詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

暁方ミセイ『青草と光線』

2023-03-29 14:42:50 | 詩集

 

暁方ミセイ『青草と光線』(七月堂、2023年03月25日発行)

 詩集に限らないが、何かを読んでいて、不意に立ち止まることばがある。何度も読み直してしまう。暁方ミセイ『青草と光線』の「早春賦」のなかほど、74ページ。

シャツの間からさわやかな針葉樹林の香りがする
熱され燃え落ちる雪の針の香りがする
もし呼んでいいのなら
黒く水を吸った小枝を土の上に結び
こだまにこの声を一度は渡し
風のひとむれのひとつになって
透明にまた冷たく雫のように
灰色の曇り空のしたを歩くあなたの肩に降りかかる
半分は蒸発し半分は滴り落ちる
そういうことを思いながら
まるで何も話さない

 私は「もし呼んでもいいのなら」という行にぶつかり、はっとした。暁方の詩は、いたるとこにろ「もし呼んでもいいのなら」が隠れているのだろう。「呼ぶ」という動詞を「書く」にかえれば、「もしこう書いていいのなら」になる。「もしこう書いていいのなら、私(暁方)は、こう書く」。そうやってできたのが、暁方の詩である。
 ここには、「あなた(読者)はそう思わないかもしれないが、私はこう思う」が隠れている。それは静かな声である。「絶対に、私の声を聞いてくれ、私のことばに賛成してくれ」という主張ではない。しかし、控え目だからといって、その声を捨てるわけではない。だから、書いているのである。
 その「呼んだ声」は、しかし、どうなるのだろうか。
 「こだまにこの声を一度は渡し」という行も、決して忘れることができない。「一度は渡す」。「一度」という限定があるところが、とても切ない。「こだま」を「詩」と置き換えると(書き換えると)、暁方の生き方(思想)になるのだろう。
 もし感じていることをことばにして書いていいのなら、それを書く。詩として書く。詩に、暁方のことばを一度渡す。それから、読者がどう読むかは別にして、暁方のことばが詩のなかでぞう変化していくかを見つめる。ことばの動きを、ことばにまかせ、暁方はことばの声を聞くのかもしれない。それを抱きしめるために。
 自分の声が詩になる。そのあと、詩の声に耳をすます。だまって、その声を聞く。それは「こだま」かもしれない。どこかに、きっと暁方の声の響きを残しているはずだから。つまり、暁方は、自分の声がどんなものかを、そっと抱きしめ、確かめている。
 この静かな往復があるからこそ、「もし呼んでいいのなら」というような書き方になっているのだろう。
 宮澤賢治に通じるような「針葉樹林の香り」「雪の針」「黒く水を吸った小枝」のことばの奥には、やはり「もし呼んでいいのなら」があるのだろう。「もし好きになっていいのなら」「もし好きと言っていいのなら」。それがあるから、それらのことばが美しい。

 

 

**********************************************************************

★「詩はどこにあるか」オンライン講座★

メール、skypeを使っての「現代詩オンライン講座」です。
メール(宛て先=yachisyuso@gmail.com)で作品を送ってください。
詩への感想、推敲のヒントをメール、ネット会議でお伝えします。

★メール講座★
随時受け付け。
週1篇、月4篇以内。
料金は1篇(40字×20行以内、1000円)
(20行を超える場合は、40行まで2000円、60行まで3000円、20行ごとに1000円追加)
1週間以内に、講評を返信します。
講評後の、質問などのやりとりは、1回につき500円。

★ネット会議講座(skypeかgooglemeet使用)★
随時受け付け。ただし、予約制。
週1篇40行以内、月4篇以内。
1回30分、1000円。
メール送信の際、対話希望日、希望時間をお書きください。折り返し、対話可能日をお知らせします。

費用は月末に 1か月分を指定口座(返信の際、お知らせします)に振り込んでください。
作品は、A判サイズのワード文書でお送りください。
少なくとも月1篇は送信してください。


お申し込み・問い合わせは、
yachisyuso@gmail.com


また朝日カルチャーセンター福岡でも、講座を開いています。
毎月第1、第3月曜日13時-14時30分。
〒812-0011 福岡県福岡市博多区博多駅前2-1-1
電話 092-431-7751 / FAX 092-412-8571

オンデマンドで以下の本を発売中です。

(1)詩集『誤読』100ページ。1500円(送料別)
嵯峨信之の詩集『時刻表』を批評するという形式で詩を書いています。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168072512

(2)評論『中井久夫訳「カヴァフィス全詩集」を読む』396ページ。2500円(送料別)
読売文学賞(翻訳)受賞の中井の訳の魅力を、全編にわたって紹介。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168073009

(3)評論『高橋睦郎「つい昨日のこと」を読む』314ページ。2500円(送料別)
2018年の話題の詩集の全編を批評しています。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168074804


(4)評論『ことばと沈黙、沈黙と音楽』190ページ。2000円(送料別)
『聴くと聞こえる』についての批評をまとめたものです。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168073455

(5)評論『天皇の悲鳴』72ページ。1000円(送料別)
2016年の「象徴としての務め」メッセージにこめられた天皇の真意と、安倍政権の攻防を描く。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168072977

 

 

問い合わせ先 yachisyuso@gmail.com

 

 

 

 

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする