高柳誠『フランチェスカのスカート』(5)(書肆山田、2021年06月05日発行)
「星降る丘」は丘を描いているというよりも星空を描いている。
星空は、びっしりと書
き込まれた一冊の巨大な書物だ。
だから、ひとは「星空を読む力をいつも試されている。」
だが、読むとは、どういうことか。
文字が知識を伝えうるのと同じように、星空はそれ自体
おびただしい量の叡智を表出している。この丘には、星読む人にな
りたいがために、自らの存在自体をすっかり忘れ果てて、星空の書
物にいつまでも見惚けている人々が、あちこちの暗闇に音もなく潜
んでいる。
キーワードは「自らの存在自体をすっかり忘れ果て」るである。これを「見惚ける」と言いなおしている。ただ「惚ける」のではなく「見」惚ける。「見る」という動詞になる。そして、自己存在を「忘れる」。それが「読む」ということ。
そのとき何が残るのか。
「書物」が意味を喪失して、残る。「意味」あってはいけない。
意味のない書物としての詩。そう考えるとき、私は再び那珂太郎、時里二郎、阿部日奈子を思い出すのである。書物には(詩には)意味は存在せず、ただことばの自在な運動がある。それは星のように、人間の叡智を超えて動いている。かれらは、それを「読んだまま」「書く」。
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