詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

日朝会談の行方

2019-05-21 19:49:08 | 自民党憲法改正草案を読む
日朝会談の行方
             自民党憲法改正草案を読む/番外268(情報の読み方)

 一日遅れの新聞だが、2019年05月20日の読売新聞(西部版・14版)の30面(いわゆる「第二社会面)。

拉致解決 署名1341万筆/国民大集会 首相、日朝会談に意欲

 という記事。見出しだけ読んで、「どうせ何も書いてない」と思っていたのだが、びっくり仰天のことが書いてあった。
 前文。

首相はあいさつで、「条件を付けずに金正恩(朝鮮労働党)委員長と会い、虚心坦懐に話したい」と野辺、あらためて日朝首脳会談に意欲を示した。

 これは、既報のニュースと何も変わらない。
 ところが、本文を読むと、安倍は、

集会では、「残念ながら日朝首脳会談が行われるめどが立っていないのは事実だ」とも語ったが、粘り強く(拉致問題の)実現を目指す考えを強調した。

 えっ、えっ、えっ、これどういう意味?
 日朝会談のめどが立っていて、(日付が先に決まっていて)、「議題」はこれからつめていく、というときは「条件をつけずに会談する」(会うことが大事だから)というのは、「論理」としてわからないでもない。
 でも「条件をつけずに」が最初にあって、日にちのめども立っていないのなら、これは「拉致問題」は安倍からは言わないと「条件をつけた」ということではないだろうか。言い換えると、「会談のテーマは安倍の方からは何も言わないから、ともかく会ってほしい」と申し入れたということではないか。
 水面下でどういう交渉が行われているのか知らないが(外交だから、国民やマスコミには知らせないまま、交渉が続いているのかもしれないが)、これは「大失態」ではないか。北朝鮮は、絶対に拉致問題を議題にしない。「解決済み」としか言わないだろう。
 北朝鮮とどういう水面下の交渉をしているのか知らないが、こんな「裏話」を拉致被害者の会の前で語る(読売新聞もそれを書く)というのだから、びっくりしてしまう。
 日朝会談がもしおこなわれるとしても、そのとき「条件をつけずに会談したいと行ってきたのは安倍であり、北朝鮮の方から申し込んだわけではない。解決済みの拉致問題など議題にできない」と言われておしまい。
 拉致問題を安倍は、捨ててしまったのだ。

 思い出すのは2016年の「日露首脳会談」である。
 あのときは、「日程」は決まっていた。しかし、水面下の交渉で岸田が大失態をしている。それをラブロフが暴露している。「経済協力は日本が申し入れてきたこと。ロシアが二島(あるいは四島)返還するから経済協力してくれ、と言ったわけではない」と受け取れることを語っている。岸田が「金を出すんだから、最低二島を返せよ」と言ったのだと思う。新聞の記事から私が推測したことだから、「事実」は違うかもしれないが。
 このことは
https://blog.goo.ne.jp/shokeimoji2005/e/292e823a4dc83b1427e2bfbf40607266
に書いたので、読んで見てください。その続きは、
https://blog.goo.ne.jp/shokeimoji2005/e/5adc5e67a6314a6248f2737c32dbef6f
に書いた。

 こんな「失態」つづきで、それでもなお「外交の安倍」を信じる人がいるのが、どうにもわからない。

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池澤夏樹のカヴァフィス(153) 

2019-05-21 10:56:21 | 池澤夏樹「カヴァフィス全詩」
153 一九〇八年の日々

 若い男の、だらしのない生活が描かれる。

夜を徹しての疲れるゲームが
一週間かそれ以上も続くと、
朝、水浴に行って身体を冷やした。

 その最終連。

あなたは別の彼を見るべきだ。
みっともない上着を脱いで、
継ぎの当たった下着も脱ぎ捨てた、
一点の瑕疵もない全裸の姿、その奇蹟、
櫛を入れてない髪を後ろに流し、
少しだけ日に焼けた手足で、
浴場や砂浜に立つ朝の裸体を。

 「櫛を入れてない髪を後ろに流し、/少しだけ日に焼けた手足」が非常に印象的だ。「一点の瑕疵もない全裸の姿、その奇蹟、」という抽象的な表現を内側から突き破ってあらわれてくる。まるで、服を脱ぎ捨てたばかりの「裸体」のように。
 声を失って、ただ、見つめてしまう。

