詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

高柳誠『フランチェスカのスカート』(10)

2021-06-25 00:01:02 | 詩集

高柳誠『フランチェスカのスカート』(10)(書肆山田、2021年06月05日発行)

 「猫」。「ぼく」の部屋に猫が出入りしている。「ぼく」は猫を保護しているつもりだが、猫の方でも「ぼく」を守っている気でいるようだ。しようがなしに、つきあっていると言えばいいのか。

     ぼくの方でも「ネコ」と呼ぶだけで名前を付けていない。名
  前を付けたとたん、飼い主と飼い猫の関係になり、対等ではなくな
  ってしまう気がするからだ。

 名前をつけない、名前を呼ばない。それが「対等」の関係を意味する。そして「一般名詞」で呼ぶことは、「ぼく」をも一般名詞化/抽象化することなのだ。
 これは逆に言えば、この詩集の中に出てくる「フランチェスカ」は、それがたとえ偽名であろうとも固有名詞であり、その名前を知ってしまうことは「対等」の関係ではなくなるということだ。「特別な」関係になるということだ。
 すでに出てきた「親方」はやはり「親方」であり、固有名詞を持たない。「手紙」の相手も「きみ」であり、固有名詞を持たない。それは「記憶の轍」に出てきた「純粋記憶」のようなものかもしれない。「修道院」には「シスター・エリーザベト」が出てくるが、これは「シスター」の方に重きがある。「シスターA」とか「シスター1」と書くわけにはいかないから、かりそめの呼称である。なぜ「シスターA」「シスター1」と書けないかというと、そう書くと「シスター」という「記号」がさらに記号化してしまうからである。
 高柳のことばは、固有名詞を書いていても「記号」の印象があるが、なぜ記号を高柳は偏愛するのか。
 「関係」を描くことが高柳の目的だから、「関係」以外のものに視点がずれないようにするためである。詩のなかの「対等」はあくまでも「対等の関係」という意味である。直前に出てくる「関係」を補って読むと、いっそうわかりやすくなる。

 

 

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