GSOMIA失効回避
自民党憲法改正草案を読む/番外304(情報の読み方)
2019年11月23日の読売新聞(西部版・14版)の一面、
GSOMIA失効回避/韓国が方針転換/日本 輸出管理 対話再開
という見出し。たぶん、どの新聞でも同じようなトーンだと思う。
私には、このニュースがさっぱりわからない。
見出しだけ読むと、韓国が方針転換をしたために、それを評価して日本側が輸出管理問題での対話再開に応じることにした、と読める。韓国側が「折れた(譲歩した)」から、日本がそれを評価して態度を緩めた、と。
しかし、どうなんだろう。
「外交」は、そんな簡単に、一方が勝利し、他方が負けたというような「簡単明瞭」な「合意」などしないだろう。読み方しだいでは「逆」にも読めるというのが「外交」の基本ではないだろうか。つまり、玉虫色。それぞれの「国民」が納得できるような「合意(文書)」にするというのが基本であると思う。
読売新聞の記事の「前文」には、こう書いてある。(番号は、私がつけた。)
①韓国政府は22日、破棄を決定していた日韓の軍事情報包括保護協定(GSOMIA=ジーソミア)について、23日午前0時の期限を目前に、失効を回避することを決めた。②輸出管理を巡る日韓政府の対話の引き換えに方針転換した。
たしかに、新聞の見出しのように①GSOMIA失効回避した②その結果、日韓の輸出管理問題の対話が再開される、と読むことができる。
でも。
①の「韓国がGSOMIA失効を回避することを決めた」というのは、日本語として奇妙な表現ではないだろうか。
私は「回避(する)」ということばは、こんなふうにはつかわない。
私が「回避(する)」ということばをつかうならば、日本がGSOMIAが失効してしまうのではないかと心配していたが、その不安は回避された、と書く。「回避する」ではなく「回避された」。つまり、受け身。
①の見出しと記事がつたえているのは、日本は安心した(日本にとって好都合だ)ということであって、韓国を主語にすると、違う「文章」になるのではないか。
一面の「韓国大統領の発表ポイント」という箇条書きの部分を読むと、こう書いてある。
③韓国は、日韓のGSOMIAの破棄通告の効力を停止
④韓国はGSOMIAをいつでも終了可能
「失効回避」という表現は見当たらない。韓国は「失効」を「回避」したのではなく、単に「破棄通告を停止」したのであって、いつでもGSOMIAを終了できる(破棄できる)ということにすぎない。これでは、単なる「保留」である。たぶん、文は、韓国民にそう説明するだろう。
では、なぜ「保留(停止)」したのか。②が理由である。日本が輸出管理についての対話を再開すると「譲歩」したから、その譲歩と引き換えに「方針転換した」。②は①の結果ではなく、②が初めにあって、その結果として①がある。読売新聞の前文にも「引き換え」という表現がかつわれていた。「引き換え」の主語は、韓国である。(韓国がGSOMIA破棄を停止したから日韓の対話が再開するのではない。日本が対話再開へ譲歩したから、それと引き換えにGSOMIA破棄を停止した。)
文の方から言わせれば、
日韓輸出管理の対話再開/日本が方針転換/GSOMIA破棄通告を停止
という見出しになるだろう。つまり、文は、韓国国民向けには、そう説明するだろう。それは文が発表した「ポイント」からも、そう理解できる。
⑤韓国政府は、日韓の輸出管理を巡る協議が正常に続いている間、WTOへの提訴手続きを停止
ここにもGSOMIAと同じ「停止(する)」という主体的な動詞がつかわれている。そして、そこには「日韓の輸出管理を巡る協議が正常に続いている間」という条件がきちんと書かれている。この条件は③にもそのまま流用できる。つまり、③は、
日韓の輸出管理を巡る協議が正常に続いている間、韓国は、日韓のGSOMIAの破棄通告の効力を停止(する)
であり、④は
日韓の輸出管理を巡る協議が正常に続かないならば(協議が中断するならば)、韓国はGSOMIAをいつでも終了可能(一方的に、終了することができる、韓国はGSOMIA破棄を再通告する)
である。
「真相」はわからないが、私のような「外交」のシロウトでも、そう読み直すことができる「合意内容」になっている。
「外交」というのは、いわば、どういう「国内向けの発表」ができるか、ということがいちばんの問題点なのである。
安倍は、安倍の都合のいいように「日本向け」の「ことば(論理)」を発表したにすぎない。
