詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

池澤夏樹のカヴァフィス(133)

2019-05-01 10:16:38 | 池澤夏樹「カヴァフィス全詩」
133 一九〇一年の日々

彼には他の者と違うところがある。
あれほどの放蕩三昧と、
数限りない性的な冒険、
いつもその年齢にふさわしく
ふるまうという事実、
などなどに相反して、まことに稀だが、
その肉体がほとんど無垢のような
印象を与えるのだ。

 「あれほど」は「数限りない」と言いなおされ、「放蕩三昧」は「性的冒険」と言いなおされ、さらに「その年齢にふさわしく/ふるまう」と言いなおされている。そして、それは書かれていないが「他の者」と「同じ」であって、カヴァフィスが書こうとしているのはそれとは「違うところ」である。つまり「無垢」に焦点を当てるために、カヴァフィスは同じことを何度も繰り返している。
 「無垢」に焦点を当てたあと、カヴァフィスは、こう言いなおす。

二十九歳の美青年が、
快楽の試練を経た身体を、
まるで純潔な身体を初めて
おずおずと差し出す少年のように
見せるのだ。

 「純潔な身体」「初めて」「少年」は、すべて「無垢」の言いなおしである。
 それを強調するのが「二十九歳」「快楽の試練を経た身体」という「補色」である。そしてこの「補色」は、一連目の「放蕩三昧」「性的冒険」「その年齢にふさわしく/ふるまう」の言いなおしである。
 ここにはモーツァルトの繰り返す旋律に似た音楽がある。違いは、モーツァルトは疲れを知らない子供のように果てしなく繰り返すが、カヴァフィスは繰り返しがわかった段階で音楽を断ち切る。
 繰り返し(言いなおし)よりも、この断ち切り方にカヴァフィスの音楽の強さがある。

 池澤の註釈。
 
 カヴァフィスは「……年の日々」という詩を五篇書いている。どれも彼の秘密の性生活をテーマにしたもの。ただしこの年号に具体的な裏付けがあるわけではないようだ。





カヴァフィス全詩
クリエーター情報なし
書肆山田


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