高柳誠『フランチェスカのスカート』(11)(書肆山田、2021年06月05日発行)
「鏡」。町から鏡が消えた。排斥運動が起きたのだ。
鏡とは何か。
おのれの内面のおぞましさを強調して映し出す偽りの道
具。見る者をたらしこんで、自己愛を肥大させる退嬰への誘惑。左
右を反転させることで現実への認識力を奪う欺瞞の坩堝。
高柳好みのことばが一気に書かれている。「内面」「偽り」「反転」。どれがキーワードだろうか。「鏡」以外にも通用することばがキーワードだと考えた方がいいだろう。ほかの何かを書いたときでも「無意識」に出てきてしまう高柳の肉体になってしまっていることば。
「強調して」の「強調する」ということばがキーワードであると私は読んだ。
そこにあるものを「強調する」。いままで見過ごされてきたものにスポットをあて、それを増幅させる。
その結果として、たとえば「退嬰への誘惑」「欺瞞の坩堝」ということばがある。「自己愛を肥大させる」では不十分。「現実への認識力を奪う」では不十分。だから「自己愛を肥大させる退嬰への誘惑」と書き、「現実への認識力を奪う欺瞞の坩堝」と書く。それは比喩か、象徴か。いずれにしろ、過剰なことばの運動である。
詩は、過剰なことばの運動のことなのである。
その過剰さは、鏡を排斥したあと、鏡ではないものを鏡にしてしまう、というところまで進む。
雨上がりの晴れ間、つかの間できた水たまりについう
っかりおのれのすがたを映し出してみない人など、一人としている
わけもないのだ。
それは「偽りの鏡」(偽物の鏡)であり、「反転した認識」であることによって、意識(内面)がつくりだししてしまう「現実」、ということができる。
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