日米貿易交渉などを見ていると、安倍の「発表」をそのまま信じていいかどうか、わからない。疑ってかかる必要があるだろう。
いちばん興味深いのは、日本政府発表の「ポイント」の最後に、こういう文章があることだ。
⑥茂木外相が韓国人元徴用工訴訟問題について、韓国に「国際法違反」の是正を強く要請
これが興味深いのは、「徴用工問題」がやはり最後まで残るということ。言い換えると、今回の問題は徴用工訴訟が原因だったということだろう。徴用工訴訟が引き金になって、日韓関係がこじれた。これが解決しないかぎり、日韓正常化はありえない。
さらに。
この⑥だけ、主語が「茂木外相」と個人名であることに、私は、思わず笑いだしてしまった。
それまでは「韓国」「韓国政府」「日本」「日本政府」と表記していたのが、ここでは「茂木外相」になっている。つまり、「日本」「日本政府」とは発表できなかったのだ。
水面下の交渉は、私にはわからないが、私はわからないからこそ「妄想」する。
アメリカが日本に圧力をかけた。それで日本がしかたなく応じた。でも、徴用工問題がまた障碍になる。なんとかしたい。なんとか日本の主張を入れたい。でも「日本(政府)」としてしまうと、アメリカになにか言われそう。「茂木外相」にしてしまえ。
ほら、いつもの安倍の行動パターンがここにみてとれる。
「悪いのは私ではない。私は何もしていない。徴用工問題を主張しているのは茂木だ」と、いざとなったら言い逃れるための「口実」を、早くも準備しているのだ。
だいたい
GSOMIA失効回避
という「見出し」そのものがあいまいなのだ。だれが失効させるのか。執行されたら困るのはだれなのか。GSOMIAそのものに、人間のように「失効する(させる)」「回避する(させる)」という「主体的」能力はない。
きちんとした「意味」にするためには、「主体(主語)」がひつようなのに、それがない。見出しそのものが安倍の意向を受けて「玉虫色」になっているのだ。
#安倍を許さない #憲法改正 #天皇退位
*
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自民党憲法改正草案を読む/番外304(情報の読み方)
2019年11月23日の読売新聞(西部版・14版)の一面、
GSOMIA失効回避/韓国が方針転換/日本 輸出管理 対話再開
という見出し。たぶん、どの新聞でも同じようなトーンだと思う。
私には、このニュースがさっぱりわからない。
見出しだけ読むと、韓国が方針転換をしたために、それを評価して日本側が輸出管理問題での対話再開に応じることにした、と読める。韓国側が「折れた(譲歩した)」から、日本がそれを評価して態度を緩めた、と。
しかし、どうなんだろう。
「外交」は、そんな簡単に、一方が勝利し、他方が負けたというような「簡単明瞭」な「合意」などしないだろう。読み方しだいでは「逆」にも読めるというのが「外交」の基本ではないだろうか。つまり、玉虫色。それぞれの「国民」が納得できるような「合意(文書)」にするというのが基本であると思う。
読売新聞の記事の「前文」には、こう書いてある。(番号は、私がつけた。)
①韓国政府は22日、破棄を決定していた日韓の軍事情報包括保護協定(GSOMIA=ジーソミア)について、23日午前0時の期限を目前に、失効を回避することを決めた。②輸出管理を巡る日韓政府の対話の引き換えに方針転換した。
たしかに、新聞の見出しのように①GSOMIA失効回避した②その結果、日韓の輸出管理問題の対話が再開される、と読むことができる。
でも。
①の「韓国がGSOMIA失効を回避することを決めた」というのは、日本語として奇妙な表現ではないだろうか。
私は「回避(する)」ということばは、こんなふうにはつかわない。
私が「回避(する)」ということばをつかうならば、日本がGSOMIAが失効してしまうのではないかと心配していたが、その不安は回避された、と書く。「回避する」ではなく「回避された」。つまり、受け身。
①の見出しと記事がつたえているのは、日本は安心した(日本にとって好都合だ)ということであって、韓国を主語にすると、違う「文章」になるのではないか。
一面の「韓国大統領の発表ポイント」という箇条書きの部分を読むと、こう書いてある。
③韓国は、日韓のGSOMIAの破棄通告の効力を停止
④韓国はGSOMIAをいつでも終了可能
「失効回避」という表現は見当たらない。韓国は「失効」を「回避」したのではなく、単に「破棄通告を停止」したのであって、いつでもGSOMIAを終了できる(破棄できる)ということにすぎない。これでは、単なる「保留」である。たぶん、文は、韓国民にそう説明するだろう。
では、なぜ「保留(停止)」したのか。②が理由である。日本が輸出管理についての対話を再開すると「譲歩」したから、その譲歩と引き換えに「方針転換した」。②は①の結果ではなく、②が初めにあって、その結果として①がある。読売新聞の前文にも「引き換え」という表現がかつわれていた。「引き換え」の主語は、韓国である。(韓国がGSOMIA破棄を停止したから日韓の対話が再開するのではない。日本が対話再開へ譲歩したから、それと引き換えにGSOMIA破棄を停止した。)
文の方から言わせれば、
日韓輸出管理の対話再開/日本が方針転換/GSOMIA破棄通告を停止
という見出しになるだろう。つまり、文は、韓国国民向けには、そう説明するだろう。それは文が発表した「ポイント」からも、そう理解できる。
⑤韓国政府は、日韓の輸出管理を巡る協議が正常に続いている間、WTOへの提訴手続きを停止
ここにもGSOMIAと同じ「停止(する)」という主体的な動詞がつかわれている。そして、そこには「日韓の輸出管理を巡る協議が正常に続いている間」という条件がきちんと書かれている。この条件は③にもそのまま流用できる。つまり、③は、
日韓の輸出管理を巡る協議が正常に続いている間、韓国は、日韓のGSOMIAの破棄通告の効力を停止(する)
であり、④は
日韓の輸出管理を巡る協議が正常に続かないならば(協議が中断するならば)、韓国はGSOMIAをいつでも終了可能(一方的に、終了することができる、韓国はGSOMIA破棄を再通告する)
である。
「真相」はわからないが、私のような「外交」のシロウトでも、そう読み直すことができる「合意内容」になっている。
「外交」というのは、いわば、どういう「国内向けの発表」ができるか、ということがいちばんの問題点なのである。
安倍は、安倍の都合のいいように「日本向け」の「ことば(論理)」を発表したにすぎない。
日米貿易交渉などを見ていると、安倍の「発表」をそのまま信じていいかどうか、わからない。疑ってかかる必要があるだろう。
いちばん興味深いのは、日本政府発表の「ポイント」の最後に、こういう文章があることだ。
⑥茂木外相が韓国人元徴用工訴訟問題について、韓国に「国際法違反」の是正を強く要請
これが興味深いのは、「徴用工問題」がやはり最後まで残るということ。言い換えると、今回の問題は徴用工訴訟が原因だったということだろう。徴用工訴訟が引き金になって、日韓関係がこじれた。これが解決しないかぎり、日韓正常化はありえない。
さらに。
この⑥だけ、主語が「茂木外相」と個人名であることに、私は、思わず笑いだしてしまった。
それまでは「韓国」「韓国政府」「日本」「日本政府」と表記していたのが、ここでは「茂木外相」になっている。つまり、「日本」「日本政府」とは発表できなかったのだ。
水面下の交渉は、私にはわからないが、私はわからないからこそ「妄想」する。
アメリカが日本に圧力をかけた。それで日本がしかたなく応じた。でも、徴用工問題がまた障碍になる。なんとかしたい。なんとか日本の主張を入れたい。でも「日本(政府)」としてしまうと、アメリカになにか言われそう。「茂木外相」にしてしまえ。
ほら、いつもの安倍の行動パターンがここにみてとれる。
「悪いのは私ではない。私は何もしていない。徴用工問題を主張しているのは茂木だ」と、いざとなったら言い逃れるための「口実」を、早くも準備しているのだ。
だいたい
GSOMIA失効回避
という「見出し」そのものがあいまいなのだ。だれが失効させるのか。執行されたら困るのはだれなのか。GSOMIAそのものに、人間のように「失効する(させる)」「回避する(させる)」という「主体的」能力はない。
きちんとした「意味」にするためには、「主体(主語)」がひつようなのに、それがない。見出しそのものが安倍の意向を受けて「玉虫色」になっているのだ。
#安倍を許さない #憲法改正 #天皇退位
*
「天皇の悲鳴」(1000円、送料別)はオンデマンド出版です。
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