詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

細田傳造「うん」

2023-03-08 23:54:59 | 詩(雑誌・同人誌)

細田傳造「うん」(「ぶーわー」49、2023年03月10日発行)

 細田傳造「うん」を読む。どこまでがほんとうで、どこからが嘘か、わからない。しかし、嘘にしたって、それを書いているときは、それを書かずにいられないほんとうがあるのである。だから、みんなほんとうと思って読む。詩を書く人間は人をたぶらかしているし、読む人間もだまされてもともとと思って読んでいる。どっちにしたって、人の書いた詩は、自分とは関係がない。それは私の生活ではないのだから、何が書いてあったってかまわない。そのことばのなかで、私は、私の考えたいことを考えるだけである。

おやじ友達出来たか
慈悲が来たりてきく
うん さんにん
三人もか よかったなおやじ
うんさんは海埜と書いてうんのと読むんだ
交際のきっかけのくわしいいきさつはおしえない

 とはじまる。「おやじ(細田か)」は「慈悲(息子か)」と会話している。二人目もうんさん。百万円拾って届けたら落とし主が現れないので、自分のものになった。運がいいからうんさん、とつづけて三人目。

さんにんめの御友達もおんなのひとか
もちろんご婦人だ
いつもうんこのニオイがしている
なまえはしらない
うんさんとよんでいる
身近なカオリでおちくつ
勃起させてくれる
ここは酸素が濃い

 なんといってもおもしろいのは、ことばの「口調」が、整えられていないことだ。親切なのか、冷酷なのか、丁寧なのか、乱暴なのか。皮肉を言っているか、うらやましがっているのか。「うんこのニオイ」を「身近なカオリ」と言い直したあとで「勃起」か、とうなってしまう。
 ここでは、ことばは「知性」ではない。ことばは「肉体」のまま動いている。
 で、ことばが「肉体」であるとき、それはどんなに乱暴(暴力的)であっても、「知性」の暴力に比べれば何のことはない。「知性」は肉体を持たないから、他人を徹底的に破滅させてしまうが(核兵器がその代表)、「肉体」には、そこまでできない。
 どうしても「肉体」が触れ合うと「反応」が「肉体」にかえってくるから、どこかで、何かが連絡し合う。まあ、一種の「セックス」である。そんなことを感じさせるところが「ほんとう」である。
 
片貝の養老ホテル
いいところにおしこんでくれてありがとうよ
もつべきものは愚息だなあ
韓国語でも運はうんという
うつくしいわが人生である
うん

 いいなあ、この終わり方。細田は、「受け入れる」ということを知っている。「受け入れる」ことが生きること、交わることなのだ。交わったら、そうだね、ちゃんと「エクスタシー」まで、「肉体」のかぎりつくす。
 その「つくす」が、いつでも細田のことばのなかにある。「ほんとう」がなければ、つくせないからね。

 

 


**********************************************************************

★「詩はどこにあるか」オンライン講座★

メール、skypeを使っての「現代詩オンライン講座」です。
メール(宛て先=yachisyuso@gmail.com)で作品を送ってください。
詩への感想、推敲のヒントをメール、ネット会議でお伝えします。

★メール講座★
随時受け付け。
週1篇、月4篇以内。
料金は1篇(40字×20行以内、1000円)
(20行を超える場合は、40行まで2000円、60行まで3000円、20行ごとに1000円追加)
1週間以内に、講評を返信します。
講評後の、質問などのやりとりは、1回につき500円。

★ネット会議講座(skypeかgooglemeet使用)★
随時受け付け。ただし、予約制。
週1篇40行以内、月4篇以内。
1回30分、1000円。
メール送信の際、対話希望日、希望時間をお書きください。折り返し、対話可能日をお知らせします。

費用は月末に 1か月分を指定口座(返信の際、お知らせします)に振り込んでください。
作品は、A判サイズのワード文書でお送りください。
少なくとも月1篇は送信してください。


