詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

岡部淳太郎「庭園」、金井裕美子「捨てる」

2021-06-02 08:29:17 | 詩(雑誌・同人誌)

岡部淳太郎「庭園」、金井裕美子「捨てる」(「spirit」22、2021年05月28日発行)

 岡部淳太郎「庭園」は静かにことばが動く。

この場所に 一人
私は立ちつくしている
そよぐものはそよぎ
あらがうことなく
そのままに
充足されてあり
池の蓮はそのままで
かたく緑だ
小さな道
ここを横切るだけのしるし
近くの林の葉は
動かぬものとして
私に届こうとし
空気を媒介にして 伝言を送る
砂利や白い石の記憶も
この中に入ってきて
まるで以前からここにあったかのように
思えてくる


 「空気を媒介にして」が窮屈な感じがしないでもないけれど、次の行の「石の記憶」のためには、これくらいの窮屈感があった方がスムーズかもしれない。
 「この場所」が「ここ」と言い直され、「この中」ともう一回変化するところがとてもいい。「この中」があって「ここ」なのだ。だから、再び「ここ」が登場する。
 そして、それは特別なことではなく「そのまま」であり、「そのまま」とは「まるで以前からここにあったかのよう」ということなのだが、それは「庭園」だけではなく、「私」の存在そのものがそうなのだ。
 「ここ」と「そのまま」。無為。「あらがうことなく」、ただ無為そのものとして存在する。その瞬間の静けさが、さらっと書かれている。

 金井裕美子「捨てる」は、こうはじまる。

飲むことも
出すこともできず
溜まって
分離しだしている
腐りかけている


 それは、何だろう。最終連で明らかになる。

息をころして
口角をゆるめず
こぼさないように
咽喉を開いて
舌もろとも
吐き出し
感情を入れずに
捨てる


 ことばである。ことばが腐りかけている。たぶん、怒り、不満のことば。だからこそ、「感情を入れずに/捨てる」。何でもないことだが、一番大切なことばを省略すると、その瞬間に、ことばが詩になる。言いたいことを言ってしまうのではなく、言いたいことは読者に想像させる。想像した瞬間、ことばは自分のものになる。それは「共有」というよりも「略奪」に近いかもしれないが、詩人とは略奪されても略奪されても、なお書き続ける人のことだろう。

 

 

 


**********************************************************************

★「詩はどこにあるか」オンライン講座★

メール、skypeを使っての「現代詩オンライン講座」です。
メール(宛て先=yachisyuso@gmail.com)で作品を送ってください。
詩への感想、推敲のヒントをメール、skypeでお伝えします。

★メール講座★
随時受け付け。
週1篇、月4篇以内。
料金は1篇(40字×20行以内、1000円)
(20行を超える場合は、40行まで2000円、60行まで3000円、20行ごとに1000円追加)
1週間以内に、講評を返信します。
講評後の、質問などのやりとりは、1回につき500円。
(郵便でも受け付けます。郵便の場合は、返信用の封筒を同封してください。)

★skype講座★
随時受け付け。ただし、予約制(午後10時-11時が基本)。
週1篇40行以内、月4篇以内。
1回30分、1000円。
メール送信の際、対話希望日、希望時間をお書きください。折り返し、対話可能日をお知らせします。

費用は月末に 1か月分を指定口座(返信の際、お知らせします)に振り込んでください。
作品は、A判サイズのワード文書でお送りください。
少なくとも月1篇は送信してください。


お申し込み・問い合わせは、
yachisyuso@gmail.com


また朝日カルチャーセンター福岡でも、講座を開いています。
毎月第1、第3月曜日13時-14時30分。
〒812-0011 福岡県福岡市博多区博多駅前2-1-1
電話 092-431-7751 / FAX 092-412-8571

**********************************************************************

「詩はどこにあるか」2021年5月号を発売中です。
137ページ、1750円(税、送料別)
オンデマンド出版です。発注から1週間-10日ほどでお手許に届きます。
リンク先をクリックして、「製本のご注文はこちら」のボタンを押すと、購入フォームが開きます。

https://www.seichoku.com/item/DS2001411


オンデマンドで以下の本を発売中です。

(1)詩集『誤読』100ページ。1500円(送料別)
嵯峨信之の詩集『時刻表』を批評するという形式で詩を書いています。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168072512

(2)評論『中井久夫訳「カヴァフィス全詩集」を読む』396ページ。2500円(送料別)
読売文学賞(翻訳)受賞の中井の訳の魅力を、全編にわたって紹介。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168073009

(3)評論『高橋睦郎「深きより」を読む』76ページ。1100円(送料別)
詩集の全編について批評しています。
https://www.seichoku.com/item/DS2000349

(4)評論『高橋睦郎「つい昨日のこと」を読む』314ページ。2500円(送料別)
2018年の話題の詩集の全編を批評しています。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168074804


(5)評論『ことばと沈黙、沈黙と音楽』190ページ。2000円(送料別)
『聴くと聞こえる』についての批評をまとめたものです。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168073455

(6)評論『天皇の悲鳴』72ページ。1000円(送料別)
2016年の「象徴としての務め」メッセージにこめられた天皇の真意と、安倍政権の攻防を描く。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168072977

 

 

問い合わせ先 yachisyuso@gmail.com

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする