことである。
   カナダの総合情報会社トムソンとロイターとの合併が、その大波の頂点だったが、益々、比重を増し始めた経済情報の報道の流れが大きく変わって来つつあることを示している。

   果たして、このデジタル時代に、今の状態で、新聞がこのままの状態で生き残って行けるのであろうか。
   第一、ニュースに関する新鮮さは、TVやインターネットにはるかに劣っていて、後追いと確認と言うような役回りになってしまった。
   新聞の代わりは、インターネットで十分だし、それも、携帯電話の多機能化によって、どんどんその代替化が進んでいる。
   益々需要の拡大する正確かつ適切な高度の経済情報を、如何に有効に提供出来るのか、デジタル化が進展するこのIT時代に、メディアの対応が問われている。
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