詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

白石かずこ「詩をかいて とカンタンにいうが」

2021-06-26 08:24:52 | 詩(雑誌・同人誌)

 

白石かずこ「詩をかいて とカンタンにいうが」(「現代詩手帳」2021年07月号)

 「現代詩手帳」07月号を開いて、ぱらぱらとめくり、思わずギョッとした。このギョッの感じは、いまの若い人にはわからないかもしれない。そこには、私が青春時代に読んできた詩人が並び、新作を発表している。なにやらアンケートまでついている。そして、そのアンケートというのが、どうも「まだ生きているのか」というような問いかけに見える。みんな「まだ生きているさ」と恨み言のようにことばを並べている。「ははは、なかなか死ねなくてね」というような冗談めかした声ではないのである。全部読んだわけではないけれど。妙に真剣なのである。いや、真剣が悪いわけではなく、いつでも真剣でなければいけないとは思うが、ずらりと真剣が並ぶと、「凶器」が並んでいるようでギョッとするのだ。息が抜けない。笑いたいけれど、笑えない。「おじいちゃん、おじいちゃん。危ないから刀をふりまわすのはやめなさい」と声をかけることができないのだ。
 こんなことを書くと「失礼な!」と言われるだろうけれど、思ったことは書かずにいられない。なかには、ほんとうに「あ、この人まだ生きていたのだ」という形で思い出す人もいて、ほんとうにびっくりした。
 と書いている私も、もう高齢者だし、きっと若い人から見れば、まだ何か書いている、という印象しかないだろうなあ。「まだ生きているのか」と批判されそう。

 前置きが長くなったが、白石かずこ「詩をかいて とカンタンにいうが」がおもしろかった。

  詩はかけない。詩は魂をちぎってかく、

 この書き出しからして、あ、白石かずこだと思う。「魂」ということばからか。いや、「ちぎってかく」の「ちぎって」という音だな。生きている。「詩はかけない」といいながら、書いている。そのとき「魂をちぎってかく」。「切る」ではなく「ちぎって」。「凶器」は真剣(刀)ではなく、「素手」である。それが、かっこいい。私は実物(失礼!)は見たことがないが、もうすでに「おばあちゃん」だろう。最初の詩集が、私が生まれる前に発行されているくらいだから。そのおばあちゃんが、素手で、魂をちぎっている。だれも刀を貸してくれないから、素手で、力いっぱいちぎっている。しかも、「魂」を。私は「魂」というものを見たことがないから「ちぎれる」ものかどうか知らないが、ともかく力を込めていることだけは、最初の行からわかる。

  詩はかけない。詩は魂をちぎってかく、
  感覚を総動員してかく、その上に、
  イメージと才能、思想をもつ、
  詩はバケモノのように変化する。じっとしていない。

 私が「素手」と読んだものを、白石は「感覚」と読んでいる。「総動員」か。このことばに力がみなぎっている。どんな感覚も動かないでいることを許さないのだ。おばあちゃんになっても、「才能」と叫んでいる。「詩はバケモノのように変化する」ではなくて、「白石かずこはバケモノだ」。すぐに変化する、だろうなあ。
 私は「おばさんパレード」というタイトルで女性の詩人をまとめて批評したいと思ったことがある。いまでも思っている。そのなかには「バケ猫」ということばをつかっていた詩人がいるが、「バケモノ」の方がすごいなあ。
 「バケモノ」って、どういうもの? 白石はこう書いている。

  サッと逃げていく。ドロボーも悪党もマネができない。
  しかたがないから神を呼ぶ。タマシイとか、イメージとか、
  どこかで遊んで休養している心とかに きてもらう。

 「ドロボー」「悪党」「神」が同列なのだ。分け隔てがない。ギリシャ悲劇みたいだ。「タマシイ」「イメージ」は、共通項を持っているのか、それとも「悪党」「神様」のように対極にあるのか。いや、「泥棒」「神」こそが共通項をもった存在かもしれないなあ。
 白石のことばはどんどん加速する。

  乗り気でない心たち、魂たちにムチうって、あつまってもらう。
  心はイヤなやつだ。なんとか逃げ出そうとする。と、まちうけたやつがいて、
  心に水をかけ、火をみせ、たたきはじめる。

 わっ、すごい。もう目が離せない。「おばあちゃん」は限界を知らないから(きっと認知症で限界を認識できない)、「水」と「火」も水や火ではいられない。ことばではいられない。なんというのか、特権的な「もの」として「おばあちゃん」のいうがままである。
 そのとき、何が起きるか。

  たたかれると心は快楽を感じ、眼をさまし、走りだす。
  イメージも才能もフトンから飛びおきて シャワーをあび、アッ!

 「快楽」か。「眼をさまし」か。これは、こわい。「おばあちゃん」が快楽に目覚める。それは、若いときのエクスタシーなんかとはまったく違うだろうなあ。演技しているうちに、その気になってしまうというようなぼんやりしたものではない。ほんとうに自分の外に飛び出して、もう自分ではなくなるのだ。もう「寝たきり」なんかやってられない。ドラッグでも、ここまで「おばあちゃん」を変えることはできなだろう。
 詩の力だなあ。

  走り出したら安心。地球のハテまで、行ってくれ。
  いまは車の中、全員、集合! これから
  お茶を飲む

 あ、これでおしまい? なんだか妙な終わり方だなあ。死んじゃった? 「地球のハテ」ではなく「宇宙のハテ」、いや「いのちのハテ」まで行ってしまったのかな?
 もしかしたら最後の二行は、「現代詩手帖」の「特集」にあつまった同年代の「全員」に呼び掛けているのかな? いま、同じ車(現代詩手帖)に乗り込んで、出発進行。でも、まあ、詩を書いたから「それじゃあ、お茶にしようかねえ」と言っているのかも。

 詩は若い人のものだと思うけれど、いまの若者は、現代詩手帖の特集をどう読んだかなあ。白石の狂暴さに、どんなことばで立ち向かうのかなあ。感想を聞いてみたいものだ。

 

 

 

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