詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

池澤夏樹のカヴァフィス(138)

2019-05-06 10:18:20 | 池澤夏樹「カヴァフィス全詩」
138 ある大きなギリシャの植民地で、紀元前二〇〇年

 池澤の註釈によれば、「古代ギリシャの都市国家は地中海の各地に植民地を作った。」その植民地の改革について書いた詩である。池澤は、こうも書いている。

 政治改革はどこでも難しい。いつも誰かに不満が残る。あるいはこの詩、一九二〇年代後半のエジプトの政情を諷するものかもしれない。一九一九年のエジプト革命で独立は果たしたが、イギリス軍はそのまま駐留し、イギリスの密かな支配は続いた。

 どのことば、どの行がエジプトとイギリス(軍)を暗示しているのか、具体的な指摘がないのでわからない。
 私は次の部分にこころが動いた。

彼らが調査を進めるにつれて
破棄すべき不要のものが数限りなく見つかる。
不要であっても始末のむずかしいものが。

 なぜ始末がむずかしいか。「人間の感情」がからんでくるからだ。確かに絶対に不可欠なものではない。不要と言えるかもしれない。けれど「いつか、またつかうかもしれない」とふと思うのが人間である。思い出もよみがえる。
 これは、こう言いなおされている。

あるいは時がまだ来ていなかったのかもしれない。
あまり急ぐのはよろしくない、急ぐのは危険だ。
間の悪い処置は悔いにつながる。
不幸なことに植民地にはたしかに不合理なことが多かった。
しかし欠点のない人間がいるか。

 「人間」が出てくる。「人間」が出てくるから言うのではないが、(いや、「人間」が出てくるから言うのだが)、「植民地」を「恋人」の比喩とは考えられないか。
 もう縁を切りたい。手を切りたい。でも、なかなか簡単には行かない。恋人の欠点(いやなところ)はいくつでも数え上げることができる。でも、ここで別れてしまうと、あとで後悔するかもしれない。
 急いで別れる必要はない。
 欠点のない人間などいないのだから。
 「あまり急ぐのはよろしくない、急ぐのは危険だ。/間の悪い処置は悔いにつながる。」の「急ぐ」の繰り返しが「間の悪い」ということばを経て「悔い」につながることばのからみあい、粘着力が、あまりにも「人間」っぽい。





カヴァフィス全詩
クリエーター情報なし
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