山田亮太『誕生祭』(七月堂、2021年05月27日発行)
山田亮太『誕生祭』の「ふっかつのじゅもん」という作品がある。
ひとつのか らだでふたりの
じかんをい きるや
わらか いたま しいのこ
うかん そのた めにただ
しくか きうつ すひとり
でもお ぼえて いればな
んどで もきみ はよみがえる
ことばが意味とは無関係に分かち書きされ改行されている。ことばが音になって広がる。音は意味とは無関係だけれど、どういう音でも意味と無関係に生きつづけるわけにはいかない。どうしても、どこからともなく意味はやってきて、音と汚してしまう。ことばを汚してしまう。この不思議な力に、ことばはどこまで耐えられるか。
そして、そのとき耐えることがいいのか、耐えるのをやめて意味を受け入れてしまうのがいいのか、判断に迷う。
たぶん、人間は、意味やストーリーがないと、存在の実感を持てない動物なのかもしれない。
あるいは逆に、脳は(人間は)いつでも意味を捏造して生きている。捏造したもので自己満足してしまうだらしない生きものなのかもしれない。
こういうことは、これ以上考えない。
この詩を取り上げたのは、そういうことを書くためではなく、実は、この詩を読んだ瞬間、私は「光る手」を思い出した。そのことを書いておきたい。
「光る手」は
浴槽から突き出た指の数を数えて、
その数をできるだけ素早く叫ぶゲーム。
と始まる。風呂で子どもと遊んでいる。あるいは教育している。これは山田が体験したこととして書かれている。子ども時代の記憶を書いている。
そのあと連を替えて、
高村光太郎が生まれたのは、一八八三年、
と、突然、高村光太郎が出てくる。
そのあと、「ぼく」と「高村光太郎」が交互に(連を変えるごとに)入れ替わる。
ふたりの関連性、ふたりをつなぐ「意味」は、あるか。まあ、探し出そうとすればみつかるだろう。
最後のそれぞれの連では、東日本大震災(と、想像できる)と原子力が登場する高村光太郎の詩「生命の大河」について触れている。「父と子」という生命のつながり、「原子力」という新しい命とそれがもたらす破壊。ここから、ある「意味」を捏造する(山田の思いとは関係なく、私自身の「誤読」を展開する)ということは、できる。こういう後出しじゃんけんは、いつでも、どんな作品に対してもできる。
でも、今回は、私は意味を捏造しない。捏造できる、というところでとどめておく。どんなときでも、私はどっちにしろ、捏造した意味を壊すために次の感想(別の作品の感想)を書くのだから、捏造はことばにしようが、しまいが、同じことだ。
私はただ、この「ぼく」と「高村光太郎」のことばの関係が、どこかで「ふっかつのじゅもん」につながっていると感じたということは書いておきたい。
山田は「ひとつのからだ」である。しかし、「ふたりのじかん」(父と子か、山田と高村光太郎か)を生きることはできる。思い出す(想起する)ということを通して、時間は二重化する。そのとき、その時間をつらぬくのは何か。山田のことばか。山田が読んだ(と思われる)高村光太郎のことば、高村光太郎についてのことばか。どっちでも、かまわない。区別しても、それは、どこかでかならず接触し、接触したら最後、互いに浸食し合う。越境し合う。そして、その越境は、侵入なのか、死なのか、生なのか、また区別はできない。でも、この「浸食し合う」「越境し合う」の「し合う」というのが、「よみがえる(ふっかつ)」ということばにつながっていくのだろうと思う。
そこには何かしらの「許容」というものがある。「拒絶」(排除)ではなく、異質なものを取り込むことで生まれ変わるという運動がある。
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