今日はひな祭りである。ある高齢の酪農家の方へ伺った。牛舎の窓の所に、余り冴えない一対のおひな様のケーキが、パッケージに包まれて置いてあった。
父さんに「これ何!」と、笑いながら聞いてみた。父さんは、「牛は女の子だから。今日はおひな様で祝ってやろうと思って」と、しわくちゃな顔を笑顔にして答えてくれた。奥で母さんが「私には何 もないけどね」と、皮肉った声を返してくれた。
畜産の世界では、圧倒的にメスが優勢である。採卵鶏は玉子を産まなければならないから、当然メスである。肉牛も肉豚も、メスは繁殖のために授精されてたくさんの子供を産むことになる。たまたま、オスだったら適当な特に去勢される。とにかく畜産の世界はメスばかりであると言ってよい。
乳牛は子供を産まなければ乳が出ない。分娩しなければ泌乳しないから、分娩するとまた授精されることになる。乳牛は分娩して1年半もすると泌乳量が少なくなってしまう。食べる餌の方が、泌乳する乳代より高くなってしまう。そのために、来年に向けて3ヶ月もすると授精することになる。牛の妊娠期間は9ヶ月と少しである。
牛舎にいる乳牛のおおよそ4分の3がいつも妊娠している。乳牛のメスとしての生理を発揮して、泌乳するのも妊娠するのも結構重労働である。乳牛たちは、完全食品に近い牛乳を生産するために、身を削っているのである。そう考えると、オスの方がまだましいかもしれない。
農家も経済効率と追求することが求められる世の中になってきた。そうした風潮の中で、乳牛たちはさらに過酷な、泌乳と妊娠いう重労働を強いられているのである。おひな様を添えて牛をいたわる心が、酪農家たちから急速に失せている。