 池澤の訳、特に最後の一行の、最後の「を」は「一点の瑕疵」を通り越した致命的な傷だ。「あなたは別の彼を見るべきだ。」と呼応しているのだが、この論理的すぎる翻訳がカヴァフィスの音楽を壊している。詩なのだから、論理のことばを隠した方が、ことばが輝くと思うのは私だけだろうか。

 池澤の註釈。

 まるで短篇映画のような作品。生活に困る姿、職を断り、流行遅れの上着を着て夜のカフェで稼ぐ。そして最後の場面で本来の姿を見せる。

 この註釈の「本来の」ということばも、論理のことばだろうなあ。




 



カヴァフィス全詩
クリエーター情報なし
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読売新聞の価値(うそとほんとうの書き分け)

2019-05-21 08:35:11 | 自民党憲法改正草案を読む
読売新聞の価値(うそとほんとうの書き分け)
             自民党憲法改正草案を読む/番外267(情報の読み方)

 読売新聞は「安倍寄り」ということで、ネットなどではしきりに叩かれているが、「安倍寄り」だからこそ、貴重な情報が載っていることもある。

 2019年05月21日の読売新聞(西部版・14版)の一面。

GDP2期連続プラス 年2・1%増

 という記事。賃金が減り、「不景気」といわれているのに、なぜ? 自分の身の回りの金の動きしかわからない私には、「大局」の経済がさっぱりわからない。「統計」もゆっくりと見つめたことがない。だから、「なぜ」がほんとうにわからない。
 1面の記事には

個人消費や設備投資がふるわなかったが、公共投資が景気を下支えした。輸入が大幅に減少したことも、計算上、GDPを押し上げた。

 と書いてある。注目したのは「計算上」ということば。これはつまり、「GDP2期連続プラス」になったのは、単に「計算上」のことにすぎなくて、景気がよくなっていることではない、という意味なのだ。
 景気がよくなったと、読売新聞は「嘘」を書いた、と非難されるのを恐れて、こっそり「ほんとう」を書いている。「私はちゃんとほんとうのことを書きました。ていねいに読んでください」と「言い訳」を隠している。こういう書き方が多い。
 で、一面の記事だけでは、何のことかよくわからないが、3面に解説がある。
 「輸入」との関係については、こう書いてある。

 輸入は海外で生み出されたモノを買うことにあたり、国内で生み出された価値とはみなされない。このため、GDPの総額から差し引かれている。輸入が増加すればGDPを押し下げ、減少すれば押し上げる関係にある。

 日本人が金持ちになってどんどん外国製品を買えばGDPは下がる。貧乏になって、不景気で買えなくなればGDPは上がる。日本人が貧乏になった証拠だ。
 「個人消費」の説明を読むと、「不景気」が、さらにぞっとするくらい身に迫ってくる。こう書いてある。

 速報値では、企業の在庫の積み上がりを示す民間在庫が0・1%分、GDPを押し上げる方向に働いた。生産活動の結果、在庫が増えたとみなすためだ。しかし、実際にはモノが売れずに在庫が積み上がった可能性もあり、今後の景気にマイナスに働く恐れもある。

 慎重に書いているが、「実際には」に注目。
 ものが売れずに在庫が増えただけというのは「可能性」ではなく、「現実」なのだ。
 先日のコンビニの「食品ロス」対策とあわせて読むと、「実際(現実)」が「可能性」ではなく「リアル」に迫ってくる。
 「食品ロス」は簡単に言えば「食品が売れなくなった」ということに過ぎない。売れれば「ロス」は少なくなる。「環境対策」と言えば聞こえがいい。「不景気」という印象が薄れるから、そういうだけなのだ。
 コンビニの「食品ロス」対策は「弁当」などの「食品」限定のことだが、売れないのは「弁当」だけではない。ほかのものも売れない。企業に在庫が増えるばかりだ。つまり、企業の在庫は、消費を見込んで製品をたくさんつくったからではなく、見込みよりも消費が少なくて売れ残ったということ。
 こっそり書かれている「みなす」にも注目したい。「みなす」は1面の表現にしたがえば「計算上」ということになる。「みなす」ことができるだけであって、実際は、違う。

 ようするに、GDPがアップした。景気はよくなっている、というのは嘘。
 でも、「政府」が発表しているから、発表は発表として書くしかない。ほんとうはどうなのかは、「事実上」とか「実際には」ということばのあとに、そっと書く。
 読売新聞(だけではないと思うが)、ニュースは、「事実上」とか「実際には」ということばのあとに書かれているところに、読むべきものがある。








#安倍を許さない #憲法改正 #天皇退位 
 


*

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