詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

田口三舩「ペンペン草が咲いた」

2018-05-13 00:00:49 | 詩(雑誌・同人誌)
田口三舩「ペンペン草が咲いた」(「SUKANPO」26、2018年05月11日発行)

 田口三舩「ペンペン草が咲いた」の一連目。

陽が凍え
闇に埋もれそうな
通い慣れた小径の
傍らに
ぺんぺん草の花が
ひとかたまり
互いを
見やることもなく
咲いた

 「互いを/見やることもなく」か。「見る」と「見やる」はどう違うか。「見やる」は「見る+やる」。ひとつ、「動詞」が多い。動きが多い。そのために「見る」よりも、「視線」の方向性を強く感じる。「見る」だけではなく、視線を動かす「意識」を感じる。これが「互い」と深くからみあう。
 「ひとかたまり」なのに、「互いを/見やることもない」。
 なぜだろう。
 「互い」を知っているから、「見やる」必要がない。
 二連目は、こう展開する。

ふところには
不幸せ色にしか見えない
幸せを忍ばせて
焦点の定まらない
天を仰いで
歌うでもなく
語るでもなく
ヒヨドリの
鳴き声に合わせて
おさな児たちの
隠れんぼよろしく
もういいかい
ペンペン草の花が
咲いた

 ここには「見えない」という否定形の動詞。
 「見えない」けれど、「見える」ものがある。「知っている」ものがある、「わかっている」ものがある、ということ。「見る」必要がない。「見えない」というよりも、「見ない」だろうなあ。
 「見やることもなく」と重なる。
 なぜ、「見ない」のか。
 理由はふたつ。
 ひとつは、「ふところ」。それは、外からは「見えない」。だから「見ない」。
 そして、もうひとつは「ふところ」というのは、自分では「わかっている」から。「わかっている」から「見ない」。「ふところ」を「見る」は「確かめる」。「確かめる」必要がないくらいに、はっきりわかっている。
 あるいは、これに三つ目の理由をつけくわえてもいい。
 「ふところ」は、外からは「見ない」と書いたが、これを踏まえて二連目の書き出しを言いなおすと、

「外からは」不幸せ色にしか見えない、けれど
ふところには
幸せ「色」を忍ばせて

 ということになる。「忍ばせる」は「隠す」であり、「見えないようにする」でもある。それは「隠す」ではなく、「見せる必要はない」と言いなおした方がいい。自分がわかっていればいい。そして、実際に、わかっている。
 「ひとかたまり」のぺんぺん草。それは互いに、自分の「幸せ」を知っている。他人にみせびらかしたりはいない。
 「隠す(忍ぶ)」は、詩の最後の方で「隠れんぼ」ということばのなかに、そっと姿をあらわしている。「隠れる/隠す(忍ぶ/忍ばせる)」は、楽しい。見つけたい人だけが見つければいい、ということだろう。
 「見つけたい」には「意思」がある。それが「見やる」ということばと通じている。



*

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