国際刑事裁判所(ICC)が3月4日、スーダンのバシール大統領に逮捕状を出した。戦争や人道支援などにかかわる10の罪名を上げている。国連もこれを支持した。法的な拘束力はないが、政治的な意味合いは、計り知れなく大きい。
当然のことながら、バシールはこれに大きく反発している。欧米による、旧植民地主義の台頭だと、国民を煽っている。おまけに、国連やNGOなどの支援団体を、制裁処置として国外追放した。
これにより、和平交渉の進行しつつある、250万人とされるダルフールの難民の支援がとん挫してしまうことになる。国連の現地活動が40%制限されると報告されている。
何故ICCは前例のない現職大統領の逮捕状を出したのか。ダルフール紛争に与える影響や、難民支援の支障など考慮しなかったのであろうか。
独裁者バシールの強気の背景には、石油を買ってもらっている中国の支援がある。アフリカ最大のスーダンの面積は、EUに匹敵する。アフリカ最大のダムが、資金と技術を中国に支えられながら、先頃完成したばかりである。スーダンの経済発展を推し進めた評価も低くない。さらにロシアとの関係も強化しつつある。
バシールはこうした後ろ盾をもっているからこそ、強気なのである。彼は民族浄化主義者であるが、そのために国内には熱狂的支持者も多いのである。ICCも国連も、その辺りの考慮が足りなかったのではないか。
今回のICCの決定は、和平に向かいつつあるダルフール紛争を、より一層困難なものにするものと思われる。ICCは正義を貫かなければ、紛争解決にはならないとしている。が、白人による人道支援には宗教的にも歴史的にも民族的にも、色づけされたものであると、アフリカの人たちは感じていることも事実である。
逮捕拘束する警察力もなければ、収監する施設もないICCの逮捕状は、最悪のタイミングで行われた。バシールの支持基盤を逆に、強固にした感さえある。短期的な正義感を振りまわすことで、和平を崩すことに異議を唱えたい。