山下修子「花は何処」(「飛脚」20、2018年04月25日発行)
山下修子「花は何処」は、国有留保地をめぐる詩。「戦時をになう医療施設と兵站基地」をつくろうとしている。山下は、それに反対している。
その中ほど(後半だが)。
こんなところに感心していたら、山下から「主旨が違う」と言われるかもしれないが、私はこの部分が好きだなあ。
「名前すら知らない」。ここに感動した。感動というか、はっと気づかされた。「知らない」という「動詞」をきちんとつかっている。
「知らない」は直接的には、「植物の名前」を知らないということだが、ほかにも「知らない」ことはたくさんある。
「おまえら」と山下らに罵声を浴びせるひとは、「山下の名前」を知らない。罵声にめげずに意思表示する山下らは、「罵声を浴びせるひとの名前」を知らない。さらには、そこに医療施設が完成したとき、その「施設に入るひとの名前」も知らない。そこで「死んでいくひと名前」も知らない。
「名前を知らない」は「存在を知らない」に通じる。
そして、その「知らない」の向こう側には、「戦場で起きていることも知らない」がつながっている。「戦争が起きたらどうなるか知らない」もつながっている。
「知らない」ことばかりが、世界にあふれている。「知らない」ことを、どうやって「実感」に変えていくか。「知っている」に変えていくか。これは、むずかしい。
むしろ逆に考えるのがいいのかもしれない。
「知らない」ということのすばらしさを共有する方がいい。「戦争で何が起きているか知らない」「医療施設にだれが運ばれてきたのか知らない」。その「知らない」にはふたつの、あり方がある。「起きているのに知らない」と、「起こさないことによって、それを知り得ない」という方法。これは、「知らない」ではなく、そういうことが起きないようにするということでもある。
「知らない」というのは、「ない」があるために、否定的な意味になりがちだが、肯定に変えることもできるはずだ。
そういうことを、山下は訴えているのだと思う。
できるなら、移植されず、保護されず、ただあるがままの「知らない」がいいなあ。雑草を、だれにも見向きもされない花という呼び方があるが、いいじゃないだろうか。だれに知られる必要があるだろうか。「知られない」ままでいい。生きているのがいちばんいい。「知らない人間(無名)」になるために、山下はプラカードをかかげているのだと思う。「御霊」になって、知られるなんて、いやだよ、という声が聞こえる。「御霊」になる前に、「プラカードをかかげていた山下」という具合に、「名前」が「登録される(知られる)」というのも、いやだね。しかし、そういう状況へ、一歩一歩近づいているね。こわいのは、そうやって「知られてしまう(登録されてしまう)」と、何と言えばいいのか、逆に「存在」は抹殺される。「名前がある」から尊重されるではなく、「名前」ごと消され、永久に知られなくなるということが起きるんだけれどね。
「知る/知られる」という動詞を動かすだけで、いろいろなことが、みえてくる。動詞は必ず動かしてみないといけない。動詞と一緒に、自分の肉体を動かして確かめないといけない。
*
評論『ことばと沈黙、沈黙と音楽』を発行しました。190ページ。
谷川俊太郎の『聴くと聞こえる』についての批評をまとめたものです。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168073455
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ここをクリックして2000円(送料、別途250円)の表示の下の「製本のご注文はこちら」のボタンをクリックしてください。
「詩はどこにあるか」4月の詩の批評を一冊にまとめました。186ページ
詩はどこにあるか4月号注文
オンデマンド形式です。一般書店では注文できません。
注文してから1週間程度でお手許にとどきます。
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以下の本もオンデマンドで発売中です。
(1)詩集『誤読』100ページ。1500円(送料250円)
嵯峨信之の詩集『時刻表』を批評するという形式で詩を書いています。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168072512
(2)評論『中井久夫訳「カヴァフィス全詩集」を読む』396ページ。2500円(送料450円)
読売文学賞(翻訳)受賞の中井の訳の魅力を、全編にわたって紹介。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168073009
(3)評論『天皇の悲鳴』72ページ。1000円(送料250円)
2016年の「象徴としての務め」メッセージにこめられた天皇の真意と、安倍政権の攻防を描く。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168072977
問い合わせ先 yachisyuso@gmail.com
山下修子「花は何処」は、国有留保地をめぐる詩。「戦時をになう医療施設と兵站基地」をつくろうとしている。山下は、それに反対している。
