143 ミリス、アレクサンドリア、紀元三四〇年
ミリスが死んだ。キリスト教徒だ。その葬儀の家に行った。そして、
「困惑と不快」にはふたつの意味がある。ひとつは「ぼく」がキリスト教徒ではないこと、もうひとつは二人の中が「不品行」のものだから。キリスト教徒からすればキリストではない神を信じる人間も、禁じられた恋も排除したいものだろう。
この詩はとても長い。池澤によれば、
長くなった理由について、私は、この詩では「声」が出ていないからではないかと思った。「声」のかわりに「論理」が動いている。
引用部分の四行目。「困惑と不快の目でこちらをみていたから。」の「から」はない方が「声」になる。「から」と思ったことを「理由」にしてしまうから、感情ではなく「論理」が動く。
詩の終わりは、「頭」で「ぼく」の心理をつかまないと、何が書いてあるかわからない。「論理」しか動いていない。
ここに「から」を補うと、いくらかわかりやすくなる。「怖れて」という現在形を、「走り出した」にあわせて「怖れた」にし「から」をつづける。「怖れたから」。こうすると「論理」が落ち着く。ミリスの思い出を純粋に自分のものだけにしておきたい、そこに余分なものが入ってきてはさびしくなる。
「論理」はいつも自分に言い聞かせる「自己弁護」だ。だから、どうしても長くなる。自己弁護ははじめると終わりがなくなる。
カヴァフィスの原文に「から」があるかどうか、わからないが。
「高橋睦郎『つい昨日のこと』を読む」を発行しました。314ページ。
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ミリスが死んだ。キリスト教徒だ。その葬儀の家に行った。そして、
回廊に立ったぼくは
その先に進むのを控えた。
遺族たちがあからさまな
困惑と不快の目でこちらをみていたから。
「困惑と不快」にはふたつの意味がある。ひとつは「ぼく」がキリスト教徒ではないこと、もうひとつは二人の中が「不品行」のものだから。キリスト教徒からすればキリストではない神を信じる人間も、禁じられた恋も排除したいものだろう。
この詩はとても長い。池澤によれば、
カヴァフィスが刊行した詩の中ではこれがいちばん長い。ほとんど短篇小説のようなストーリー性を持っている。
長くなった理由について、私は、この詩では「声」が出ていないからではないかと思った。「声」のかわりに「論理」が動いている。
引用部分の四行目。「困惑と不快の目でこちらをみていたから。」の「から」はない方が「声」になる。「から」と思ったことを「理由」にしてしまうから、感情ではなく「論理」が動く。
詩の終わりは、「頭」で「ぼく」の心理をつかまないと、何が書いてあるかわからない。「論理」しか動いていない。
ぼくはこの恐しい家から走り出した。
自分の中のミリスの思い出が捕らえられ、
キリスト教徒によって歪められるのを怖れて。
ここに「から」を補うと、いくらかわかりやすくなる。「怖れて」という現在形を、「走り出した」にあわせて「怖れた」にし「から」をつづける。「怖れたから」。こうすると「論理」が落ち着く。ミリスの思い出を純粋に自分のものだけにしておきたい、そこに余分なものが入ってきてはさびしくなる。
「論理」はいつも自分に言い聞かせる「自己弁護」だ。だから、どうしても長くなる。自己弁護ははじめると終わりがなくなる。
カヴァフィスの原文に「から」があるかどうか、わからないが。
カヴァフィス全詩 | |
クリエーター情報なし | |
書肆山田 |
「高橋睦郎『つい昨日のこと』を読む」を発行しました。314ページ。
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『聴くと聞こえる』についての批評をまとめたものです。
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