熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

オープンソースのグローバル製造業・・・ボーイング

2007年08月03日 | イノベーションと経営
   ボーイング社は、旧来の階層構造的なプロデューサーとサプライヤーの関係を捨てて、ボーイング787の開発に当たっては、オープンソース・システムで対応しようとしている。
   すなわち、自らはプライム・システム・インテグレーターとなってサプライヤーをパートナーとして遇し、これらが一丸となって、新製品開発の最初から最後までのライフサイクルを通じ、巨大開発プロジェクトのコストとリスクを分散し、設計から製造、果ては長期的なメインテナンスやサポートに至るまでコラボレーションで進めるのである。

   コストを削減しつつ革新を推進し、新型機を短期間で市場に送り出すことを目指し、航空機を構成する膨大な数の機能や部品の可なりの部分をサプライヤーに任せるマスコラボレーション方式に移行したので、パートナー各社は、リナックス・オペライティング・システムに参加するプログラマーに似たような形で、航空機の設計や製造に参加するのである。

   組織と言うものは、階層型の指揮命令系統が主体であったが、今や、このような従来型の階層構造と支配による生産モデルに代わって新しいパワフルなモデル・・・コミュニティとコラボレーション、自発的秩序形成によるモデルが生まれつつあるのだと、ドン・タブスコットとアンソニー・D・ウィリアムズが新著「ウィキノミクス」で新しい経済社会の新潮流を開陳していて非常に面白い。
   前述のボーイング787プロジェクトについては、WIKINOMICS(WikiとEconomicsとをあわせた造語)展開の内、世界工場(GLOBAL PLANT FLOOR)と言う項で紹介している。
   「地球規模のエコシステムでモノを設計し製造する」と副題が付いおり、ファブレス自動車工場としてBMWや重慶の二輪車生産なども取り上げており、高度な製造業においても、リナックスやブリタニカを凌駕した無料のインターネット辞書ウィキペディアと同じ様な、オープンソース・システムが進みつつあると言うのである。

   欧米製造業が得意とするモジュラー型・組み立て型方式を主体におきながら、グローバルベースのコラボレーションでインテグラル型・擦り合わせ型手法を活用しようと言う新しい生産方式だが、ボーイングの場合、グローバルベースでトップ企業を糾合出来るので、その革新性とコスト削減、開発スピードなどその効果は非常に大きいと言う。
   設計チームには乗客代表まで参加していると言うが、787の場合は、大きな部品やサブアセンブリーをまるでレゴブロックのように嵌め合わせるだけとなる筈なので、3日間で完成すると言うのである。

   この787プロジェクトでは、一つの図面、一つのシュミレーションしかないのだが、総てのパートナーが共有し、世界のどこからでも何時でも、アクセス出来、改定状況はソフトが追跡する。自分たちが作る部品がどのように作用し合うのか、設計の段階で、リアルタイムにシュミレーションして確認出来る。
   世界各地に分散した設計製造チームを統合し、複雑な構造物を仕上げるプロジェクトを推進するために、極めて困難な中核のネットワークは、ボーイングとダッソーが開発した、リアルタイムのコラボレーションを可能にするシステム、グローバルコラボレーション環境だと言う。

   この動きは、超ハイテク企業で、高い技術力を持ち業界をリードして来たボーイング社が、イノベーションのかなりの部分をサプライヤーに任せ、物理的な商品の開発と市場投入が、互いを補うスキルと能力を持つパートナーによる広大なエコシステムと一緒に仕事をすると言うように大きく戦略を転換したことを意味する。
   この高度化したウイキノミクスの世界では、物理的なものを発明し構築するよりも、むしろ、優れたアイデアを編み上げ連携させることにこそイノベーションがあるのだとまで著者達は言う。

   ところで、興味深いのは、重慶のオートバイ生産で、日本製品を真似たリバースエンジニアリング。何年もかけて日本の技術を吸収してきた多くの中国業者が、自律的に、各パーツを生産して組み立てて売り出すという方式で、日本メーカーを駆逐してしまった。
   本来、オートバイは、高度な擦り合わせ型の製品だが、中国では基本的な移動手段で高性能である必要はないので、数百社が、設計から製造まで組み合わせ型となるモジュラー性を重視したコラボレーションで進める形を取りおり、急速にサプライチェーンを整備して成長してきた。
   中核のないオープンソース生産なので、問題が起きると茶店に出かけて調整するとか、それでも、アジアのオートバイ市場を押さえるのは時間の問題だという。

   このような生産システムの再編成は、正に、IT革命とグローバリゼーションのなせる技であるが、単に、モジュラー型・組み合わせ型とインテグラル型・擦り合わせ型と言った単純なシステムの差ではなく、オープン化の進展によりグローバルベースのマスコラボレーションの拡大とともに、生産システムが大きく変わりつつあることを示している。
   いまだに、ワンセット主義で自社で総てに対応しようとしたり、技術のブラックボックス化に拘る日本企業の姿勢の対極にあるような趨勢だが、本舞台では、大きなグローバル規模のビジネス革命が進みつつある。
   
   
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