林嗣夫「わが方丈記・2」、やまもとさいみ「さよならは」(「兆」197、2023年02月10日発行)
林嗣夫「わが方丈記・2」の後半。小中学校の不登校が増えているという新聞の記事をみながらの感想のあと、こう書いている。
またも新聞の見出しに驚いた
「戦後日本の安保転換
敵基地攻撃能力保有」!
平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して(憲法前文)、と
わたしたちは決意したのではなかったか
ここにきて
一つ納得するものがある
「敵基地」という
毒性の強い共同幻想が
少しずつ 用意されてきたのだ
「敵基地」というよりも、「敵」ということばが、いったいどこから来たか、と私は考えてしまう。
中井久夫はエッセイのなかで、戦争中、空襲に恐怖を感じたが、アメリカに敵意は感じなかった、と書いていた。そのことも思い出した。
「敵」という「ことば(概念)」は、とてもむずかしい。私は自分自身からそのことばをつかったことがあるかどうか、よく思い出せない。それは、なんというか、私にとっては「組織的な概念」である。ひとりでは立ち向かうことができない何か。それに立ち向かうためには、まず「組織」をつくらないといけない。これが、私には苦手だ。だから、そういう苦手なことをしないようにしないようにしているうちに「敵」という考えが、自分のなかから自発的(?)に出てくることがなくなったのかもしれない。
聞いたらわかるが、自分ではつかわない。そういうことばが、私にはたくさんあるが、そのひとつが「敵」だ。
新聞記事の「いやらしさ」は「敵」とだけ書くのではなく「敵基地」と書いていることだ。これは、まあ「政府の受け売り」だけれどね。「敵」と「敵基地」はどう違うか。「敵」といえば人間を思い浮かべるが、「敵基地」と聞いたとき、そこに何人の人間の存在を思い浮かべるだろうか。人間よりも、「武器のある場所」を思うだろう。それから、「武器を動かす人」を思うかもしれないが、その「武器」が「野球バット」だけだったら「基地」ということばはついてまわらないだろう。だから、「敵基地」というとき、思い浮かべるのは、やっぱり「武器」だと思う。たとえば、ミサイル、とか。で、それは逆に言えば「敵基地」ということばは、人間の存在を隠してしまうことばなのである。
人間を殺さない。武器だけを破壊する。それが「敵基地攻撃」。
そんなことは、できないね。
「ことば」は何かを表現するためにある。しかし、「ことば」は何かを隠すためにもある。隠すための「ことば」が増えている。「敵基地」は「人間がいる」ということを隠すために「発明されたことば」である、と私は思う。
「隠すためのことば」とどう向き合い、どう「ことば」を動かしていくか。そのことを考えないといけないのだと思う。
やまもとさいみ「さよならは」。
さようならと言えば
さようならと返ってくる
じゃあまたと言えば
じゃあまたと返ってくる
さよならはこだま
返ってくることば言葉
でなければならない
さようならと言って
さようならと返ってこなければ
きっと言葉を間違えているのだ
「さようなら」という「ことば」が何かを隠しているとき、「さようなら」が返ってこないのだろう。隠している何かは、それまでに起きた何かだろう。「隠されているもの」を、少しずつ、探していく(明るみに出していく)ために、ことばを動かしてみる必要がある。
**********************************************************************
★「詩はどこにあるか」オンライン講座★
メール、skypeを使っての「現代詩オンライン講座」です。
メール(宛て先=yachisyuso@gmail.com)で作品を送ってください。
詩への感想、推敲のヒントをメール、ネット会議でお伝えします。
★メール講座★
随時受け付け。
週1篇、月4篇以内。
料金は1篇(40字×20行以内、1000円)
(20行を超える場合は、40行まで2000円、60行まで3000円、20行ごとに1000円追加)
1週間以内に、講評を返信します。
講評後の、質問などのやりとりは、1回につき500円。
★ネット会議講座(skypeかgooglemeet使用)★
随時受け付け。ただし、予約制。
週1篇40行以内、月4篇以内。
1回30分、1000円。
メール送信の際、対話希望日、希望時間をお書きください。折り返し、対話可能日をお知らせします。
費用は月末に 1か月分を指定口座(返信の際、お知らせします)に振り込んでください。
作品は、A判サイズのワード文書でお送りください。
少なくとも月1篇は送信してください。
お申し込み・問い合わせは、
yachisyuso@gmail.com
また朝日カルチャーセンター福岡でも、講座を開いています。
毎月第1、第3月曜日13時-14時30分。
〒812-0011 福岡県福岡市博多区博多駅前2-1-1
電話 092-431-7751 / FAX 092-412-8571
*
オンデマンドで以下の本を発売中です。
(1)詩集『誤読』100ページ。1500円(送料別)
嵯峨信之の詩集『時刻表』を批評するという形式で詩を書いています。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168072512
(2)評論『中井久夫訳「カヴァフィス全詩集」を読む』396ページ。2500円(送料別)
読売文学賞(翻訳)受賞の中井の訳の魅力を、全編にわたって紹介。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168073009
(3)評論『高橋睦郎「つい昨日のこと」を読む』314ページ。2500円(送料別)
2018年の話題の詩集の全編を批評しています。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168074804
(4)評論『ことばと沈黙、沈黙と音楽』190ページ。2000円(送料別)
『聴くと聞こえる』についての批評をまとめたものです。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168073455
(5)評論『天皇の悲鳴』72ページ。1000円(送料別)
2016年の「象徴としての務め」メッセージにこめられた天皇の真意と、安倍政権の攻防を描く。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168072977
問い合わせ先 yachisyuso@gmail.com