高柳誠『フランチェスカのスカート』(3)(書肆山田、2021年06月05日発行)
「印刷所」には時里二郎の通じることばが出てくる。
組版の段階で
は意味のない左右さかさまの紋様でしかなかったものが、端正な文
字の列となって出てくるところなど、魔法じみている感じさえする。
世界がぐるっと反転するような感覚が、そして世界がまるごと一枚
の紙のうちに収まるような感覚が、内臓をゾワゾワさせるのだ。
「反転する」が、それである。そして、その「反転する」は単に反転するだけではなく、反転することで「正しい」ものになる。「端正」ということばのなかに、その「正しい」がある。
これは、こう言い直される。親方が、見習職人の「ぼく」に助言する。
原稿の意味に引っ張られるようじゃだめだ。原稿を見た途端に、そ
の反転した字姿を見通すんだ。それがどういう組版を望んでいるの
かを感じ取るんだ。それが習慣づけば、原稿を手にすると同時に、
活字が組み上がったときの姿が細部にわたるまで見えてくるはずだ。」
おもしろいのは、その「反転する/反転した」ということと対比するように、「意味」ということばがつかわれていることだ。「反転する」ことによって、「原稿の意味」を超える。そして、その「意味」を超えるものとは何かというと、「細部」なのである。「細部」は「事実」と言い換えることができるかもしれない。
「意味は無意味だ」(ことばに意味はいらない)、大事なのは「細部=事実」だというのは、那珂太郎の詩学に通じるかもしれない。高柳にしろ、時里にしろ、あるいは阿部日奈子にしろ、那珂太郎の好んだ詩人にはひとつの共通要素がある。散文形式で詩を書く。そのことばの運動は「論理(意味)」の形成をめざしているように見える。しかし、実質は「意味」を拒絶している。別の言い方で言えば「意味を反転させている」。意味の反転としての無意味。それを「細部」にわたるまで、克明に描く。そのときの「事実の正確さ/書き換え不能」が彼らにとっての詩なのである。那珂太郎の詩で言えば、たとえば「アメリイの雨」の書き出し。「雨のピアノが奏でるチヤバイビコボフブスブキビイビ」という音の楽しさ。
その「細部の事実(具体性)」として、高柳は、こんなことを書いている。
一日の長い仕事の後、薄暗いなかで活字を拾い続けていると、疲れ
と眠さについ集中力が切れて、うっかりbとdを取り違えるといっ
た初歩的な誤りを犯してしまう。
「bとdを取り違える」というのは活版印刷でしか起きない「事実」である。いまのコンピューター製版では起きない。もう死んでしまった世界が、ふいに出現してきて、笑いを引き起こす。この「笑い」の性質も、高柳、時里、阿部に共通しているかもしれない、と思った。
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