お申し込み・問い合わせは、
yachisyuso@gmail.com


また朝日カルチャーセンター福岡でも、講座を開いています。
毎月第1、第3月曜日13時-14時30分。
〒812-0011 福岡県福岡市博多区博多駅前2-1-1
電話 092-431-7751 / FAX 092-412-8571

オンデマンドで以下の本を発売中です。

(1)詩集『誤読』100ページ。1500円(送料別)
嵯峨信之の詩集『時刻表』を批評するという形式で詩を書いています。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168072512

(2)評論『中井久夫訳「カヴァフィス全詩集」を読む』396ページ。2500円(送料別)
読売文学賞(翻訳)受賞の中井の訳の魅力を、全編にわたって紹介。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168073009

(3)評論『高橋睦郎「つい昨日のこと」を読む』314ページ。2500円(送料別)
2018年の話題の詩集の全編を批評しています。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168074804


(4)評論『ことばと沈黙、沈黙と音楽』190ページ。2000円(送料別)
『聴くと聞こえる』についての批評をまとめたものです。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168073455

(5)評論『天皇の悲鳴』72ページ。1000円(送料別)
2016年の「象徴としての務め」メッセージにこめられた天皇の真意と、安倍政権の攻防を描く。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168072977

 

 

問い合わせ先 yachisyuso@gmail.com

 

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

Estoy Loco por España(番外篇318)Obra, Lu Gorrizt

2023-03-08 22:44:50 | estoy loco por espana

Obra, Lu Gorrizt

 El sencillo y bello cuadro de Lu me inspiró para escribir un poema.

 La palabra escribió un poema que empieza así: "Justo antes de ver este cuadro, la palabra estaba escribiendo un poema". Y continúa: "En el momento en que vió el cuadro, algo se rompió dentro de la palabra. Hubo un sonido que no debería haber oído, como cuando se rompe un espejo. Un breve silencio. Tras un breve sonido de silencio que parecía desaparecer en el sonido, la palabra oyó reverberar el silencio a alrededor la palabra. El poema sigue ahí, interrumpido, pero es cierto de que continúa en el cuadro como palabras inaudibles.

*

 Lu publicó un conjunto de dos imágenes en Facebook. La otra es este cuadro.

 「この絵を見る直前、ことばは詩を書いていた」とはじまる詩をことばは書いていた。それは、「その絵を見た瞬間に、何かが、ことばのなかで割れた」とつづく。鏡が割れるときのような、聞いていけない音がした。短い沈黙。音のなかに消えていくような短い沈黙の音のあと、ことばの周りで静寂がこだまするのを聞いた。詩は、そこで中断したままなのだが、きっと絵のなかで、聞こえないことばになってつづいているのだろう。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

Estoy Loco por España(番外篇317)Obra, AC Kikirikí

2023-03-08 09:52:37 | estoy loco por espana

Obra, AC Kikirikí

 En cuanto vi la obra de AC Kikirikí, apareció ante mí una serie de obras de besos. Klimt, Picasso, Rodin. ......
 En muchos casos, el hombre presiona a la mujer para que le bese, y ella acepta pero se niega. La negativa alimenta el deseo del hombre y hace que el beso sea aún más apasionado.
 En esta escultura, la mujer está a la izquierda. Se niega, pero sus manos sujetan firmemente a su amante.  Su espalda recta es decidida y sobria. Sólo se niega para recibir con más fuerza el beso del hombre. Ya están de rodillas. La mujer no rechaza al hombre. Están disfrutando del juego del amor.
 Esta escultura puede ser una obra de arte, incluido el fondo. Parece un callejón en el que ha desaparecido gente, o una habitación con un espejo. Hay una armonía tranquila.

