詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

星野元一『村、があった』

2021-07-19 10:10:15 | 詩集

星野元一『村、があった』(蝸牛舎、2021年07月01日発行)

 星野元一『村、があった』はタイトル通りの詩集である。かつて村があった。村と呼ばれる場があった。しかし、いまは失われてしまった。
 村、とはどんな場だったか。
 どの詩を引用しようか迷うが、巻頭の「フキノトウ」。

  重たい雪の
  布団をおしあげ
  フキノトウが顔をだしている

 私も雪国育ちなので、この風景にはなじみがある。いまは九州に住んでいるので、こういうフキノトウは見たことがないが、子供のときに見たフキノトウはこういう姿である。

  フキノトウは
  オタマジャクシだ
  楽譜の
    オヒサマガヤッテクルゾォー
  ピッコロのような声をはりあげ
  ツクシやスミレたちの目や鼻をひっぱり
  スズメノテッポウや
  キツネノボタンたちの顎や脇の下をくすぐり
  春の便りを
  村のポストに入れにいった

 「フキノトウは/オタマジャクシだ」に、私は驚いた。そんなふうに思ったことは一度もないからだ。このオタマジャクシが「楽譜」にかわるのも新鮮だ。星野は音を聞いていたのだ。春の歓喜の声を。
 この声は、次の連で、またまたびっくりするような変化をみせる。

  フキノトウは
  チンチンだ
  朝の
  障子をやぶり
  玄関をとび出し
    ドコニイルー
  イヌフグリやネツケバナたちをばら蒔き
  鯉のぼりたちをはらませ
  山羊や牛たちのおっぱいをふくらませ
  町の方に産婆さんを呼びにいった

 いいなあ。チンチンか。そうなのだ、村では、何もかもが許されている。「太陽の季節」なんて、貧弱の極み。イヌフグリ、ネツケバナ。その、声。肉声。はらませる。おっぱい。すべてが自然の輝きに満ちる。その輝きは太陽の反射ではなく、生きているいのちが発する光。
 村では、みんな生きている。

  フキノトウは
  ロケットだ
    ハッシャー
  おしっこをとばし
  冠や首飾りのレンゲソウの海をわたり
  学校や役場や山をとびこえ
  口を開けた女の子たちや
  腰の曲がったばあちゃんたちの笑顔をのせ
  道端の田んぼのあたりで墜落してしまった

 村に「倫理」とか「道徳」というものがあったとすれば、それは肉体自身が持っている規律である。他人なんか関係ない。そして、肉体ができることというのは、みんな同じ。だから区別も差別もない。
 最初のオタマジャクシは「楽譜」だけれど、もちろんオタマジャクシは楽譜だけではない。チンチンはみんなオタマジャクシを持っている。二連目にはスズメノテッポウなんていう草も出てくる。ハッシャはハッポウ。ことばはあっちこっちで呼応している。
 しかし、こんな説明なんか、いらないね。
 それが「村」という場、「村」という時間だ。

 

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