詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

大森立嗣監督「日日是好日」(★★)

2018-10-14 20:48:21 | 映画
大森立嗣監督「日日是好日」(★★)

監督 大森立嗣 出演 樹木希林、黒木華

 もしかすると樹木希林最後の出演作? 大変な人気である。だから批判的なことは書きにくいのだが。
 おもしろくない。樹木希林の演じている茶道の先生が「いい人」すぎておもしろくない。だいたい樹木希林は「いい人」を演じていても、どこかで一瞬、そうじゃない人間の姿を見せる。
 「歩いても、歩いても」では原田良雄が演じる夫をずーっと我慢して支えてきた妻を演じていたが、思い出の曲に「ブルーライト・ヨコハマ」を持ち出してきて、私は「秘密」を知っている、と「毒」を放つ。わかる人(原田良雄)にだけわかる感じで、毒を放つ。世のなかは、どんなことでもありうる。そう知っていて、そのすべてを受け入れ、同時に恨み言もいうのである。人間は矛盾しているが、その矛盾を「肉体」がのみこんで、抑えている。それを「肉体」そのものとしてスクリーンに定着させる。
 今回は、そういうシーンがなかった。樹木希林のお茶の先生が死んだということが彼女の行動のどこかに影響しているらしいことは、他人のセリフで語られるけれど、樹木希林が「肉体」で表現しているわけではない。これでは、おもしろくない。
 樹木希林自身、体力的にもむりがあったのかもしれない。どのシーンも、力を抜いている(自然体でいる)というよりも、力がこもっていない。かろうじて「形」を演じているという印象が残る。これは、人間の矛盾を演じていないということからくる印象かもしれないが。
 黒木華という「地味」の代表のような役者を使っているのは、それはそれでいいのだが、彼女が茶道の神髄に触れるシーンがワンパターンである。「音」が完全に消える。「無」の境地を「無音」で表現している。これは一回目は効果的だが、それが何度も繰り返されるとばかばかしくなる。「無」が感覚をとぎすまし、それが世界を輝かせるというのは、それが茶道の神髄だとしても、見ていて退屈である。
 この映画を見るくらいなら「万引き家族」をもう一度見た方がいい。海辺で、みんなが楽しむ姿をみながら、聞こえない声で何かをいう。(唇が動いている)。そのことばを、樹木希林の「遺言」と思い、耳を澄ます方がいい。「万引き家族」では、樹木希林は人間のやさしさも、いやらしさも、存分に「肉体」にしていた。そして、いやらしさを持っているにもかかわらず、ぐいと人を引き込む力を持っていた。
         (KBCシネマ1、2018年10月14日)


 *

「映画館に行こう」にご参加下さい。
映画館で見た映画(いま映画館で見ることのできる映画)に限定したレビューのサイトです。
https://www.facebook.com/groups/1512173462358822/
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

消費増税、来年10月実施

2018-10-14 19:56:58 | 自民党憲法改正草案を読む
消費増税、来年10月実施
             自民党憲法改正草案を読む/番外240(情報の読み方)

 2018年10月14日の読売新聞朝刊(西部版・14版)。

消費増税 来年10月実施/2%還元 中小店舗に補助/首相あす表明

 という見出しで、記事が書かれている。ニュースのポイントは「2%還元 中小店舗に補助」のようだが、私はこのニュースに非常に疑問を持っている。内容もそうだが、なぜ、いまなのか、ということに非常に疑問を持った。

 内容の疑問点は。
 「2%還元 中小店舗に補助」といっても永遠にではない。半年から1年の期間限定で、しかもクレジットカードなどのキャッシュレス決済が対象である。これはキャッシュレス決済を進めるためのものだ。キャッシュレスだと、間に金融機関が入るから売り上げのごまかしがきかない。売り上げを完全に捕捉するための方法であり、「消費税のとりこぼし(?)」を防ぐためのものである。最長1年で取りこぼしがなくなら、それは国家財政にとって都合がいい。

 時期の疑問点。
 なぜ、いま? だいたい来年10月実施は、前からわかっていたこと。前回、消費増税を選挙対策で延期したとき、19年10月から実施すると明言していた。リーマンショック級のことが起きない限り、という条件付きだったが。今回の「あす表明」のなかにも、同じことが繰り返されるに違いない。つまり、いま消費税を上げればリーマンショック級の経済混乱が起きると判断すれば、また延期できるのである。まだ1年もあるからね。
 そうすると、注目しなければならないのは、来年10月までの1年に何があるかである。 天皇の生前強制退位、皇太子の天皇即位があり、統一地方選があり、何よりも参院選挙がある。
 参院選挙は、いまの憲法のままでは「合区」のまま実施される。
 安倍は、これを解消し、各都道府県から最低1人を選出するという「改憲案」を用意している。なんとしても「改憲案」を国民投票にかけなければならない。そのまえに、国会で発議しないといけない。だから、いま「消費増税」を明言したのだ。
 臨時国会が始まれば、国民生活に影響が大きい「消費税」の論議に時間がとられる。ほかにも外国人労働者の待遇をどうするかとか、経団連が強行する就職活動ルールの撤退をどうするかなど、将来にかかわる問題がたくさんある。つまり、「改憲」に論議を集中することができなくなる。これがねらいだ。
 さらに安倍は、天皇の生前退位強制、皇太子の新天皇即位の前後に「10日連続」の大型連休を用意している。国会の審議がそれだけなくなるということである。国民のためではない。国会を開かないようにするために「10連休」にするのだ。この10連休の前後には、安倍が「議論封じ」に活用する「静かな環境」ということばが、また持ち出されるだろう。新天皇が誕生するのに、政争で社会を騒がせてはいけない、という主張けだ。

 あらゆる状況を利用して、安倍は「改憲」を押し進める。来年の参院選までに改憲しなければならないという「タイムスケジュール」を最優先するために、なんでもする。
 どさくさのうちに、「改憲」を実施してしまえば、次は、また人気取り(次の選挙対策)のために「消費税は見送り」と言うに決まっている。きっと「消費税見送り」を争点として、衆院選が実施される。自民の議席をさらに増やすためである。
 では、そのとき中小店舗のキャッシュレス化推進はどうなる? レジの変更など、中小商店は対策が無駄になるかもしれないが、安倍から言わせれば無駄はない。なんといってもキャッシュレス化で金の動きが完全に把握できるようになるから。

 安倍の押し進めている政策は、一つ一つを取り上げるだけではなく、他の政策、他の現実とどうつながっているか、それを見ていかないといけない。
 いつでも「目先」をあちこちに振らせた、その奥でこっそりと軍事独裁への準備がされている。







#安倍を許さない #憲法改正 #天皇退位 
 


*

「天皇の悲鳴」(1500円、送料込み)はオンデマンド出版です。
アマゾンや一般書店では購入できません。
ttps://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168072977

ページ右側の「製本のご注文はこちら」のボタンを押して、申し込んでください。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

高橋睦郎『つい昨日のこと』(98)

2018-10-14 14:32:03 | 高橋睦郎「つい昨日のこと」
98 夜航

 「船は欲望の象り」とはじまる。

股間の船首を掲げての 若い私の夜ごとの航海も 例外ではなかった
いまは纜は波止に結んだまま 机の上の詩を目指す真夜のひそかな小舟の漕行
乱倫のまにま習い覚えた詩法とやらを 頼りない水先案内にして

 「股間の船首」は欲望の水先案内人。「股間の船首」は「船首」にとどまらず、「船」そのものだった。
 しかし、いまは停泊したまま。
 夜、海へ出ていくのは「小舟」である。この「小舟」は何によって動くか。「欲望」か。そうではなくて、「詩法」であると高橋は書く。「詩」ではなく「詩法」と。それとも、この「詩法」は「船首」と「船」が区別のないものだったように、区別できないものか。多分、そうなのだろう。
 ここが問題である。
 「詩」と「詩法」が区別できないものであり、その区別できないものを語るとき、高橋は「詩」ではなく「詩法」を選んでいる。「詩の方法/詩の書き方」そのものに詩が存在する。「船首(股間)」に船が、そして「欲望」があるように、「方法」のなかに「詩」がある。ことばの動かし方のなかに「詩」がある。

 「船は欲望の象り」。この書き出しに戻ってみよう。「船」と「欲望」は別個の存在(名詞)である。それを「象り」ということばで結びつけている。「象り」は「象る」という動詞とつながっている。この「象る」ということばの使い方、そのように「象る」という動詞をつかってもいいと許す「法」、つまり「決まり」のなかに高橋の「詩」が存在する。「象る」ということばをどうつかううか、その「法」は、どこにも明記はされていない。「文学」のなかに「暗黙の知識」として存在する。高橋は、それを踏まえている。「文学の伝統(ことばの伝統)」そのもののなかにあるものを頼りに(つまり水先案内人にして)、高橋のことばは動く。高橋は自分の「肉体」を頼りにしてはいない。
 「股間」という「肉体」を指すことばは出てくるが、「股間」は詩を語らない。「股間」は「掲げる」という動詞として肉体を動かしているが、「股間」が体験したことはどこにも書かれてはいない。掲げる以外の動きをしていない。

 逆に言えば、「文学の伝統」が「象る」欲望しか、高橋は生きていない。あらゆる「欲望」を「文学」が「象る」形で体験しているが、「文学」の「象り方」を超えてはいない。
 「詩法」を頼りとしない「欲望」こそが詩である、と書いてみてもしようがない気もするが、そう書いておきたい。





つい昨日のこと 私のギリシア
クリエーター情報なし
思潮社
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

外国人労働者と太陽光発電

2018-10-14 09:25:28 | 自民党憲法改正草案を読む
外国人労働者と太陽光発電
             自民党憲法改正草案を読む/番外239(情報の読み方)

 2018年10月13日の読売新聞朝刊(西部版・14版)。安倍が総裁選に3選してから、社会を激変させるニュースが連続している。私のように目の悪い人間は、そのニュースを読むだけで手一杯で、考えるところまで時間がとれない。
 で、一日遅れで、思ったことを書いておく。
 1面に、太陽光発電について、こういう見出し。

九電、発電一時停止を指示/複数業者に9759件で43万キロワット
 (13日の夕刊・4版には「太陽光 九電が一時停止」と続報が報じられている。

 2面には、

外国人受け入れ拡大/単純労働にも在留資格

 二つのニュースは関係がなさそうだが、記事の細部を読むとぴったり重なる。
 太陽光発電は、電力会社以外の事業者に発電を促したものである。電力不足を補うし、クリーンエネルギーでもある。でも、その太陽光発電が増えすぎると、消費と供給のバランスが崩れる。だから太陽光発電を止める、というもの。
 簡単に言うに、「余ったから、もういらない」。太陽光発電のために事業者がどれだけ投資したかは気にしない。停止することによって、事業者がどれだけ赤字を抱え込むことになるか気にしない。大手の電力会社さえ儲かればそれでいい。電力調整なら、電力会社の火力発電、原子力発電を止めることでもできるが、そうはしない。あくまでも止めるのは新規参入の事業者の発電である。
 外国人労働者の受け入れも、なんともすさまじい。「技能実習(研修生)」でなくても可能な単純労働向けの外国人を受け入れるという。それだけ人手不足が深刻だということだ。ただ、この受け入れには、信じられない条件(?)がついている。

人手不足が深刻な分野に限定。労働力不足が解消されたと政府が判断した場合、その分野での受け入れは中止。

 いつでも「政府判断」で中止できる。そのとき、実際に日本に来て働いていた人たちはどうなる? 首になる。そのあとは? どうやって暮らす? 母国へ帰るのか。その費用は? これでは外国人の使い捨てである。使い捨てしやすいように、一部の外国人をのぞいて、家族が一緒にくることを認めていない。人間はひとりではてく、家族で暮らしているということを完全に無視している。つかうだけつかったら、捨てる、ということを前提に法律を変えようとしている。
 太陽光発電も同じ。電力不足、クリーンエネルギーの推進のために参入した事業者の「負担」は無視して、もう電力は余っているから発電停止。これは、使い捨てということだ。足りなくなったら、また発電させる。
 こんな横暴が、なぜ、許されるのだろう。大企業さえ儲かれば、それでいい。大企業以外の会社、労働者はどうなってもいい、と考えているのだが、あまりにも露骨すぎる。

