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ミステリ感想-『追想五断章』米澤穂信

2009年10月05日 | ミステリ感想
~あらすじ~
古書店アルバイトの大学生・菅生芳光は、報酬にひかれてある依頼を請け負う。依頼人・北里可南子は、亡くなった父が生前に書いた、結末の伏せられた五つの小説を探していた。
調査をつづけるうち芳光は、未解決のままに終わった事件“アントワープの銃声”の存在を知る。22年前のその夜はたしてなにがあったのか?


~感想~
ミステリとしては短いながらによくできた小品なのだが、そんなことよりも小説としての登場人物へのあまりの突き放し方に不快さを感じてしまった。
↓以下ネタバレ↓
リドルストーリーを探す物語だけに、この話の結末もリドルストーリーだろうと当たりをつけていたので、「その後」を全く描かない幕の閉じ方は気にならなかったのだが、それにしてもあまりにも登場人物への、平凡な市井の人物たちに向ける目線が冷たすぎはしまいか。
彼らは大きな間違いを犯したわけではない。大学を辞めることも、田舎に帰ることも、ちまちま古書店をつづけることも、過去を引きずることも、なんらの悪ではないのだ。
だが作者は冷めた視線で彼らを突き放し、「その後」どうなったのか、彼らの行く先に光や影はおろか、なにも暗示しようとすらしない。完全に無である。
おそらく意図的にそうしたのであろうが、まるで平凡な人生を送ることの、それ自体が悪であり負け犬であるかのような突き放し方は、読んでいて終始不快だった。


まあ本格ミステリというジャンルに、そんな難癖をつけること自体が愚かなのだが、しかし単に「黒米澤」と片付けてしまうには、なんとも後味の悪い物語であった。


09.9.21
評価:★★☆ 5
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