 AC Kikirikíの作品をみた瞬間、次々にキスをする作品が目の前にあらわれた。クリムト、ピカソ、ロダン……。
 多くの場合、男が女にキスを迫り、女は拒みながら受け入れる。拒むことで、男の欲望が燃え上がり、さらに情熱的なキスになる。
 この彫刻では、左が女。拒みながら、手はしっかり相手を抱いている。(男も女を離さない。)まっすぐに伸びた背筋が、毅然としていて、余裕を感じさせる。男のキスをより強く受けとめるために、拒んでいるだけなのだ。すでに二人は膝をついている。女は男を拒んでなどいない。ふたりは愛の駆け引きを楽しんでいる。
 この彫刻は、背景も含めて作品なのかもしれない。人の消えた路地にも、鏡のある部屋にも見える。邪魔するものはだれもいない。静かな調和がある。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

読売新聞を読む(2023年03月08日)

2023-03-08 08:57:05 | 読売新聞を読む

 2023年03月08日の読売新聞(西部版・14版)の一面。
↓↓↓
「核の傘」日米韓で協議体/米が打診 対北抑止力を強化
↑↑↑
 見出しだけ読めば、記事を読まなくても内容がわかる。同時に、疑問も、読んだ瞬間に浮かんでくる。
 私が見出しから理解した内容は、北朝鮮の脅威に対応するために、日米韓がアメリカの核運用について協議体をもうけるというものだ。北朝鮮のミサイル開発が進んでいる。日本はいつ攻撃されるかわからない。アメリカの「核の傘」に守ってもらわないといけない。韓国も同じだろう。日米、米韓とばらばらに連携するのではなく、日米韓が共同で対応すべきだ。「もっとも」なことに思える。
 記事にも、こう書いてある。
↓↓↓
 【ワシントン=田島大志】米政府が、日韓両政府に対し核抑止力を巡る新たな協議体の創設を打診したことがわかった。米国の核戦力に関する情報共有などを強化する。北朝鮮が核・ミサイル開発を加速させる中、「核の傘」を含む米国の拡大抑止に対する日韓の信頼性を確保し、核抑止力を協調して強化する狙いがある。日本政府も受け入れる方向で検討している。
↑↑↑
 しかし、私はひっかかる。なぜ、「米が打診」? なぜ「日本が打診」、あるいは「韓国が打診」ではないのか。わざわざ、アメリカが日本と韓国に打診してくるって変じゃない?
 記事を読み進めると、こんな部分がある。
↓↓↓
 米国のイーライ・ラトナー国防次官補は2日の講演で、対北朝鮮の核抑止に向け「新たな協議メカニズムの議論に入っている。戦略的な作戦や計画への理解を深めるためだ」と語った。
 背景には、北朝鮮が射程の短い戦術核兵器の使用をちらつかせる中、米国の「核の傘」の信頼性への不安が日韓で広がっていることがある。米国は協議体を新設し、拡大抑止を提供する断固たる姿勢を両国に示す必要があると判断した。
↑↑↑
 イーライ・ラトナー国防次官補の講演の内容が全部載っているわけではないのでわからないが、ラトナーが問題としているのは「戦略的な作戦」、つまり「戦略核」である。大陸間弾道弾である。「戦術核」については、「北朝鮮が射程の短い戦術核兵器の使用をちらつかせる」と書いてあるが、これはラトナーが力点をおいて語ったことかどうかわからない。実際に語っているかどうかもわからない。カギ括弧でくくられていない。ラトナーが言ったのではなく、読売新聞記者の作文だろう。
 つまり、である。
 北朝鮮はミサイル実験を繰り返しているが、その狙いはアメリカ本土を直接攻撃する能力があるということを誇示するためである。照準はアメリカ大陸にある。アメリカを濃く攻撃できる能力があることをアピールし、アメリカを直接交渉の場に引っ張りだしたい。「戦略的」に北朝鮮は、そういう構想を持っている。アメリカはそれを理解しているからこそ、それに反応し、ラトナーは「戦略的」ということばをつかっている。
 そして、それに対抗するために、アメリカはさらに「戦略核」の能力を高めようというのではない。日本、韓国の基地から「戦術核」を使用しようとしている。その協議を進めようとしている。アメリカ本土が攻撃される前に、日本、韓国から北朝鮮を攻撃できるのだぞ、ということを北朝鮮にアピールしようとしている。
 「戦略」と「戦術」ということばが、記事のなかでつかいわけられているが、これが今回の作文ニュース(特ダネ)の「ポイント」(ほんとうのニュース)なのである。
 言い直せば、アメリカから大陸間弾道弾をつかって北朝鮮を攻撃するのに、日本や韓国と協議などしなくても、アメリカ独断でできるだろう。それに、大陸間弾道弾の方が経費もかかれば時間もかかる。戦術核をつかって日本、韓国から攻撃すれば、時間も経費も少なくてすむ。しかし、日本、韓国から「戦術核」を発射するには、日本、韓国の「了解」が必要である。
 そういうことを進めるためには、「論理」を一度逆転させて、日本、韓国は北朝鮮の書くの脅威にさらされている。それから日本、韓国を守るためにはアメリカと協力する必要がある、という具合に展開しないと、日本や韓国の国民の理解を得られない、だから「日米間で協議体」をつくろうという形で提案しているのだ。
 今回の読売新聞の特ダネ(米政府の発表ではなく、「わかった」という形で書かれている作文)は、それまでの特ダネがそうであるように、読者の(国民の)反応を探るためのアドバルーンなのである。「核の傘で日本、韓国を守るための協議体を日米韓でつくるといウニュースを流すと、日本の国民はどう反応するか」を探っているのである。日本で「これで安心」という声が高まれば、それに乗っかろうというのである。そういう声を高めてから「日米韓協議体」の話を持ち出せば、反論は少なくなる、という腹積もりなのだ。
 アメリカを守るために、日本と韓国をどう利用するか。アメリカの考えていることは、それだけである。(アメリカを守るために、ウクライナをどう利用するか。あるいはアメリカを守るために、台湾をどう利用するか。これは、単に「武力攻撃」だけてはなく、「経済戦略」を含めた利用である。むしろ、経済戦略を、「武力」にすりかえて進められている戦略だと私は考えている。)
 だから、というのは「論理の飛躍」に見えるかもしれないが。
 最近のビッグニュース、日韓の懸案だった「元徴用工問題」が急に解決に向かって動き出したのは、背後にアメリカが動いているからだと考えてみる必要がある。日韓が対立したままだと、アメリカの「戦術核をつかうときの基地として日韓を連動させる」という作戦がうまくいかない。なんとしても日韓を協力させる必要がある。障壁となっている「元徴用工問題」を解決させよう、ともくろんだのだろう。
 このあたりの事情を、書かなければ書かなくてもすませられるのだけれど、読売新聞は、例の「ばか正直」を発揮して、こう付け加えている。
↓↓↓
 日本政府は、核抑止力の強化につながるとみて打診に対し前向きに検討しつつ、日韓間の最大の懸案だった元徴用工(旧朝鮮半島出身労働者)訴訟問題の行方を注視していた。韓国政府が6日に解決策を発表したことで、日米韓の安全保障協力を強化する環境が整いつつあるとみている。
↑↑↑
 自分では何一つしない、口が軽いだけの岸田が、韓国政府に働きかけるはずがないし、韓国が突然「方針」を変換するのも、とても奇妙である。アメリカが韓国に圧力をかけたのである。「元徴用工問題」は日本にとっての懸念であるというよりも、アメリカの懸案事項だったのだ。それがあると日韓のアメリカ軍基地を連動させるときに障害になる、と考えたのだろう。
 そして、いま、その問題が解決に動き出したからこそ、次のステップ、日本と韓国にある米軍基地を利用して、北朝鮮に「核の圧力」をかける、という作戦に転換したのである。
 突然、記事の最後で「元徴用工問題」が書かれているのは、記者に「特ダネ」をリークしただれかが、「ほら、元徴用工問題もアメリカの後押しで解決したし……」と口を滑らせたのだろう。「そうか、そうだったのか」と記者は、自分の発見ででもあるかのように、そのことを「ばか正直」に書いてしまっている。
 だから、読売新聞の記事はおもしろい。

 

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする