カルメンを歌ったメゾ・ソプラノのジョシー・ペレスが、感極まったのか涙を必死に堪えながら最後のカーテン・コールに答えていたのが、今回の小澤カルメンの素晴らしさを如実に物語っている。
ジャン=ピエール・ポネルのシックな舞台とワーナー・ユルケのクラシックで華麗な衣装がカルメンの魅力を更に高めていて、実に絵のように美しい舞台展開であった。
幕開きのストップモーションが正に絵画であり、照明が消えて幕切れとなる演出も心憎い。
非常にオーソドックスな舞台だが、第2幕の居酒屋「リーリャス・バスティヤ」の場で、演出によるのだが、先年、モンテカルロ・オペラの時は、アントン・マルケス舞踏団が華麗なフラメンコを見せて楽しませてくれたが、残念ながらそのような舞踏の場はなかった。
ビゼーが作曲した時点では語る台詞付きのオペラだったのを、ウィーンでレチタチィーヴォ(歌う台詞)に変えて成功を見たのでこれが継承されていたが、今回の小澤版カルメンは、この意味でもビゼーの構想に戻っている。
田舎モノで純真無垢な伍長ドン・ホセが多情多感なジプシー娘カルメンに誘惑されて道を外し、人生を翻弄されて殺人に至る悲惨な物語で、それに、盗賊団に絡む話であるから、諸手を上げて賞賛されるような内容のオペラではないが、日本の忠臣蔵級の人気があるのは、非常に分かり易い男女の愛の物語であり、ビゼーの音楽があまりにも魅力的な所為であろうか。
あっちこっちで、可なりカルメンを観ているが何回観ても楽しめるのはやはり素晴らしいオペラなのであろう。
私のカルメン像はどうしても、ロンドンのロイヤル・オペラで観た2階のバルコニーに飛び出てきたアグネス・ヴァルツァの牝豹のように精悍なカルメンであるが、今回のジョシー・ペレスは、実に妖艶で、タバコ工場の壁際の水道に横すわりに腰をかけて、綺麗な足を曝して実に蠱惑的な流し目を兵士たちにくれながら歌い始める。
プエルトリコ出身と言うからスペイン・オリジンでありカルメン歌いとしての雰囲気を持っているのも当然であろうが、役者のように実に演技が上手くて、私が映画を含めて沢山観たカルメンの中では一番イメージに近い歌手であった。実にコケティッシュでいながら強烈な自由奔放な個性を発散した美しいカルメンなのである。
このジプシー女のカルメンが、第4幕の闘牛場の場では、白いロングドレスで髪を纏めてアップにして現われると実に優雅な貴婦人に早代わりしていてビックリしてしまった。
群集の中を舞うようにして歌うハバネラなど実に魅力的で、まだ若い所為かキャリアは少ないようだが、21歳で7年前にカルメンのメルセデスでMETデビューしており、ワシントンでイドメネオのイダマンテでドミンゴと共演しており、今を時めく名ソプラノキャロル・ヴァネスとリサイタルをやったというのだから将来が楽しみである。
ドン・ホセを歌ったアメリカのテノール・マーカス・ハドックは、あの大柄でスケールの大きいアンネ・ゾフィー・フォン・オッターとのグラインボーンでのカルメンで名声を博したと言うが、その後バイエルンやヒューストンで大変な人気とかでドン・ホセ歌手として定着していると言う。
実に美しく爽やかなテノールで、切々と語りかけるような誠実な歌唱が印象的で、多少ニュアンスが違うが、ホセ・カレーラスをイメージしながら聴いていた。
ジョシー・ペレスの芸達者ぶりが目立って大根役者的な役回りだが、それが、本当の朴訥なドン・ホセだったのかも知れない。
第4幕のカルメンとホセの歌う愛と死の2重唱は実に圧倒的で、どんどん増幅して行き奈落に突き進む心のねじれ現象が実に巧妙に歌い込まれていて終幕に感動を誘った。
私がオペラで好きな女性はトーランドットのリューとこのカルメンのミカエラだが、今回のイギリスのソプラノ・ケイティ・ヴァン・クーテンも実に清楚で初々しいミカエラを見せてくれた。第3幕の母の危篤を知らせてホセを故郷へ誘う独唱など実に感動的であった。
カルメンのメロディーで真っ先に浮かんでくるのは、エスカミーリヨが第2幕で歌う「闘牛士の歌」であるが、ポーランドのバリトン・マウリス・キーチェンが実に感動的な素晴らしい歌唱を聴かせてくれた。
今シーズンは、METでルチアのエンリコを、ロイヤルで椿姫のジェルモンを歌うようだが、はりのある美しいバリトンが冴えるであろう。
ところで、闘牛は、マドリードとメキシコで一回づつ見たことがあるが、3組のマタドールに率いられた集団が2回づつ行うので6回戦となるが、一撃の下にトロを仕留めたのを見たのはたったに一回しかなかった。
日本人の私にはその心境が良く分からなかったが、地元の観衆は巨人阪神戦を見るように熱狂的であった。
何日も暗闇の中で育てられた猛牛が、直前に短刀を背中に突き刺されて太陽の照りつけるアリーナに一挙に放たれ、馬に乗ったピカドールが頭を下げさせるために肩甲骨の筋肉に槍を突いて筋肉を切り、ついで3人のバンデリリューロが2本づつのもりをトロの背中に向かって突き立てる。
その後、真っ赤なムレータとサーベルを手にしたマタドールが登場し、トロとの15分間の死闘が始まる。
ムレータを前にかざしてトロを挑発し襲って来るとくるりと身をかわして避け、疲れて動かぬようになるとサーベルを狙い定めて肩口から心臓に突き立てる。
小澤征爾のエネルギッシュな指揮ぶりは見ていて実に爽快で、それに、小澤征爾が一生懸命に育てている小澤征爾音楽塾のオーケストラも合唱団の水準も何時もながら実に高く、今回は、更に東京少年少女合唱隊の素晴らしい歌と芸達者な舞台が加わって感激しきりであった。
カーテンコールの最後に、小澤征爾が少年少女合唱団を後から呼び寄せて前面に出しソリスト達も一体になって観客に応えていたのが印象的であった。
(追記)写真は、ジェシー・ペレス・ホームページから
ジャン=ピエール・ポネルのシックな舞台とワーナー・ユルケのクラシックで華麗な衣装がカルメンの魅力を更に高めていて、実に絵のように美しい舞台展開であった。
幕開きのストップモーションが正に絵画であり、照明が消えて幕切れとなる演出も心憎い。
非常にオーソドックスな舞台だが、第2幕の居酒屋「リーリャス・バスティヤ」の場で、演出によるのだが、先年、モンテカルロ・オペラの時は、アントン・マルケス舞踏団が華麗なフラメンコを見せて楽しませてくれたが、残念ながらそのような舞踏の場はなかった。
ビゼーが作曲した時点では語る台詞付きのオペラだったのを、ウィーンでレチタチィーヴォ(歌う台詞)に変えて成功を見たのでこれが継承されていたが、今回の小澤版カルメンは、この意味でもビゼーの構想に戻っている。
田舎モノで純真無垢な伍長ドン・ホセが多情多感なジプシー娘カルメンに誘惑されて道を外し、人生を翻弄されて殺人に至る悲惨な物語で、それに、盗賊団に絡む話であるから、諸手を上げて賞賛されるような内容のオペラではないが、日本の忠臣蔵級の人気があるのは、非常に分かり易い男女の愛の物語であり、ビゼーの音楽があまりにも魅力的な所為であろうか。
あっちこっちで、可なりカルメンを観ているが何回観ても楽しめるのはやはり素晴らしいオペラなのであろう。
私のカルメン像はどうしても、ロンドンのロイヤル・オペラで観た2階のバルコニーに飛び出てきたアグネス・ヴァルツァの牝豹のように精悍なカルメンであるが、今回のジョシー・ペレスは、実に妖艶で、タバコ工場の壁際の水道に横すわりに腰をかけて、綺麗な足を曝して実に蠱惑的な流し目を兵士たちにくれながら歌い始める。
