熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

中村勘三郎の極めつけ「髪結新三」・・・生きでキザなアウトロー

2005年05月13日 | 観劇・文楽・歌舞伎
   3ヶ月続いている「中村勘三郎襲名披露公演」の最終月、連日殆ど満席の状況で、勘三郎人気で木挽町は賑わっている。
   今回は、中村屋のお家芸「髪結新三」を見たくて昼の部を見に出かけた。絶品の玉三郎の鷺娘を見たかったが、ロンドンで見たあの華麗な鷺娘を忘れたくないので、意地を張って夜の部は諦めた。
   
   「親父には手取り足取り教わったことがない。父の芸を身につける手段は模倣だけ、瞬きをするのも惜しんで観ていた。」
   初役髪結新三を演じるそんな勘九郎に、自分で呼吸も出来なくなっている死の床から、勘三郎は、自分で教えるんだと言って、自ら当たり役の髪結新三を教えた。
   ベッドに寝たまま、酸素吸入のビニールの仕切りの中で、台詞や動きを教えた。動けば息が苦しくなるのに、それでも止めずに新三をやり続けた、と言う。

   家の再興の為に持参金付きの嫌な結婚を避けるためと称して、白子屋の箱入り娘お熊を誘拐して、身代金を騙し取ろうとする新三、口の上手い大家に言い込められて30両の半金を持って行かれる。
   根っからのワルだがドジで人の良い、何とも憎めない小悪党新三を、勘三郎は、実に颯爽と小粋に演じている。
   粋でキザな格好良い見栄、冒頭の忠七の髪を結う髪結の芸の細かさと巧みさは秀逸。

   ぽんぽん飛び出す活きの良いキザな江戸弁の啖呵が身上、それが、理屈と脅しすかしに弱く上げ下げ自在な悪辣な大家の説得に崩れて行く弱さを実に巧みに演じている。
   「店子は子も同然。大家は親も同然。」こんな白々しい台詞が宙に浮くようなそんな新三と大家の泣き笑いの駆け引きが客を引きつけ離さない。
   この新三、もう完全に18代目のお家芸18番である。

   特筆すべきは、老獪で一枚上の小悪党大家を演じる三津五郎の芸の巧みさ、素晴らしい熱演で勘三郎も引き込まれて苦笑交じりの受け答えが、また、しんみりとさせる。
   この三津五郎、その前の「芋掘長者」で橋之助とコミカルな芋掘り踊りを演じるが、実に芝居心の豊かな素晴らしい歌舞伎役者である。

   雄雄しく育ちつつある勘太郎・七之助の「車引」の梅王丸と櫻丸、それに、猿若座の芝居小屋前での変形披露の舞台「弥栄芝居賑」での菊五郎や玉三郎等の幹部連の勘三郎づくし等面白い趣向の5時間であった。
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