詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

特ダネ記事の読み方

2021-06-18 08:07:45 | 自民党憲法改正草案を読む
読売新聞に、こんな「独自材(特ダネ)」。
【独自】五輪観客、上限1万人…緊急事態宣言の再発令なら「無観客」案も
私がこの記事で注目したのは、
 
この上限とは別に、スポンサーなどの関係者の入場を認める方針だ。
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「スポンサーなど」の「など」が何を指しているのかあいまいだが、菅が招待した「特別枠」(安倍の桜を見る会、みたいなものかな?)があるかもしれない。
そして、その「総数」は観客を1万人入れないと目立つくらいの人数に違いない。1人、2人なら、あ、どこかのスポンサーのお偉方が見ているくらいの印象だが「800人(だったっけ?)になると目立つ。少なくとも7000人以上有料入場客を入れないと、あ、多いなあという印象になると思う。1割超えると、目立つと思う。
つまり。
「上限1万人」というのは、「特別招待客」を目立たせないための「配慮」なのである。1万人の入場料よりも、誰かを優遇しているということを知られたくない。言い換えれば、五輪観客のなかには「優遇客」がたくさんいるということだ。
 
五輪関係では、こういう記事もある。
【独自】五輪へ「尾身提言」、観客入れるなら「通常より厳しい基準を」…無観客が最も低リスク
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これは、もっともな意見だと思う。
私が注目したのは、これに関連した政府関係者の声を紹介した記事。
 
尾身提言、政府は静観の構え…自民幹部「別の専門家からすると何なんだとなる」(見出し)
政府は、尾身氏が近く東京五輪・パラリンピック開催に絡んで感染防止の提言を公表した場合、静観する構えだ。大会に関する感染防止策は他の専門家がすでに協議を重ねてきたためだ。自民党幹部は17日、「別の専門家の組織からすると、何なんだということになるのではないか」と懸念を示した。
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もっともらしく聞こえるが。
でもさあ、菅は「縦割り行政の弊害をなくす」と言っていなかったっけ。
「尾見はコロナ対策だけ考えればいい。五輪対策は別の専門組織が考えるから尾身は口を挟むな」というのは、縦割り行政の典型じゃないかな? こんな緊急時に、菅にとって都合の「縦割り行政」だけを守ろうとしている。
ここから考えると、もし憲法改正に「緊急事態条項」がもりこまれたら、結局、権力者のつごうのいいことだけが実行できる(実行する)ということになるだろう。

読売新聞は「権力より」なうえに、「権力べったり」ということが自覚できていないので、ときどき(頻繁に?)、権力がどういうことを考えて、何をしているか(何をしようとしているか)という情報を「無自覚」に垂れ流している。
朝日新聞はかなり巧妙で、書いたとしても、完全に別個な記事に仕立てていることが多いように思う。言い換えると、「権力側がリークした内容の問題点」がすぐわかるようには書かれていないことが多い印象がある。
読売新聞はおもしろいよ。
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青柳俊哉「朝の先端で」、徳永孝「沈まない太陽」、池田清子「訪問」

2021-06-18 00:40:57 | 現代詩講座

青柳俊哉「朝の先端で」、徳永孝「沈まない太陽」、池田清子「訪問」(朝日カルチャーセンター福岡、2021年06月07日)

  朝の先端で 青柳俊哉

  朝の先端で 
  バラの花がめくられている
  中心部から盛りあがる無数の小花が
  外側にひらかれるとおもうまもなく
  凄まじく 縁にむかってきえていく
  落下することのない噴水の花弁の運動
  庭先のバラの空間の 絶えまない紡錘形の尖り
  それがしっとりとわたしを見ている
  潮の満ちてくるベッドでは 朝の夢が
  蚕のまゆで編んだ貝殻のように
  横たわっていて その中へわたしは
  バラの意識の花弁をめくって沈める

 バラの花を描きながら朝の変化を描いている。青柳は朝の時間の速さ、光が差す前の世界、動き出す前の世界が描きたかったという。
 「それがしっとりとわたしを見ている」「バラの意識の花弁をめくって沈める」「落下することのない噴水の花弁の運動/庭先のバラの空間の 絶えまない紡錘形の尖り」という行が印象に残るという受講生の声。バラが開いていく様子が巧みに描写されている。「噴水の水の運動が具体的でイメージが広がる。いつもより抽象性が少ない、と感じた」という声も。
 私も、「落下することのない噴水の花弁の運動」は大変おもしろいと思う。バラの描写だけれど、噴水がバラに見えるという感じもする。譬喩と実在のものが入れ替わる感じ。譬喩にはそういうおもしろさがあると思う。「意味」を超越して、イメージが自立して動く。
 バラにかぎらず、花はしばしば性と結びつけて描かれる。この作品にも、そういう匂いが漂っている。「潮の満ちてくるベッド」などが、誘惑的である。
 私は「蚕のまゆで編んだ貝殻のように」の「貝殻」の譬喩につまずいた。青柳は「つぼみの子宮」のイメージだという。私がつまずいたのは「貝殻」が固い印象があるのと、「殻」に死のイメージを感じたからである。「貝」だったら生きている印象があるが……。

  沈まない太陽  徳永孝

  夕方の薄雲から見える
  白銀の太陽
  いつまでもじっと動かない

  妖精の国では
  巨人トローが沈む太陽を支え
  そこでは時が止っている
  成長せず老いず死もない

  妖精は彼らの論理で動く
  悪意無く人間の思いに違うことも
  妖精の見える人を
  彼らの世界へつれて行こうとする
  とりこになった人は
  時の止った世界から抜け出せない

  囚われたリディアは
  彼女の知恵と恋人エドガーの宝剣アローの力で
  トローをたおし時を取り戻して
  人間の世界へ連れて帰って来れた
 
  知恵も宝剣も持たないぼくは
  妖精に囚われないよう
  気をつけなければ

 「妖精の国、登場する巨人らに対する知識がないのでわからないことが多いが、時の止まった世界がポイントだと思う」「妖精の国が悪い国と想像したことがない。白銀の太陽というのも自分の持っているイメージと違う」「最終連は妖精の国の魅力とは相反するようで、違和感がある」という声。
 妖精のイメージが、一般に、幻想的、夢幻的、やさしさに満ちているファンタジーという感じが強いためだと思う。この詩でもファンタジーであることにかわりはないのだが、「時が止まる」「不老不死」が必ずしもいいこととはいえないのではないかという問題提起をしている。受講生が指摘していたが「時の止まった世界」をどう掴むかによって、感想が違ってくると思う。ふつうは、不老不死は「理想」であるけれど、何も変化がないというのは楽しくないかもしれない。死んでもかまわないから、変化がある方がいい、変化のない世界に閉じ込められては楽しみがない、と言いたいのかもしれない。
 妖精の国が太陽を支える巨人トローだけで説明されていて、ほかの妖精たちの姿が具体的に見えてこないのが残念。ほかの妖精の姿も描かれると、「妖精に囚われないよう」にしなければならないということが、わかりやすくなるかもしれない。

  訪問  池田清子

  数十年ぶりの訪問でした
  駅まで迎えに行ったとき
  すぐにわかりました

  仏壇の前で
  たくさんの話をしました
  長崎のこと、熊本のこと
  年をとったら
  いろんなことが起こること

  声も、話し方も
  長い前髪をかきあげる仕草も
  変わりませんでした

  下宿では
  映画きちがい 映キチさんと呼ばれていました
  キャンディス・バーゲンがいいと言っていました
  シャガール
  ワーズワースの草原の輝き
  紀要の発行で
  編集後記を最初に書きたいと主張したら却下されたそうです
  私には 今でも意味がよくわかりません

  喫茶店で
  赤い服の女の人と向かい合っているのを見ました
  長崎駅に見送りに行ったとき
  好きな人と別れるときはあんな顔をするんだ
  というような顔をしていました
  翌年、結婚式に出席しました

  いつまでも覚えているものですね
  もう一生会えないかもしれないので
  もうしばらく思い出してもいいですか
  まだ やきもちを妬いてくれますか

 「若いころの想い出。想い出に浸り、しんみりする。半分わかる」「後半は飛躍があってよくわからないところがあるが、詩を感じる。前半は散文的すぎる印象がある」
 たしかに全体の構成はアンバランスな印象が残るが、後半を目立たせるという効果も上げていると思う。
 「編集後記を最初に書きたい」という気持ちは、わかる、わからないと反応が分かれた。私は、そういう気持ちは、わかる。
 五連目。「好きな人と別れるときはあんな顔をするんだ/というような顔をしていました」をどう読むか。
 私は作者の「意図」とはまったく違う風に読んだ。「好きな人」を池田と読んだのである。男性は池田が好きである。池田も彼が好きである。しかし、彼は何らかの事情で結婚できない。池田は「赤い服の女の人」と結婚する。そういうことがわかったあとの別れ。彼は池田に対して「好きな人と別れるときの顔」をしてみせた。「というような顔をしていました」という言い回しが、なんとも複雑でおもしろい。
 結婚式には参加したが、もう一生会えないかもしれないと思っていたがふたたび会った。今度こそ(互いに高齢なので)もう会えないかもしれない、と思っている。
 最後の「まだ やきもちを妬いてくれますか」に目を向ければ、結婚できない事情は池田の方にあった。結婚できないと知って、彼は「赤い服の女」と見合い(?)し、結婚した。それは、池田と結婚できなかったための「やきもち」の仕業である、とも読むことができる。
 人間のこころは、いつでも行動とぴったりかさなるわけではない。書いている池田にはもうしわけないが、そういう隠された「ドラマ」が書かれていると、私は「誤読」してみた。前半は淡々と書き、青春時代のことをいきいきと思い出し、辛い別れ(複雑な事情のわかれ)を劇的に展開する。
 そう読むと、おもしろいと思いませんか?

 


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