スティーブン・スピルバーグ監督「フェイブルマンズ」(★★)(中州大洋スクリーン1)
監督 スティーブン・スピルバーグ 出演 ミシェル・ウィリアムズ、ポール・ダノ、ガブリエル・ラベル
予告編を見たときから不安だったのだが、その不安が的中した。おもしろいのは、映画のなかの映画の部分だけ。肝心のドラマが紙芝居っぽい。
スピルバーグの「自伝」らしいが、ここには「自伝」特有の「ためらい」がある。そして、それが映画をつまらなくしている。自伝だから、家族が出てくる。自分の家族を描くというのは、とてもむずかしい。スピルバーグの両親が生きているかどうか私は知らないが、どうしても家族に対する「配慮」が働く。「悪く」描けない。「憎しみ」を描ききれない。
で。
どういうことが起きるか。
映画が「ストーリー」になってしまう。登場する人物が「演じる」前に、ストーリーがすべてを説明する。映画なんて(小説なんて、詩なんて、と言ってもいいが)、「ストーリー」なんか、どうでもいいのである。「人間」が生きているかどうかが問題なのである。
つまり。
この映画では、母親の「浮気」が一つのテーマだが、この「浮気」が、その「浮気」の一番いい部分が、少年の撮る「家族ムービー」のなかだけで、生き生きしている。「映画のなかの映画の部分だけ」と最初に書いたのは、そういう意味である。そこには、なんと、映画の質を高めるのは、「狙い」のなかにどれだけ偶然が入り込んでくるか、あるいは偶然カメラのなかに入ってきてしまったものをどれだけ「リアリティー」として吸収(消化)し、作品に昇華させていくことができるか、ということと関係している。なぜ、それが映っている? わからない。しかし、よく見ると、それが映っていた。そして、それが「現実」なのだ、ということが映画を、突然、すばらしいものにする。かけがえのないものにする。母親の浮気のシーンは、まさに、それである。
それは、浮気相手が母親に帽子をかぶらせるシーンが特徴的だが、ちらって見た目にはなんでもないこと、ほほえましい親愛のシーンなのだが、別のシーンが組み合わさると、全然違ったものになる。「意味」がかわる。「意味」とは、そこにあるものではなく、ひとの認識がつくりだすものだからである。
そういう意味では、映画は「つくるもの」ではなく、「つくらされるもの」でもある。そういうことを、この映画は語っている。
この映画の秘密は、また、別のシーンでも語られる。戦場の死体のなかを歩く軍曹かなにか知らないが、責任者がいる。演技指導をして、撮影をはじめる。そうすると、その軍曹は少年の演技指導を上回る演技をする。しかも、それは「顔」ではなく、「背中」の演技なのだ。歩く後ろ姿なのだ。
スピルバーグに限らないが、名監督といわれるひとたちは、そういう瞬間をのがさずに組み合わせることができる能力を持っている。そういうことをスピルバーグは少年のころからやっていた、と意識して見れば、これはこれで、たしかに「立派な自伝映画」だとは思うが、やっぱり、退屈。
ゴールデングローブ賞の作品賞、監督賞、主演女優賞を獲得しているが、これは「御祝儀」のようなものだ。アメリカ人は「実在の人物(実際にあったこと)」を評価するのが好きな好き人が多い。有名人を「そっくりさん」として演じると、たいてい主演男優賞、主演女優賞が獲得できるし、作品賞も獲得することが多い。人への評価(称賛)と作品を混同していると思う。
アカデミー賞でもいくつかの部門でノミネートされているが、私はこういう作品や演技をおもしろいとは思わない。
「激突」や「ジョーズ」は、スピルバーグってだれ?と、何も知らない観客が見てもおもしろい映画だった。この映画を、スピルバーグってだれ? そんな人聞いたこともない、という人が見ておもしろいと何人が言うだろうか。
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