 経団連が打ち出した「就職活動ルールの撤廃」も同じだ。経団連が勝手に打ち出したように新聞では報道されているが、きっと安倍政権に「根回し」をしている。了解をとって、方針を打ち出している。
 このままでは「外資系(特にIT系)」に優秀な人材をとられてしまう。何とか経団連企業に就職する人材を確保しないといけない、ということが最優先に考えられている。中小企業のことなど、何も考えていない。もちろん学生のことも考えていない。優秀な人間は、さっさっと就職先を決定し、その後おちついて勉強するという方法も考えられるが、優秀とは言い切れない学生はどうなるのか。就職先が決まるまで、勉強どころの騒ぎではない。4年間、何も勉強をせず、ひたすら就職先を探し回るという学生も出てくるのではないか。4年間で就職先がみつかれば、まだいい。やっと能力を身につけ、これで就職できると思ったら、後輩(下級生/新入生)が、その仕事を奪っていくということが起きるはずだ。そういう学生を、どう救済するのか。救済などしない。「使い捨て」である。働き口ならどこにでもある。なんといっても「人手不足」である。そこで働けばいい。
 ここに「教育無償化」が加わる。それは「優秀な学生」を育てる。人間を育てるためのものではない。人間を選別するためのものとしてつかわれる。企業にとって都合のいい人間を育てるためにつかわれる。「これこれのことを勉強しないと、就職できないぞ」と教育内容を限定するのにつかわれる。カリキュラムが、企業につごうのいいもの、安倍政権につごうのいいものになってしまう。都合が悪いものは「使い捨て」どころか、最初から「つかわない」と脅すのである。

 どれもこれも、自民党改憲案(2012年)の「前文」にある経済優先政策に合致している。この場合の経済優先は、大企業(政権に献金する企業)の収益優先ということである。実際に働く国民を無視している。
 「改憲」を発議する前に、現実の方で自民党改憲案を先取り実施している。
 軍隊をつかわなくても、緊急事態条項をつかわなくても、国民を完全支配することは、実に簡単なのだ。それが、いま、実際に行われている。








コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ロシアのミサイル訓練通告

2018-10-14 01:04:45 | 自民党憲法改正草案を読む
ロシアのミサイル訓練通告
             自民党憲法改正草案を読む/番外238 7(情報の読み方)
 2018年10月13日の読売新聞夕刊(西部版・4 版)の一面。

北方領でミサイル訓練/露通告、日本政府が抗議

 見出し通りのことが書いてある。
 この情報を、どう読むか。
 やっぱり日露交渉(平和条約締結、北方領土返還)はうまくいかない、という証拠と読むか。
 私は、まったく違うことを指摘したい。
 記事の末尾に、こうある。

ロシアは10-13日に北方領土周辺で射撃訓練を行うと日本側に通告していた。同じ北方領土周辺でも、訓練を行う場所や日程が異なるため、再度通告してきたとみられる。

 ミサイル訓練をするとき、当然、それに巻き込まれる恐れがある。たとえばミサイル落下地点で漁業をやっている船が。だから、事前に通告する。これは世界に共通したルールだろう。訓練をやる国は、必ず通告する。通告しないで被害が発生したときは、抗議が殺到する。
 ここから考えてみよう。
 かつて(といっても昨年だが)大騒ぎした北朝鮮は、事前通告なしに訓練をしたのか。そんなことはないだろう。事前通告しているから、一度も被害が出ていない。
 問題は、その事前通告を安倍は一度も国民に知らせていない。そのくせ、安倍だけは前日から泊まり込み、発射と同時に抗議している。「北朝鮮は危険」を演出している。「国難」は、安倍によってつくられたニュースだったことになる。
 外交問題は、情報源がもっぱら政府にある。
 いつでも国民をだますことができる、ということを忘れてはならない。
 北朝鮮が、米朝関係の改善へ向けての動きで「仮想敵国」ではなくなった今、安倍は必死で「仮想敵国」づくりに励んでいる。北方領土問題が進展しないのは、ロシアが敵国であるからだ、という印象操作をしようとしている。


























#安倍を許さない #憲法改正 #天皇退位 
 


*

「天皇の悲鳴」(1500円、送料込み)はオンデマンド出版です。
アマゾンや一般書店では購入できません。
ttps://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168072977

ページ右側の「製本のご注文はこちら」のボタンを押して、申し込んでください。


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする