大森立嗣監督「日日是好日」(★★)
監督 大森立嗣 出演 樹木希林、黒木華
もしかすると樹木希林最後の出演作? 大変な人気である。だから批判的なことは書きにくいのだが。
おもしろくない。樹木希林の演じている茶道の先生が「いい人」すぎておもしろくない。だいたい樹木希林は「いい人」を演じていても、どこかで一瞬、そうじゃない人間の姿を見せる。
「歩いても、歩いても」では原田良雄が演じる夫をずーっと我慢して支えてきた妻を演じていたが、思い出の曲に「ブルーライト・ヨコハマ」を持ち出してきて、私は「秘密」を知っている、と「毒」を放つ。わかる人(原田良雄)にだけわかる感じで、毒を放つ。世のなかは、どんなことでもありうる。そう知っていて、そのすべてを受け入れ、同時に恨み言もいうのである。人間は矛盾しているが、その矛盾を「肉体」がのみこんで、抑えている。それを「肉体」そのものとしてスクリーンに定着させる。
今回は、そういうシーンがなかった。樹木希林のお茶の先生が死んだということが彼女の行動のどこかに影響しているらしいことは、他人のセリフで語られるけれど、樹木希林が「肉体」で表現しているわけではない。これでは、おもしろくない。
樹木希林自身、体力的にもむりがあったのかもしれない。どのシーンも、力を抜いている(自然体でいる)というよりも、力がこもっていない。かろうじて「形」を演じているという印象が残る。これは、人間の矛盾を演じていないということからくる印象かもしれないが。
黒木華という「地味」の代表のような役者を使っているのは、それはそれでいいのだが、彼女が茶道の神髄に触れるシーンがワンパターンである。「音」が完全に消える。「無」の境地を「無音」で表現している。これは一回目は効果的だが、それが何度も繰り返されるとばかばかしくなる。「無」が感覚をとぎすまし、それが世界を輝かせるというのは、それが茶道の神髄だとしても、見ていて退屈である。
この映画を見るくらいなら「万引き家族」をもう一度見た方がいい。海辺で、みんなが楽しむ姿をみながら、聞こえない声で何かをいう。(唇が動いている)。そのことばを、樹木希林の「遺言」と思い、耳を澄ます方がいい。「万引き家族」では、樹木希林は人間のやさしさも、いやらしさも、存分に「肉体」にしていた。そして、いやらしさを持っているにもかかわらず、ぐいと人を引き込む力を持っていた。
(KBCシネマ1、2018年10月14日)
*
「映画館に行こう」にご参加下さい。
映画館で見た映画(いま映画館で見ることのできる映画)に限定したレビューのサイトです。
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もしかすると樹木希林最後の出演作? 大変な人気である。だから批判的なことは書きにくいのだが。
おもしろくない。樹木希林の演じている茶道の先生が「いい人」すぎておもしろくない。だいたい樹木希林は「いい人」を演じていても、どこかで一瞬、そうじゃない人間の姿を見せる。
「歩いても、歩いても」では原田良雄が演じる夫をずーっと我慢して支えてきた妻を演じていたが、思い出の曲に「ブルーライト・ヨコハマ」を持ち出してきて、私は「秘密」を知っている、と「毒」を放つ。わかる人(原田良雄)にだけわかる感じで、毒を放つ。世のなかは、どんなことでもありうる。そう知っていて、そのすべてを受け入れ、同時に恨み言もいうのである。人間は矛盾しているが、その矛盾を「肉体」がのみこんで、抑えている。それを「肉体」そのものとしてスクリーンに定着させる。
今回は、そういうシーンがなかった。樹木希林のお茶の先生が死んだということが彼女の行動のどこかに影響しているらしいことは、他人のセリフで語られるけれど、樹木希林が「肉体」で表現しているわけではない。これでは、おもしろくない。
樹木希林自身、体力的にもむりがあったのかもしれない。どのシーンも、力を抜いている(自然体でいる)というよりも、力がこもっていない。かろうじて「形」を演じているという印象が残る。これは、人間の矛盾を演じていないということからくる印象かもしれないが。
黒木華という「地味」の代表のような役者を使っているのは、それはそれでいいのだが、彼女が茶道の神髄に触れるシーンがワンパターンである。「音」が完全に消える。「無」の境地を「無音」で表現している。これは一回目は効果的だが、それが何度も繰り返されるとばかばかしくなる。「無」が感覚をとぎすまし、それが世界を輝かせるというのは、それが茶道の神髄だとしても、見ていて退屈である。
この映画を見るくらいなら「万引き家族」をもう一度見た方がいい。海辺で、みんなが楽しむ姿をみながら、聞こえない声で何かをいう。(唇が動いている)。そのことばを、樹木希林の「遺言」と思い、耳を澄ます方がいい。「万引き家族」では、樹木希林は人間のやさしさも、いやらしさも、存分に「肉体」にしていた。そして、いやらしさを持っているにもかかわらず、ぐいと人を引き込む力を持っていた。
(KBCシネマ1、2018年10月14日)
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