詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

日原正彦「ペン」

2021-07-03 20:15:42 | 詩(雑誌・同人誌)

日原正彦「ペン」(「橄欖」121、2021年06月30日発行)

 日原正彦「ペン」を読んだ。

  深夜の卓に
  置かれているペン
  置かれたまま ねむっているペン
  夢を見ているペン
  再び書き始められるその最初の一文字を
  夢見ているペン

  けれど このペンを再び握る手は
  もう ないのだ

  ペンよ せめて目覚めるな

 この「ペンよ せめて目覚めるな」とペンの持ち主に「安らかに眠れ」と呼び掛けているようで美しい。「目覚めるな」の否定形の命令が切実である。
 さて。
 ことばは、これからどうするべきなのか。
 ここで終わりにするか、まだ何か書いてしまうか。
 日原は書いている。

  書かれなかった夥しい文字が
  星くずのように
  君の頭上にきらめいている

 「君」を登場させたのに、主役が「君」ではなく日原になってしまっている。「書かれなかった夥しい文字」を日原は読むことができると言っている。それも「星くず」が「きらめいている」という姿で。ああ、これでは日原の宣伝ではないか。
 「書かれなかった文字」ではなく、「君」が「書き残した文字(ことば)」が星空を走っていく様子を書かなければ「君」を思い出していることにはならないだろう、と私は思う。あのことばにもうつづきはないのだ、と読者に感じさせなければ、「君」の存在がつたわらない。
 私は日原の作品を、私が高校生だったころから知っているが、いつまでたっても「美しさ」という名の不潔を感じてしまう。

 


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池田清子「離れ」、青柳俊哉「膚」、徳永孝「演歌」

2021-07-03 20:14:06 | 現代詩講座

池田清子「離れ」、青柳俊哉「膚」、徳永孝「演歌」(2021年06月21日、朝日カルチャーセンター福岡)

 受講生の作品。

  離れ  池田清子

  奥に長―い土地だった
  母屋に、伯母と五人の従兄姉たち
  離れに、私と兄と両親
  中庭と廊下でつながっていた
  きょうだいのように遊んだ
  楽しかった、大好きだった

  ♪貴様と俺とは同期の桜~♪
  兄が歌っていると
  「その歌は二度と歌うな」と
  従兄が激しく怒った
  伯父は硫黄島で戦死していた
  戦後何年も経つのに
  私達はまだ軍歌を歌っていたのだ

  中2の時に引っ越しをした
  少しずつ遠くなり、淋しかった

  私は、生まれた時から皆なの中にいたけれど
  従兄姉たちにとっては、
  離れで生まれた小さな従妹

  中庭をはさんで、
  どんな思いで離れを見ていたんだろう

  私達は、父親のいる核家族だった

 思い出を描いているのだが、ことばの選び方に気配りが感じられる。一連目「母屋に、伯母と五人の従兄姉たち」とある。しっかり読めば、そこに伯父はいないが、だれかの家をあらわすとき「伯父の家」「伯母の家」とどちらかひとりを代表させていうことはある。作者の意識次第で、「伯父」になったり、「伯母」になったりする。そのつぎの行に「両親」が出てきてはじめて、あ、「伯母」はいるけれど「伯父」はいないのだ、とかすかにわかる。しかし、一連目の印象は、それよりも「従兄姉たち」と「私と兄」が「きょうだいのように遊んだ」という楽しい記憶の方に引っ張られる。楽しい思い出が書いてあるのだと思って読み始める。
 二連目で「伯父」が不在の理由が明らかにされる。戦死した。「私」には、「戦死」というものがどういうものかはっきりとは認識されていない。兄もそうである。しかし「従兄」は認識している。
 それは五連目で、言いなおされる。認識の違いは「戦死」だけではない。「戦死」にともなう父の不在、他方には父がいる。「きょうだい」のように遊んでいても、そこには何かしらの「認識」のちがいがあったのだ。
 最終連「私達は、父親のいる核家族だった」と、ここにだけ「父親」ということばが出てくる。それがぼんやりと死を読んできたこころに突き刺さる。ひとはだれかを傷つけようと思って何かをするわけではないが、そういうことであっても傷つくひとはいる。何もしなくても、父親がいる、という当たり前のことがひとを傷つけることもある。
 池田は、そういうことを理屈っぽく説明するのではなく、「父親」ということばを最後にぽつんと書くことで語っている。多くのひとが経験してきた「歴史」だと思うが、たんたんと書き、説明を加えずに、「伯母と五人の従兄姉たち」の悲しみを描いているところがいい。
 タイトルの「離れ」も印象的だ。同じ敷地。でも建物が違い、「家庭/家族」が違う。違いを抱えて生きることの悲しみが、静かに、そこにある。

  膚(はだ)  青柳俊哉

  白い雨中に散る桜もみえず
  微光のふる地下の街へ降りていく 

  黄色い灯の下でコーヒーを啜るきのうのわたし 
  行き交う人の誕生と死をおもい 
  初めての夜の叫びと最後の朝の灯の唇をおもい 
  移りいく命の光芒をみつめる 

  裸木に枯葉は色づき 
  蝉は蛙に声部を変え 
  桜の中に白い雨が散っている 
  黄色いわたしも雨中に織られる一続きの膚 

  時の生地に命をしるし 無限の中へ織り込まれていく
  単衣のうえの微光の膚をみつめる

  二連目の「きのうのわたし」が、この詩に遠近感を与えている。自分自身のなかにある過去。それをみつめるとき見えてくる「人の誕生と死」のあり方は、「きょうのわたし」しか意識しないときとでは、かなり違う。「きのう」わたしは生まれ、「あした」わたしは死ぬかもしれない。時間を「物理的」にとらえればそういうことは起きないが、「意識(形而上学)的」にとらえれば、ありうる。時間の「距離感」は「意識」のなかにしかない。
 「時間」のなかで何が起きているか。生と死はどう結びついて「時間」をつくっているのか。「時間」とは「時(誕生)」と「時(死)」の「間」のことである。青柳は「黄色いわたしも雨中に織られる一続きの膚」と書いている。何と一続きか。「裸木」「変える」「桜」「白い雨」。世界に存在するものと「一続き」なのである。
 「一つ」であることが「無限」を認識させる。「一つ」であるから「無限」を認識できる。「織る」ということばが「単衣」の「衣」と結びつきながら、その「単」がもう一度「一つ」を引き寄せる。

  演歌 徳永孝

  TVでは昭和演歌が流れている
  おまえをおれのものにして
  一生とりこにしたいのさ
  黙っておれに従(つい)いてこい

  今を生きている私(わたくし)は
  あなたを私のものにして
  わたしの蜜でとろけさせ
  一生わたしの奴隷にしたいのよ

 時間のなかでひとは変化していく。「昭和」から「平成」を経て、「令和」の時代。ひとの生き方も変わらざるを得ない。「演歌」のなかに、徳永はその変化を見ている。昭和の時代は男が女をリードしていた。いまは女が男をリードしている。

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自民党憲法改正草案再読(4)

2021-07-03 10:30:40 |  自民党改憲草案再読

自民党憲法改正草案再読(4)

 天皇の権能と国事行為に関する条項は、変更箇所が入り組んでいて、私のような素人にはなぜこんな複雑な「改正」をするのかわからない。

(現行憲法)
第3条
 天皇の国事に関するすべての行為には、内閣の助言と承認を必要とし、内閣が、その責任を負ふ。
第4条
1 天皇は、この憲法の定める国事に関する行為のみを行ひ、国政に関する権能を有しない。
2 天皇は、法律の定めるところにより、その国事に関する行為を委任することができる。
第6条
1 天皇は、国会の指名に基いて、内閣総理大臣を任命する。
2 天皇は、内閣の指名に基いて、最高裁判所の長たる裁判官を任命する。

(改憲草案)
第5条(天皇の権能)
 天皇は、この憲法に定める国事に関する行為を行い、国政に関する権能を有しない。
第6条(天皇の国事行為等)
1 天皇は、国民のために、国会の指名に基づいて内閣総理大臣を任命し、内閣の指名に基づいて最高裁判所の長である裁判官を任命する。
(略)
4 天皇の国事に関する全ての行為には、内閣の進言を必要とし、内閣がその責任を負う。ただし、衆議院の解散については、内閣総理大臣の進言による。
5 第1項及び第2項に掲げるもののほか、天皇は、国又は地方自治体その他の公共団体が主催する式典への出席その他の公的な行為を行う。

 現行憲法の第3条は、改憲草案の第6条の4の位置に移動している。そして「内閣の女権と承認」が「内閣の進言」と書き直されている。さらに「衆議院の解散については、内閣総理大臣の進言による」が追加されている。
 いろいろな問題があるが、
①なぜ、「内閣の助言と承認を必要とし、内閣が、その責任を負ふ」を後回しにし、「国政に関する権能を有しない」を先に出したのか。さらに「承認を必要とし」をなぜ省略したのか。
 現行憲法を読む限り、天皇の行為の「責任は内閣にある」と読むことができる。「責任は内閣にある」のだから「権能はない」という論理である。   
 ところが改正草案では「権能はない」と言っておいて、あとで「内閣が責任を負う」という。これは、なんというか「後出しじゃんけん」のようなものである。問題が起きたら対処する、と言ってみせているだけである。
 「承認」というのは事前承認が基本だろう。事前には承認するかしないか明言しない。そして、何か問題が起きれば対処する。そういう「言い逃れ」を隠しているのが「(事前)承認を必要とする」を省いた理由だろう。
 「事前に進言はしたけれど、事前に承認はしていない。進言の内容を正確に把握し、実行できなかった天皇に責任がある」と言い逃れるつもりだろう。つまり、天皇を利用して何かをさせ、うまくいけば(批判が起きなければ)そのまま、批判されたら天皇が間違えたというつもりなのだ。
 「前文」に出てきた「元首」の定義は、たぶん、こういうことなのだ。「元首」として内閣が天皇を利用する、利用するために「元首」という肩書を与えておく。問題が起きれば、いつでも「元首」を取り替える。内閣は、そのまま存続させる。そういう「うさんくさい意図」が隠れている。

②「衆議院の解散については、内閣総理大臣の進言による」の追加は、いわゆる「7条解散(首相が好き勝手に衆院を解散する)は違憲である」という批判を踏まえ、そういう意見を封じ込めるためのものだろう。

③内閣総理大臣の任命と、最高裁判所長官の任命については、現行憲法は、項目を分離して規定している。しかし、改正案はひとまとめにしている。この意図は何だろうか。
 私は内閣総理大臣が交代したとき、内閣総理大臣が「自分が新しい総理大臣になったのだから、最高裁長官を新たに指名する」という方法を生み出すための条項ではないかと考えている。現行憲法では、内閣総理大臣が交代したからといって、最高裁判所長官が交代することはない。三権分立の観点から見れば、すでに存在している最高裁長官を交代させる理由はない。内閣総理大臣が交代するたびに最高裁長官が交代していたら、司法の独立は保たれないだろう。
 これが、たぶん自民党には気に食わないのである。司法は行政の指揮下に入るべきである。司法は行政にしたがうべきである、と自民党は考えている。「前文」にあった「行政及び司法」という表現を思い出したい。「行政=司法」が自民党の狙いである。見かけは三権分立だが、改憲草案の文言を丁寧に読み砕けば実際は司法は行政の支配下にあることがわかる。
 憲法では最高裁判所長官しか取り上げていないが、司法には「裁判」だけではなく「検察」も含まれるだろう。そう考えれば、つい最近起きた「黒川事件」が思い浮かぶだろう。安倍は黒川を検察庁長官にしようとした。そうすることで安倍へのあらゆる捜査を封じ込めようとした。そこに見られるのは「行政=司法(検察)」という認識である。行政の最高責任者の命令に従わないものは許さない、という姿勢である。
 これは、そして、「緊急事態条項」へつながっていく規定なのである。内閣総理大臣が思いのままに権力を行使し、批判を封じ込める。独裁を確立する。そのために司法を行政の支配下に置き、「行政=司法」を確立させる。「緊急事態条項」がなくても、それと同じことができる。実際に、そういうことを先取りしようとしたのが、「黒川事件」である。たまたま「賭けマージャン」が発覚したために、黒川検察庁長官は誕生しなかったが、それは「偶然」にすぎない。安倍は改憲草案の「理想」を実現しようとしていたのだ。
 「緊急事態条項」と密接に関係する変更は、「国事行為」に関する条項にも見ることができる。

(現行憲法)
第7条
 天皇は、内閣の助言と承認により、国民のために、左の国事に関する行為を行ふ。
 一 憲法改正、法律、政令及び条約を公布すること。
 二 国会を召集すること。
 三 衆議院を解散すること。
 四 国会議員の総選挙の施行を公示すること。
(改憲草案)
第6条(天皇の国事行為等)
1 (略、前項参照)
2 天皇は、国民のために、次に掲げる国事に関する行為を行う。
 一 憲法改正、法律、政令及び条約を公布すること。
 二 国会を召集すること。
 三 衆議院を解散すること。
 四 衆議院議員の総選挙及び参議院議員の通常選挙の施行を公示すること。

 「四」に「参議院議員の通常選挙の施行を公示」が付け加わっている。なぜだろうか。衆院選挙は「任期満了」によるものと「衆院解散」によるものとがある。つまり、「不定期」である。不定期なものは、きちんと「公示」しないと、いつあるか周知されない。ところが「参議院議員の通常選挙」という文言があらわしているように、参院選は「3年に一回(議席の半数ずつ交代)」と決まっている。知らない人は知らない人として、毎年1月1日が新年、4月1日が新年度のはじまりであると知っているのが「常識」である。そういうことを天皇がわざわざ公示しなくてもいい、というのが現行憲法の考えだろう。
 なぜ、「参院選公示」を加えたのか。「緊急事態条項」の最後に、こういう文言がある。

4 緊急事態の宣言が発せられた場合においては、法律の定めるところにより、その宣言が効力を有する期間、衆議院は解散されないものとし、両議院の議員の任期及びその選挙期日の特例を設けることができる。
 
 参議院議員の任期も変更になるし、当然選挙期日も変更になる。つまり「不定期」になる。「公示」しないと、いつが参院選がわからなくなる。
 些細に見える文言の変更も、全部、緊急事態条項につながっている。そして、「改正草案」は何度も何度も「先取り実施」されている。「先取り実施」を積み重ねることで、憲法改正が「現実の追認」という形になるように仕組まれているのがいまの政治なのだ。


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