その中ほど(後半だが)。
計画に並行して実施された 植生調査では
貴重な品種があって 移植されたという
オハイオの森を擬した 二次林ながら
アカショウビンが飛来し
オオタカの餌場にもなっていた
レッドデータブックの絶滅危惧種が
自生していても 不思議ではなかろう
「おまえら--」と発する人も
「戦争なんかやめろ」と 意思表示する私たちも
保留地にあった植物の 名前すら知らない
こんなところに感心していたら、山下から「主旨が違う」と言われるかもしれないが、私はこの部分が好きだなあ。
「名前すら知らない」。ここに感動した。感動というか、はっと気づかされた。「知らない」という「動詞」をきちんとつかっている。
「知らない」は直接的には、「植物の名前」を知らないということだが、ほかにも「知らない」ことはたくさんある。
「おまえら」と山下らに罵声を浴びせるひとは、「山下の名前」を知らない。罵声にめげずに意思表示する山下らは、「罵声を浴びせるひとの名前」を知らない。さらには、そこに医療施設が完成したとき、その「施設に入るひとの名前」も知らない。そこで「死んでいくひと名前」も知らない。
「名前を知らない」は「存在を知らない」に通じる。
そして、その「知らない」の向こう側には、「戦場で起きていることも知らない」がつながっている。「戦争が起きたらどうなるか知らない」もつながっている。
「知らない」ことばかりが、世界にあふれている。「知らない」ことを、どうやって「実感」に変えていくか。「知っている」に変えていくか。これは、むずかしい。
むしろ逆に考えるのがいいのかもしれない。
「知らない」ということのすばらしさを共有する方がいい。「戦争で何が起きているか知らない」「医療施設にだれが運ばれてきたのか知らない」。その「知らない」にはふたつの、あり方がある。「起きているのに知らない」と、「起こさないことによって、それを知り得ない」という方法。これは、「知らない」ではなく、そういうことが起きないようにするということでもある。
「知らない」というのは、「ない」があるために、否定的な意味になりがちだが、肯定に変えることもできるはずだ。
そういうことを、山下は訴えているのだと思う。
水ぬるむ季節をまえに
移植され 保護された植物はどこかで
小さな花でも 咲かせているだろうか
できるなら、移植されず、保護されず、ただあるがままの「知らない」がいいなあ。雑草を、だれにも見向きもされない花という呼び方があるが、いいじゃないだろうか。だれに知られる必要があるだろうか。「知られない」ままでいい。生きているのがいちばんいい。「知らない人間(無名)」になるために、山下はプラカードをかかげているのだと思う。「御霊」になって、知られるなんて、いやだよ、という声が聞こえる。「御霊」になる前に、「プラカードをかかげていた山下」という具合に、「名前」が「登録される(知られる)」というのも、いやだね。しかし、そういう状況へ、一歩一歩近づいているね。こわいのは、そうやって「知られてしまう(登録されてしまう)」と、何と言えばいいのか、逆に「存在」は抹殺される。「名前がある」から尊重されるではなく、「名前」ごと消され、永久に知られなくなるということが起きるんだけれどね。
「知る/知られる」という動詞を動かすだけで、いろいろなことが、みえてくる。動詞は必ず動かしてみないといけない。動詞と一緒に、自分の肉体を動かして確かめないといけない。
*
評論『ことばと沈黙、沈黙と音楽』を発行しました。190ページ。
谷川俊太郎の『聴くと聞こえる』についての批評をまとめたものです。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168073455
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ここをクリックして2000円(送料、別途250円)の表示の下の「製本のご注文はこちら」のボタンをクリックしてください。
「詩はどこにあるか」4月の詩の批評を一冊にまとめました。186ページ
詩はどこにあるか4月号注文
オンデマンド形式です。一般書店では注文できません。
注文してから1週間程度でお手許にとどきます。
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以下の本もオンデマンドで発売中です。
(1)詩集『誤読』100ページ。1500円(送料250円)
嵯峨信之の詩集『時刻表』を批評するという形式で詩を書いています。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168072512
(2)評論『中井久夫訳「カヴァフィス全詩集」を読む』396ページ。2500円(送料450円)
読売文学賞(翻訳)受賞の中井の訳の魅力を、全編にわたって紹介。
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(3)評論『天皇の悲鳴』72ページ。1000円(送料250円)
2016年の「象徴としての務め」メッセージにこめられた天皇の真意と、安倍政権の攻防を描く。
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