プエルトリコ出身と言うからスペイン・オリジンでありカルメン歌いとしての雰囲気を持っているのも当然であろうが、役者のように実に演技が上手くて、私が映画を含めて沢山観たカルメンの中では一番イメージに近い歌手であった。実にコケティッシュでいながら強烈な自由奔放な個性を発散した美しいカルメンなのである。
このジプシー女のカルメンが、第4幕の闘牛場の場では、白いロングドレスで髪を纏めてアップにして現われると実に優雅な貴婦人に早代わりしていてビックリしてしまった。
群集の中を舞うようにして歌うハバネラなど実に魅力的で、まだ若い所為かキャリアは少ないようだが、21歳で7年前にカルメンのメルセデスでMETデビューしており、ワシントンでイドメネオのイダマンテでドミンゴと共演しており、今を時めく名ソプラノキャロル・ヴァネスとリサイタルをやったというのだから将来が楽しみである。
ドン・ホセを歌ったアメリカのテノール・マーカス・ハドックは、あの大柄でスケールの大きいアンネ・ゾフィー・フォン・オッターとのグラインボーンでのカルメンで名声を博したと言うが、その後バイエルンやヒューストンで大変な人気とかでドン・ホセ歌手として定着していると言う。
実に美しく爽やかなテノールで、切々と語りかけるような誠実な歌唱が印象的で、多少ニュアンスが違うが、ホセ・カレーラスをイメージしながら聴いていた。
ジョシー・ペレスの芸達者ぶりが目立って大根役者的な役回りだが、それが、本当の朴訥なドン・ホセだったのかも知れない。
第4幕のカルメンとホセの歌う愛と死の2重唱は実に圧倒的で、どんどん増幅して行き奈落に突き進む心のねじれ現象が実に巧妙に歌い込まれていて終幕に感動を誘った。
私がオペラで好きな女性はトーランドットのリューとこのカルメンのミカエラだが、今回のイギリスのソプラノ・ケイティ・ヴァン・クーテンも実に清楚で初々しいミカエラを見せてくれた。第3幕の母の危篤を知らせてホセを故郷へ誘う独唱など実に感動的であった。
カルメンのメロディーで真っ先に浮かんでくるのは、エスカミーリヨが第2幕で歌う「闘牛士の歌」であるが、ポーランドのバリトン・マウリス・キーチェンが実に感動的な素晴らしい歌唱を聴かせてくれた。
今シーズンは、METでルチアのエンリコを、ロイヤルで椿姫のジェルモンを歌うようだが、はりのある美しいバリトンが冴えるであろう。
ところで、闘牛は、マドリードとメキシコで一回づつ見たことがあるが、3組のマタドールに率いられた集団が2回づつ行うので6回戦となるが、一撃の下にトロを仕留めたのを見たのはたったに一回しかなかった。
日本人の私にはその心境が良く分からなかったが、地元の観衆は巨人阪神戦を見るように熱狂的であった。
何日も暗闇の中で育てられた猛牛が、直前に短刀を背中に突き刺されて太陽の照りつけるアリーナに一挙に放たれ、馬に乗ったピカドールが頭を下げさせるために肩甲骨の筋肉に槍を突いて筋肉を切り、ついで3人のバンデリリューロが2本づつのもりをトロの背中に向かって突き立てる。
その後、真っ赤なムレータとサーベルを手にしたマタドールが登場し、トロとの15分間の死闘が始まる。
ムレータを前にかざしてトロを挑発し襲って来るとくるりと身をかわして避け、疲れて動かぬようになるとサーベルを狙い定めて肩口から心臓に突き立てる。
小澤征爾のエネルギッシュな指揮ぶりは見ていて実に爽快で、それに、小澤征爾が一生懸命に育てている小澤征爾音楽塾のオーケストラも合唱団の水準も何時もながら実に高く、今回は、更に東京少年少女合唱隊の素晴らしい歌と芸達者な舞台が加わって感激しきりであった。
カーテンコールの最後に、小澤征爾が少年少女合唱団を後から呼び寄せて前面に出しソリスト達も一体になって観客に応えていたのが印象的であった。
(追記)写真は、ジェシー・ペレス・ホームページから