日原正彦「ペン」(「橄欖」121、2021年06月30日発行)
日原正彦「ペン」を読んだ。
深夜の卓に
置かれているペン
置かれたまま ねむっているペン
夢を見ているペン
再び書き始められるその最初の一文字を
夢見ているペン
けれど このペンを再び握る手は
もう ないのだ
ペンよ せめて目覚めるな
この「ペンよ せめて目覚めるな」とペンの持ち主に「安らかに眠れ」と呼び掛けているようで美しい。「目覚めるな」の否定形の命令が切実である。
さて。
ことばは、これからどうするべきなのか。
ここで終わりにするか、まだ何か書いてしまうか。
日原は書いている。
書かれなかった夥しい文字が
星くずのように
君の頭上にきらめいている
「君」を登場させたのに、主役が「君」ではなく日原になってしまっている。「書かれなかった夥しい文字」を日原は読むことができると言っている。それも「星くず」が「きらめいている」という姿で。ああ、これでは日原の宣伝ではないか。
「書かれなかった文字」ではなく、「君」が「書き残した文字(ことば)」が星空を走っていく様子を書かなければ「君」を思い出していることにはならないだろう、と私は思う。あのことばにもうつづきはないのだ、と読者に感じさせなければ、「君」の存在がつたわらない。
私は日原の作品を、私が高校生だったころから知っているが、いつまでたっても「美しさ」という名の不潔を感じてしまう。
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