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ミステリ感想-『いざ言問はむ都鳥』澤木喬

2017年08月02日 | ミステリ感想
~収録作品とあらすじ~
早朝4時の路上に散らばる、都忘れの大量の花びら。沢木は植物生態学講座の助手という職業柄その不自然さに気づき…いざ言問はむ都鳥
ひと気のない駅で子供用の切符を延々と買い続ける男。しかし周囲に子供の姿はただ一人もなく…ゆく水にかずかくよりもはかなきは
講座の学生の自室で起こったボヤ騒ぎ。金魚鉢が出火原因かと思われたが、沢木は学生の父親の不自然な行動に思い当たる…飛び立ちかねつ鳥にしあらねば
黒猫の幽霊に怯える学生と、咲いているはずのないサザンカを欲しがる隣人。いくつかの謎が結びつき…むすびし水のこほれるを

本格ベスト61位


~感想~
この一作しか刊行されていないのが不思議なほど、飛び抜けた発想力の作者による連作短編集。
専門知識のオンパレードや恣意的に過ぎる推理などなど欠点は多々あるものの、何気ない日常回の裏からとんでもない真相が不意に牙を剥く、発想の飛躍は実に面白い。
星の数ほどある日常の謎ジャンルの中でも普段ののんびりとした雰囲気と、おぞましいと表現しても良いほどの黒い真相との落差は屈指のもので、推理や伏線その他の欠点も「細けぇこたぁいいんだよ!」と鷹揚に受け入れられる向きならば、文句なしに楽しめることだろう。

しかし断った通りに真相は4編揃っていちいちドス黒いものであり、これが西澤保彦あたりだったら決着も最悪の結果に向かっていることは疑いなく、ギリギリで踏みとどまらせた作者のさじ加減と、異常な精神耐性を誇るのん気な語り手に救われている面はかなり大きい。
本格ベスト61位に推されたように良い腕を持っている作者だけにもう何作か読んでみたかったものである。

なお裏表紙にはせっかく隠している真相が堂々と書かれ、創元推理文庫名物の開いてすぐのあらすじにも推理の手掛かりのネタバレが書かれているため要注意。


17.7.29
評価:★★★☆ 7
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